墓標


洞窟の中には不思議と光で満ち溢れていて視界に困ることはなかった。
そして不思議と異様が交じり合っている光景がもうひとつ。
道を少し先にスペースがあるのがわかり、立ち寄ると一面に広がるのは両手で抱えるほどの石が100近く並んで置いてあるのだ。
規則性ただしく。

「何……この石!?……こんな場所にこんなたくさん。気持ち悪い……!?」

全部とはいえないがいくつかの石には何か刻まれたようなあとがある。
近くでそれを見ると名前のようだけど読み取れない。砂埃をかぶったそれらは私たち以外の客人はいままでいなかったと語っているようだった。

「これって、まさか……お。お墓!?」

隣でカロルが「ひっ」と悲鳴を上げる。
そしてこの空間から逃げるように後去りをする、リタと一緒に。
レイヴンがあご髭を撫でながら「やっぱり場所を間違えたんじゃないかね」と呟くがトードというクリティア族の言った場所と合致しているのはここくらいなのだ。

「だとしても……こんなところにいっぱい……どうして……なぜ?」
「しかもすごい数……」
「まさかクリティア族の街への道探しに来てこんなところに来ちまうとは、な」

まるで誰かの目に隠すように入り口は蓋をされ永久に忘れてほしいとここに眠るものたちは言いたいのだろうか。
……この先にも道はあったし、戻って道を確認した方がいいのかもしれない。
中央に鎮座する墓の上にはパティがかぶっている海賊帽とよく似たものが添えられておりほかよりはっきりとした文字が刻まれている。

「何か書いてある……」

エステルが文字を指でなぞり、パティはエステルが読むよりも先に見、目を見開いた。
それは驚きというより絶望を目の当たりにしている。

「ブラックホープ号事件の被害者、ここに眠る。……その死を痛み、ここに葬るものなり」
「え……!?」

パティの様子を見て少しわかっていたのかもしれない。
驚きは薄くて頭はその事態を飲み込もうとしている。

「つまり、アイフリードが殺した人の……お墓ってこと……」
「リタ……!」

それは口にしてはならぬ言葉で、パティにとってはひどく切れ味のよいレイピアのように胸を刺す言葉だったのだろう。

「パティ……!」
「うち……。でも……まさか……こんな」

こんな現実、小さな体では重過ぎて受け止めきれないのだろう。
地面にひざをついて自分の力では立ち上がれない。

「アイフリード……」

何かの冗談かと思いたいけど、この墓がアイフリードを貶めるものだとしても大掛かり過ぎる。
エステルがパティの体を支えようとしてもパティが腕を解く。
何も受け入れたくない、放っておいてほしいと。

「……」

私たちは少し離れたところで見守ることしかできない。
こんな封印された、まさかこんなところで、パティは黒い真実を受け入れることができるはずがない。

「いくらなんでも無理ないわ。この真実を受け入れろっていうほうが無茶だ」
「……でも」
「……」
「この墓……誰が建てたんだろ」

カロルの疑問に答えられる人間がこの中にいるはずがないだろう。

「……どうした?エルちゃん」
「……ホープ号の事件が本当にあったとして、でもそれはアイフリードやったことなのかな。この墓も……生き残りの人間がやったしたなら」

デマを流すことも可能なんじゃないか?
でも、それはアイフリードを犯人だと断定している人間と同じ次元に立つようなものだ。

「私はミョルゾの扉を探すわ。あなたたちはここにいて」
「え?一人で?」
「こんなパティを連れまわすわけにはいかないでしょう?」
「……魔物の気配もねぇ。俺たちも行こう。ラピード、パティを見てやってくれ」
「わん…!」
「私も残るわ」
「エル?」
「みんなでぞろぞろいく必要もないでしょう?」
「それじゃあ頼むわ。よろしくな」

と、ユーリがみんなの肩を叩き、外へ出て行く。
私はすぐにかける言葉が見つからず、小さな世界にはパティのすすり泣く声が響くだけだった。




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