遺構の門のたくらみ

「いったぁ……」

ザギと最も近い距離にいた、私が一番元いた場所から飛ばされていた。
体はもろに地面に叩きつけられて、全身の痛点が痛みを訴えているようだった。
ふっと髪を掻き揚げると、泥と少しの血が付着しているのに気づく。

治癒術を唱えながら、ふらつく足で地面を踏みしめると同様に飛ばされたジュディスが目に入る。

「大丈夫?」
「えぇ、それより。あの魔導器」

ジュディスも体をかばったせいか、足の太ももで地面をすったらしく、大量の血と青く腫れている。
私は先にジュディスに治癒術を掛けると「ありがとう」と早口で言われた。
ジュディスは自分の怪我のことよりも、大規模な爆発を起こしてくれたザギの魔導器が気になって仕方ないらしい。

「ああああああ!」

ザギが声を上げながら、走って図る。
「逃がさないわ」とジュディスが追おうとするが私は彼女の腕をつかんで引き止めた。

「ちょっと待って」

砂煙から見えるのはザギと戦っていた仲間たちの姿だけではない。
闘技場の見世物として捕まっていた魔物が脱走をして暴走を始めたのだ。今になって観客が混乱を始めて、まるで地獄のような助けを呼ぶ声が響く。
ジュディスも私の手を振り払うが、そのとき、私たちの前に突き飛ばされたエステルが倒れこむ。

「エステル!」
「大丈夫です」

私はチャクラムを抜き、エアルを充填する。
ジュディスもさすがにザギを追うのはあきらめたらしく、その苛立ちの矛先を魔物にぶつけるように切りつける。

「よくもエステルを覚悟なさい」
「……星の瞬き、無数の煌きよ、闇を浄化する光となせ」
「ロックブレイク!」
「レイ!」

私とリタの魔術は発動するはずだった、しかし。
術の完成と共に、私たちの発動した魔術は思った効力は発動せずに、光になって解けて消えたのだ。

「ちょっとどういうことよ」
「魔術が、発動しない?」

まさか、術式を間違えたなんてことはない。
いくらこんな状況であせっているからと言っても私とリタが同時に失敗するわけがないのだ。
リタの頭の回りは早く、すぐにエステルの肩をつかんだ。

「この箱のせい……?」

それは幽霊船から持って帰ってきた紅色の小箱で中は見えないのに、青白い光が漏れて見える。
「まさか幽霊の呪いとかだったりして」なんてふざけたとことを言うと、リタに一蹴される。
あの日記が正しければ中には澄明の刻晶が入っているという。
名前もどんなものかも見れていない、未知のものである。
もしかして、それが術式に何かの作用をもたらしたのかもしれない。

「……エステル!」

紅の小箱の光を見つめていたエステル。
その背後から人影が近づくのが見えて、私は叫んだが、一瞬遅かった。
「きゃあ」とエステルが悲鳴を上げると仲間がみな振り返った。
エステルを突き飛ばし、その手の小箱を奪い取った人物。
それは遺構の門のラーギィだった。
いつものおっとりとした態度はどこにいったか、動きは俊敏でいつもの誠実そうで優しいおじさんはどこにいったものか。

「あいつ……!」

リタが目を吊り上げて、追おうとするが、魔物が邪魔でそれは適わない。
ラピードとジュディスがラーギィを追ったのを砂煙の中で確認をしたが、果たして間に合うか。
「だから言ったのに……」と不満を漏らしながらも私はチャクラムを投げる。
そのときだ、会場中にフレンの声が響き渡り、騎士団の小隊が闘技場に踏み込んできたのは。

『騎士団に告ぐ!ソディアは小隊を指揮し、散った魔物の討伐にあたれ!』

どうやらアナウンサーのマイクを奪ったフレンが、指揮をしているようで、よく見知った顔が魔物と対峙している。
「客を避難させるのが先だろ」というユーリの呟きを見透かしていたかのように『残りは私と観客の護衛だ!魔物は一匹たりとも逃がすな』と追加で指令を下す。
ユーリはふっと笑うと

「ま、フレンなら考えているか。俺たちは行くぞ」
「ジュディスと犬っころが先にいったわよ」
「あぁ、お前らもいくぞ」
「レイヴン」

いまだ、弓を構え、魔物を打ち抜く彼に声をかけるとこちらに気づいたらしく、ウインク……うなづくので私は彼に駆け寄り、ラーギィを追う、と手短に行った。
先に行ってしまったユーリたちの後を追いながら、私たちは騎士団の姿を見ながら少しため息をついた。

「また厄介なことにならなきゃいいけどね」
「なるよ、絶対」

ギルド、戦士の殿堂が運営する闘技場に騎士団が介入していた。
その事実を考えると、ラーギィは透明の刻晶を盗んだことより大きな厄介ごとになるんじゃないか。
私とレイヴンはそんな先行きの心配をしながらも、ユーリたちの後を追った。


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