「ふうーん、これがミョルゾの鍵……?」

程なくして洞窟の奥から戻ってきたユーリたちと合流をし、フィエルティア号に戻った。
甲板で、ユーリたちが私に見せたのはガラス?の美しいベルだった。
ミョルゾへ続く鍵というのだから、想像していたのはその名の通りの鍵とかヒントが書いてある石盤とかあると思ったのに。

私がジュディスから「丁寧に扱ってね」渡されて、ベルを鳴らしてみると、風を叩くような音しかしない。

「それで、これをエゴソーの森でどうするんだっけ」
「鳴らすんじゃないかしら?鐘だもの」
「だよね……」

ジュディスの言うとおりなんだけど、私が言いたいのはとにかくそんなことじゃなくて。
クリティア族の住む、神秘の都ミョルゾ。
それがどんなところが自分の考えでは追いつかなくなってきたから訊いているのに。

「それより、パティはあの洞窟で何か言っていたかしら……あの調子だと何か思い出したみたいだけど」
「さぁ……でも、ずっと泣いていたよ」
「そりゃ、じいさんがそんなことしていたなんて知ったらな」
「レイヴン、それは違うと思うよ」
「……やっぱ何か言っていたんじゃねぇか」
「えっと……」

まだここにいるパティ以外のみんなはホープ号の事件はアイフリード……がやっていると思っていてパティがその事実を知って沈み込んでいると思っている。
そして口を滑らしてしまった、私。
知らないと何秒か前に言ったくせにレイヴンに「違う」だなんて言ったらパティからなんか聞いたって自白してるんじゃないか。
ユーリの鋭い声が怖く感じてしまって、うまく言葉が出ない。
取り繕うというのかもしれないけど。

「だから、それは……パティの様子を見る限り……」

「違うんだよ」と自分でも意味のわからない言い訳を考えていたら重い足音を響かせて現れたパティ。
みんな言葉を謹んで、パティを迎えると彼女はユーリの前で立ち止まり靴を鳴らし、床を蹴る。

「……ユーリ、話があるのじゃ」
「なんだ……?」
「うちは……このあたりでみんなとばいばいしたいのじゃ。そろそろユーリとわかれる潮時なのじゃ」
「……本気か?」
「……」
「なぜ?突然。私たちと一緒に行くのがいやになったんですか?」

エステルの問いに「そうではないのじゃ」とパティは首を横に振る。

「もし、アイフリードのことで僕たちに遠慮してるのなら」
「これ以上、迷惑をかけるのはいやなのじゃ。たとえみんなが気にしていなくても……うちがいやなのじゃ」

アイフリードのことで凛々の明星は遺構の門と揉め、ギルドとすると難しいスタートになっただろう。
それに、自分がアイフリードだと知ったパティがどんな気持ちで仲間と離れようとしているか。
そして帝国騎士団長を敵というのが今のパティなのだから。

「……何よ今更」
「リタ?」

苦い声だけど、あっけからんというリタ。
仲間が彼女に注目をする。

「どいつもこいつも迷惑なヤツばっかじゃない。あんた一人いなくなったくらいでこの集団の何が変わるのよ」
「リタ姐……」
「本当にやることを優先させるためだってんなら引止めやしないんだけどな」
「うちは……」
「パティちゃんがいなくなったらちょっち寂しいわね」
「もうここまで一緒に来たら、遠慮なんてなしだよ」
「一緒に砂漠も越えたし、一緒にたくさん戦いました」
「それにその答えは何もこんな場所で出さなくてもいいんじゃないかしら?」
「ま、ここで抜けられると船を動かせなくなって俺たちも困っちまうからな」
「うちは……」

パティにとっては誰よりも長い時間を過ごせた仲間たちの言葉は少しでも支えになるだろうか。

「地獄まで一緒にいようってさ」
「……それはノーセンキューなのじゃ」
「お前はまたそうやって……でも少し頭冷やしてから考えてみな。それで出た答えなら好きにしたらいい。それまではとりあえず一緒にいたらいいんじゃないか?」
「……わかったのじゃ」
「じゃ、エゴソーの森だね!」

こぶしいっぱい突き出すカロル、
それに応えるように吼えるバウル。
パティの悩みは、重いのだろうけど、それがいつか彼女の口からすべてが語られて、荷が降ろされる日まで私はパティとの約束を大切にしたいと思う。



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