辿ってみても


「はぁあ……」
「お、エルちゃんじゃないの?どうしたの、そんなため息もらして」
「……」
「そんな顔されると凹むわ」

本当に顔に今の気持ちを表すと困ったように顎を撫でるレイヴン。
本当にタイミングを見計らって現れる彼には関心する。
前に聞いたときは女の子を慰めるとか何とか言っていたっけ(面倒なので以下略)

「本当はレイヴン、大反対なんだろうね」
「ん、何が?」
「エステルがフェローを追うこと」
「そんなの当たり前じゃない。本当に過激なお姫様でおっさん困ってるわ」
「あの、フェローの脅威、わかってるから?」

宿屋への帰り道を一緒に歩きながらレイヴンに言葉を掛けると、顎に手を当ててそれに答えるレイヴン。

「そりゃ、ダングレストをめちゃくちゃにしたからね」
「ふぅん、レイヴン、実はあの魔物を見るのは初めてじゃなかったり?」
「……急に何を言い出すのか、この子は」
「当たり、でしょ?」

急に立ち止まって目を細めて、じっとこちらを見るレイヴンにも笑いかけた。
カロルはともかくユーリもどこか分かりやすいし、レイヴンにいたっては女の子には嘘をつけません、とかそんな性格をしていそうだ。

「じゃなかったら、エステルのこともっと反対しそうだもん」
「俺は所詮、ギルドの人間だから帝国の姫様のことをどうとも思ってないとか考えない?」
「んー。それより。あの魔物のことをそれなりに知っていて、ある意味の脅威を感じてないとか。そっちの方が大きいかな」
「もー。おっさん、エルちゃんと話をしてると丸裸にされそう」
「ちょっと待ってね。今騎士団呼んで来るから」
「そういう意味じゃなくて、って本気でいこうとしないで」

私がふざけて歩き出すとさすがにまずいと感じたのかレイヴンさんがあわてて歩き出す。
レイヴンは作っているとはいえつくづくいじられキャラだと思う。
レイヴンが肩をつかんで「冗談だってばぁ」なんて苦笑いしかしなくなったから、私は宿屋の前に止まり、壁にもたれれかかる。

「ドンから聞いたなら、私のこと分かっているでしょ?」
「記憶喪失のこと?」
「フェローは私のことも知っていたような口ぶりだった。もしかしたら私の過去を知っているかも知れない。それにエステルのことも私一人がフェローと会うことで事足りる話じゃないかな」
「お嬢ちゃんはそれで納得するような性格じゃないでしょ。かなりの頑固者みたいだし」
「そうだね」

その通りだ。
もし、私が一人で行ってフェローに真相を聞きだして報告します、だなんていってもエステルは納得するわけがない。
自分の目で見、自分の耳で聞かないとと言い張るだろう。
良い意味でも悪い意味でも頑固者のエステル。

「それでも、もしかして私の記憶があったらなんて思うよ」
「エルちゃんがあの魔物のこと知ってるだなんてどこにそんな保障があるの?」
「それは、ないけど」
「じゃあ言ってもしゃーないんじゃない?それに可能性の話をいくら言ってもむだっしょ」
「うっわー。大人ってシビアだね」
「現実的といいなさいよ」

レイヴンの言うとおりで、私が知らない以上、時間を無駄にする話なのだ。
それでも、私が思い出すたびに喉に突っかかるような話なのだ。
私の癖、何かと不安になると、耳の魔導器の魔核を握り締める。
でも、それがない今だと空振りに終わり、むなしい気持ちにだけなる。

「エルちゃんの魔導器、いったいどこいったんだかね」

それを見て、思い出したようにレイヴンがぽつりとこぼす。

「ラゴウ、あれから行方不明らしいね」
「らしいね」

風の噂で聞いた、ラゴウの話。
ダングレストを出た形跡もなく、そのまま帝都にも戻った報告もなく評議会の人間が今必死になってその足取りを追っているという。
その話を聞いたギルドの人間は「死んだ」や「ほとぼりが冷めるまで姿を隠す気だ」なんて好き勝手に言っている。

「エルちゃんには辛いことばっかだね」
「本当、ついていない。お払いでも言ってこようかな」
「そのときはぜひ、青年も連れて行って欲しいわ」

確かに最近ついてないとか、憑かれているとか言っていたっけ。

「ラゴウ、ね」

本当は、今すぐでもそちらを確かめにダングレストに戻りたいけど、どんな顔していけばいいのか分からないし、また目的がぶれてふらふらしていたら、今度は私がジュディスに叱られてしまうだろう。

また、耳に掛けた手が、震えて、自分が空っぽになるような気がした。





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