古代人の業


「……だから人は間違っていたっていうの……私は……救えなかったの」
「エル?」
「……え?」

壁画に刻まれた未来。
その残酷さに私は呆然としてしまう。
まるで太陽に飲みつぶされそうな人々や大地。
それに立ち向かう人、そしてクリティアの民。
人々はひとつの光を手に入れて、それにすべてを賭ける。

「クリティアこそ知恵の民なり。大いなるゲライオスの礎。古の賢人なり。されど賢明ならざる知恵は禍なるかな。我らが手になる魔導器。天地に恵みをもたらすも星の血になりしエアルを穢したり」
「……やっぱりリタに言ったとおり、エアルの乱れは過去にも起きていたんですね」
「……」
「こいつが世界の乱れを表しているのか」
「世界を食べようとしているみたい」
「星喰み……」
「え?エル」
「お嬢さん、知ってなさるか」
「ここに世のごとく一丸となりて星喰みに挑み、忌まわしき力を消さんとする」
「ねぇ、ひょっとしてこれ、始祖の隷長を表しているのかな」

星喰みに立ち向かう人々の中には、獣の姿をして、人を先導するものが混ざっている。

「魔物みたいなのが人と一緒に化け物に挑んでいるように見えるねぇ」
「結果、古代ゲライオス文明は滅んでしまったが、星喰みは鎮められたようじゃの。その点ではわしらがこうして生きていることからも明らかじゃな」
「……っ……」
「ようするにこの絵は星喰みを鎮めてる図ってこと」
「これは……なんじゃ」
「大きな輪っかみたいね。何これ?」
「さぁの。何じゃろう」

人々の後ろにある、光の輪。
それは光を照らすように、希望という形で照らしている。

「あれは……魔導器?」
『ザウデ不落宮……後の人はそう名づけたみたいね』
「……レム」
「ねぇ、エル」
「ん?」
「さっきから独り言おおいけど……平気?」

カロルが不審気に聞いてくる。
独り言ではないというのが少し面白くて「平気だよ」よまた笑って言う。

「本当に……笑うしかないよね」
「え?」
「……あの最後」

壁画の隅に刻まれた伝承。
彼らのいう古代ゲライオス文字で描かれたゲライオスの終末。

「ねぇ、最後。なんて書いてあるの?」
「……」
「ジュディ?」

黙り込んだジュディス。
その事実を誰よりも、エステルに伝えるのをおそれたのだろう。

「……世の祈りを受けて満月の子らは命燃え果つ。星喰みは虚空へと消え去れり」
「なんだと、ジュディ」
「……その子のいうとおりよ」

隠していたって無駄なんだ。
この肖像がエステルにすべてを語っていて彼女はいつか真実にたどり着けるから。

「かくして世は永らえたり。されど我らは罪を忘れず、ここに世々に語り告がん……アスール240」
「どういうこと!」
「個々の言葉の全部が全部、何を意味しているかまでは伝わっておらんのじゃ。とにかく魔導器を生み出し、ひとつの文明の滅びを導くことになった我らの祖先は、魔導器を捨て外界とのかかわりを断つ道を選んだとさせる」
「……っ」
「エステル!」

何も言わずに走り出したエステル。
カロルがとめようと手を伸ばしたけど、ユーリはそれをとめる。
エステルの気持ちが分かるからこそ「放っておけ」とだけ告げる。

自分の祖先がしたこと、満月の子の命が狙われる理由、どうしようもない力。
彼女の中で膨れてはじけたのだろう。

「……ミョルゾに伝わる伝承はこれですべてじゃ」
「ありがとな。じいさん、参考になった」
「ふむ。もっと参考になるどんな料理もおいしくなる幻のキュウリの話があるのじゃが……」
「結構よ。それよりもどこか休めるところを借りても良いかしら?仲間が落ち着くまでしばらくお世話になりたいのだけど」

ミョルゾの伝承よりも言いたかったであろうキュウリの話を打ち切られたからか少しむっとした長老だけど、隣の空き屋を使うことを快諾してくれた。
みんなぞろぞろと隣の部屋に向かうけど、私は輪を外れる。
誰も私を見向きもしなかった。
分かっている、私たちだけじゃない、みんな重いものを背負ってしまったのだと。



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