トリム港での談義

それから、レイヴンをつれてカプワ・トリム港の宿屋に着いた。
夜遅くなってしまったために大部屋に全員集合し、夕飯を食べながらリタに凛々の明星の話を聞かせた。
ユーリたちは新しいギルドを結成したこと、ダングレストを出る前にフェローという巨大な鳥に襲われたこと。
フェローが言った「世界の毒」という言葉の意味を確かめるためにフェローがいるというコゴール砂漠に向かうことにしたこと。
「ほー。青春だね」だなんていったレイヴンに反してリタからは大反対の嵐だ。

そういうレイヴンはドンから命じられて歩き回る帝国の姫の監視とノードポリカを守る戦士の殿堂の首領ベリウスに新書を届けるという。
フェローに会うためにデズエール大陸を渡る予定である、私たちとは目的地も途中まで一緒だというので途中まで一緒に行くことになった。


「ねぇ、まさか」

私がじっと聞いていたが、気がかりなことが一つだけある。
急に話を振りだした私に一斉に視線が集まる中、大事な話を振る。

「もしかして、船で渡るつもり?」
「当たり前だろ」

ユーリが恐ろしくあっさりと言い返してきた。
そう当たり前のことだ、それ以外に他の大陸に渡る手段なんかないし、それこそ空を飛ぶしか。

「そう、じゃあ私はここに残るわ……」
「えぇ!?」
「はぁ?」

何を言い出すのよ、とつかみかからん勢いで言うリタと目を丸くするカロル。

「エル何かあるんですか?」
「急にどうした」
「だって、私、無理だもの」
「あぁ、なるほど、お前、泳げないんだってな」

泳げないというか単純に、

「船が、海上が怖いの……」

私が意を決してみなに天才作家様の最大の秘密を暴露した。
そう、私は泳げないし、むしろ船に乗るということ事態不可能なのだ。
前だってユーリに半ば無理やり船に乗らされてそして突き落とされてと人間不信になりそうな目に合わされたというのに。

「さて、じゃあおっさんは船を当たってみるわ」
「私も一緒にいくわ、おじさま」
「……ジュディ、レイヴン私の話聞いてた?」

聞いてたよと返すように手を大きく振って部屋を出て行ってしまった二人に「俺たちも買出しに行くか」とユーリとエステル。
部屋に残ったリタに絶対に行かないからといっても馬鹿っぽいと返されるだけだし、カロルに「どうするの?」と聞かれると私は迷ったが。

「遅くなるけど、たぶん追いつけるようにがんばるわ」
「無理に決まってるじゃない。どうやってくるのよ」

と肩耳で聞いていたリタに敢え無く却下され、気まずい雰囲気にカロルまで部屋から抜け出す始末だった。
足元に残ったのはラピードだけ、彼は私に「わがまま言うな」といわんばかりの視線を投げている。




「無理なものは無理なんだって」
「わう」
「そんなこといわれても……」
「おーい、傍から見るとすっげー怪しいぞ」

と声をかけてきたのはユーリだった。
こんな真夜中に一人歩くユーリはそわそわしていてまるで誰かを探しているようだった。
私を見つけたのも偶然なのだろう。
歩いててなんとなく声をかけられた感じ。

「どうしたの、ユーリ?」

それは彼が掛けるべき言葉なのだろうけど、私は敢えて尋ねると彼は視線を投げたが「あー」と言葉を濁しながら

「ジュディ、見なかったか?」
「さぁ?」

知らないけど?と言葉を続けるとそっかとあきらめたように言う。
しかし、私がラピードと散歩をする前、船を捜しに行こうとする二人を阻止するために追ったとき、ジュディスが街の人の話をくいるように聞いていたのを覚えている。

「街のはずれの魔導器のところじゃないかな?何でも設置してから魚がよく取れるようになったって言っていたし」
「あー。そっか。って」

ユーリはどういう心配をしていてジュディスを探していたか、それをついた私を疑うように「え?」と顔を引きつらせてこちらを見るので私は面白くなって「気づかないと思った?」と笑顔で返した。
ジュディスのことを仲間の中で内緒にしていたつもりなのだろうけど、初対面から分かっていたし、本人にも確認済みだし。
ジュディスが何も言わないものだから、ユーリにも何も言わなかったし(それがいけなかったか)
ユーリの気持ちは分かる、もし不用意にジュディスが竜使いで魔導器を壊して回ってました、そしてこれからも壊す気満々ですよだなんてみんなの前で告白してみたら、天才少女の血管が切れて、それこそ流血沙汰のお祭りが始まるだろうし、エステルも彼女の性格の矯正を図ると思われる。
おまけにジュディスは他人に言われて正確を直すような人でもないし。

「お前って案外、しっかりしてるよな。隠しごととかすぐ見抜くタイプか。付き合いにくとか言われるだろ」
「ユーリには言われたくないけど、まぁね。そうじゃないと作家なんて仕事やってられないし。結構人間観察とか好きだよ。一日中喫茶店で時間つぶせるよ」
「ほー。天才作家さんは根暗な性格と」
「……」

確かに一日中、一人でお茶をするとかは結構寂しい性格してるねとかいわれたりするけど、それをあっさりと口に出されるとどうも複雑だ。
そんな私をラピードまでが哀れむように小さくうめく。

「あのねぇ」
「そんな天才様でも見抜けないことがあるんだな」
「んー?」
「いや、こっちの話」

それはため息と一緒にこぼれた言葉だった。
結局はぐらかされてしまったけど、私はしつこく何のことと聞いたが結局は聞き出せなかった。
どうもその言葉が腑に落ちなくて、私はヒステリック気味に「もういい」と言葉とラピードを残し、その場を去る。




いったい、何なのだろうか、最近のユーリはどうもおかしい。
確かに最近の自分は不安に押しつぶされてかなり感情的になりすぎていると思うが、ユーリの態度がどうも気に入らないのだ。
二人で話をすること事態は減ったが(仲間がいるから当然)普通の会話をしていたかと思えば、まるで何か隠しているような言い草で結局は煙に巻く。
そう、まるで推理する余地のないミステリー小説のようだった、ヒントも与えず、一方的な言葉ばかり残していく。
もやもやばかりが詰まって、最近では耐え切れなくなっていた。
ユーリは何かを隠している、大切なことを。
でも聞いて素直に告白してくれる人でもないし、やっぱり

「何かに気づいて欲しいのかな……」

それは他でもない、私に。
……そう考えると、私はユーリにとっては何なんだろ、頼れる仲間の一人?
それもただおごり高い気がする。

私とユーリの出会いは確か、えぇと帝都に着いた直後に騎士団に絡まれている人を助けに入ったときだろうか、頼れる帝都のお兄さんの噂を後で聞いて少し興味を持った。
それから城に入るために利用して、とか。
それを知っても何一つ言わなかったユーリ。
同じ紅い絆傭兵団を追うものとして。


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