終結

「わおーー」
「!」

ラピードの鳴く声が、森に響いた。
それは仲間を呼ぶものだった。
ユーリが立ち上がって、私も急いでブーツを履こうとしたが、ユーリが「治してからこい」というので、急いで治癒術をかける。
消えたユーリの背中を追うと、大勢の騎士が兵装魔導器に向かって這い上がってきたところだ。
カロルとジュディスたちも人数が多すぎて、押されてしまったらしい。

「ここは死守するぞ」

みんなが、剣を抜き、本気で騎士に向かっていく。
私が丘を上がってリタに合流すると、彼女はまだ暗号に戸惑っているようだった。
周りの状況は分かっているらしく、苛立ちを隠せず靴で地面を叩いたり、歯をかみ締めたりしていた。

「星を廻る軌跡、デルタレイ!」

卑怯に思われるかもしれないけど、騎士が私たちをこんな人数で追ってくること自体が卑怯な手段ならない。
私が放った、三つの光球は騎士の鎧に当たり、弾き飛ばす。
急に、後ろで、リタが鞭を振り回したかと思えば、術式を構成している。
それは騎士を狙っているのではない。
目の前で向き合っていた魔導器にむかって
慌てて、私は彼女を後ろから羽交い絞めにするけど、全身を揺さぶって

「あああ、もう!」
「リタ、落ちついて」
「もう、もう無理なのよ。このままじゃ」
「リタ!!そんなこと言い出したらみんなは何のために戦ってるわけ?あなたにはあなたのやることがあるんじゃないの?」
「もう時間かけてらんないでしょ!!だってこのままじゃあんたらが……」

泣きそうな言葉。
リタにとって、魔導器が一番大切だったものなんだ。
仲間も捨てられない、魔導器も捨てられない。
そんな決められない選択がリタを締め付けている。

「私たちが倒される、そういいたいの?」
「……」

ジュディスが背中で言った言葉がリタの動きを止めた。

「あなたは私を信用できないの?死ぬ気でやるんでしょ」
「私たち、負けませんから。リタ、その魔導器を助けてあげてください」
「ああ、頑張るのじゃ!ここはうちらで絶対守る!だから!がんばれ!!」

ジュディス、リタ、エステルの言葉が、リタを勇気付ける。
リタは驚いていたが、少し笑ったように見えた。

「分かったわよ!死ぬ気でやってやるわよ!その代わり、あんたも死ぬ気でやんなさいよ!」

リタの宣誓がエゴソーの森に響く。
仲間たちはみんな顔を合わせ、頷きあう。
私は坂から飛び降り、みんなに合流する。

「そういうことだからよろしくね」
「あんた!……しっかりやんなさいよ」
「分かってるよ」

リタに軽く手を振ると、彼女は解除に取り掛かる。
私も仲間の中に入って、魔術を描く。

「はぁ……やれやれ……んじゃま、死ぬ気でやりますか」
「輝いている若人の仲間入りか?」
「みたいね」
「気合入れていこうよ」

「んだね」とレイヴンまでも少しやる気を出したようだった。
騎士団も私たちごときに手招いているのをプライドが許さないのだろう。
どれほどの数がくるか分からない、長い戦いになった。

「止まったわ!!!」
「!」

飛んで、はしゃぐリタの声が響いた。
兵装魔導器は、空気が抜ける音を出して止まる。
騎士も、残ったのは数人だ。
時間もかからないだろう。
私も、目の前の残る最後の騎士を薙ぐ。

「リタ!」
「さすがリタ!」
「あらら……やったじゃない」

やっと深い息を吐き、兵装魔導器を見上げると、リタに抱きついて離さないエステルと、背中から周りこんでなぜか腹の脇をくすぐるパティの姿が目に入る。
リタはパティを引きずりながらも魔導器のロックに成功したようだった。

「騎士団が引き上げていくよ」

丘の上に上がると、銀の鎧をまとった騎士たちがぞろぞろと山を下っていくのが見える。
爽快に思えるほど。

「魔導器が止まったから?なんだったのかしら、彼らの目的は」
「……私たちをおびき寄せる……なんていうには大掛かり過ぎるもんね」

ジュディスと顔を見て、首をかしげることしかできない。
ユーリは「まぁ、いいさ」と、みんなに集まるように言うと、ジュディスに「頼む」と声をかける。
ジュディスは頷くと手に入れたミョルゾの鍵である、鐘を振り上げる。
それをゆっくりと振ると、風の音がした気がする。
美しいとまではいえないけど、自然に聞こえてくる緑の音。
でも、これのどこが鍵になるのだろうと、思っていたときだった。


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