命を賭けるほどの

「グランシャリオ!」

円を描き、三本のチャクラムを投げると、サークルを描くようにして、エアルの輪ができ、それが衝撃波を生む。
技に巻き込まれた騎士は竜巻に巻き込まれたかのように吹き飛ぶ。
次に魔術を描こうとするが、騎士の人数がとても多く、その隙をうかがうのもつらい。
兵装魔導器はあと一歩だというのに、大勢の騎士が待ち伏せしていた。
数が多すぎて、私たちも四散して戦うしかない。

仲間は大丈夫だろうか
と、目を離すと自分が危なくて。

「……っ」

ずきずきと足が痛んだ。
やはり先ほど足をひねったらしく、騎士の攻撃から逃れるために走りまわったせいか、痛みがいつのまにか戻ってきたらしい。
私は足をかばいながらも、仲間の援護に戻ろうとするが、

「ああ、もう邪魔……」

騎士団の実力は、エリートである親衛隊と言うには手ごたえはない。
というより、最近の旅で戦闘続きだったから知らずのうちに実力をつんだのかもしれない。
そんな私にとっては、騎士など、人ごみを避けるに過ぎない。

「……?」

次の術式を描くために空をなぞっているときに、ふと耳にぬくもりが宿ったのを感じて目やると、武装魔導器が淡い緑の光を放っている。
バルボスに奪われて、魔導器を使わずに魔術を使うようになってからはただのアクセサリーみたくなっていた。
それでも、勝手に光を放つのはこれで二回目だ。

光を持ったのはほんの数秒で、気のせいだったのかも知れない。
応援されている、そんな風に勝手に思って私は気合を入れなおした。



「……ちょっとは手加減してあげようよ」
「生きているだけましな気がするけど……」

カロルの苦笑いに、むくれたように答える。
本気で向かってくるなら、本気で戦わないと失礼というより、自分が危ないだろう。
上からの命令だからって自分の意思を貫けない人間は、私は嫌いだ。
ユーリのために口にはしないけども。

親衛隊の増援に、ついにキレた私とリタの上級魔術によって決することになる。
地面がえぐれていたり、木が何本かなぎ倒されたり。

リタは親衛隊が全滅したことを確認すると一目散に兵装魔導器に向かっていった。

「……案の定、こっちにも術式暗号かかってるわ」
「解けそうか?」
「死ぬ気でやるって言ったでしょ。こうなったらミョルゾに行くための条件とかもう関係ないわ。騎士団のやつらの手に、この子をそのまま残すなんて絶対にできないんだから」

このまま兵装魔導器を残しておけば、市民である私たちに向かって容赦なく攻撃してきたかのように、誰かを傷つけるのだろう。
魔導器が「一番大切なモノ」といってしまうリタには許しがたい所業なのだろう。

「じゃ、そっちは任せたよ」
「あら、どこ行くの?カロル」

急にはしりだしたカロルを笑顔で引き止めジュディス。
ジュディスはきっと答えは分かっているのだろうに、わざと言わせている。

「さっきみたいにまた親衛隊が来るといけないから、下で見張ってる」

カロルも、ギルドのため仲間のために何ができるか自分で考えられるようになっている。

「じゃあ、私もお手伝いさせてもらうわ」
「うちも行く」

ジュディスとパティが坂を駆け下りていく。
先ほど襲ってきた騎士はあらかた倒したが、どさくさにまぎれて逃げ帰って増援を呼ぶかもしれない。
誰かが必ず言い出すと思っていたけど、カロルから率先して言い出すとは思わなかった。

「パティ、すっかり元気を取り戻したみたいですね」
「だといいんだけどねぇ……。にしても、みんな妙にやる気で怖いわ」
「……ユーリの影響ですよ」

とエステルとレイヴンが言っているそばからユーリは辺りを警戒しながら「こっちで待機だな」と 地面に座り込んだ。

「当の本人はいたってクールなんだが」
「……ですね」

くすくすと笑う、エステルとレイヴン。
本当にユーリはポーカーフェイスという弱みを外に出さない。
私はジュディスたちに合流しようかと思ったけど、リタの出助けになるんじゃないかと兵装魔導器に近寄るが「集中してるあたしに近寄らないで」と邪険にされるし、坂を下りようとするとユーリに「目の届かない場所にいくなよ」と止められて仕方なく地面に腰をかける。

「……まだ痛むかな」

ひねった足首がいまだ痛い。
誰もみていないうちに治癒術をかけようとブーツを脱いでいたところで視線を感じて私は振り向く。

「……ユーリ?」

「よ」と軽く挨拶を交わすと、ユーリは私の隣に腰を下ろす。

「リタたちは大丈夫なの?」
「今のところはな」

ということは増援がくるとユーリも思っているだろうか。
だから警戒心はいまだ解いていない。
リタの暗号解読が、どれくらい時間がかかるかも想像できない。
だからって常人ができえることじゃないのは分かっているから静かにしている。

「私もすぐに戻るから……」
「いいぜ、別に続けても」
「?」
「治癒術」
「あ……」

隠そうにも隠し切れずに少し息を吐く。

「……少し痛いだけよ」
「また騎士が戻ってきたらどうすんだよ」
「……大丈夫だもん」
「何かあっても次は助けねぇぞ」
「……もしかして」

さっき騎士団ともめあったときにユーリが無理やり割り込んできたのは、接近戦だと危ないと分かっていたから。
自分では外に出していないつもりだったのに。

「私って、そんなに分かりやすい……」
「いや、周りからみてもわかんねぇと思うぞ」
「じゃあ……なんで、分かるのよ」
「ちっと見りゃわかんだよ。俺は」
「……何それ」

と聞きたいくらいのことだ。
でも、ユーリの顔は笑っていなくて、反面、とても怖い。

「その悪癖、治せよ」
「……悪癖って」
「弱もんみせねぇところだよ」
「ユーリには……」

言われたくない
そう小さくはいた言葉が届くことがない。

「……お前はもうちょっと仲間を頼れ……。仲間にいえねぇことがあったとしても」
「……」
「俺にくらい、言ってくれてもいいんじゃねぇか」
「……ユーリ」

それは祈るように言われて、胸が痛んだような気がした。
私が言わなければ、誰も傷つかないと、心が痛まないと思っていたのに。
気づかれないようにしていればいいとだけ思っていたのに。

「……ごめんね、ユーリ」

謝ることしかただただできなくて、歯がゆい。
でも、口に出してしまうと、私の決意が全部崩れてしまう気がして怖い。


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