赤い花の咲く岸辺


バウルがフィエルティア号を引っ張り、ピピオニア大陸の上空を探索する私たち。
赤い花が咲き誇る岸辺というので川をさかのぼる。

「おーい、そんなに身を乗り出してたら落ちんぞ」
「私、自殺志願者じゃない……」

みんなは目を凝らして探しているというのにユーリはサボりだろうか。

「お前もリタたちみたく無理をしなくていいんだぞ」
「……それ」

フィエルティア号の船べりは高くて身を乗り出さないと下を覗くことができないのだ。
要するに……身長が低いと不利、それだけ。

「おっこったって拾ってやられねぇぞ」
「……なんでユーリはそう意地悪言うかな」

私はたぶん、ユーリたちよりミョルゾに行く事を望んでいる。
必死な自分が可笑しいと感じる。
パティを見てやっぱり自分の場所、自分は必要なのだと。

「ほら、代わってやるから休んでろよ」
「うー」

私は船べりに背を預け、ユーリはひじをつき、景色を見張る。
沈黙が重すぎて何か言葉を出そうと思うのだけど、話題がない。
いや、喋りたいことはあるけどそれを口にしていいのだろうかと喉に突っかかって出ない。

「……ミョルゾに行ってわかるといいな」
「……」

いや、苦しい。
少しだけ与えられた時間はそれだけの会話だった。

「本当に赤い花しか咲いていないんだね」

あれから少しの時間もないうちにレイヴンが例の洞窟を見つけたと声を上げた。
アスピオでミョルゾの行きかたを指示してくれたトードという人が言った赤い花が咲き誇る洞穴で鐘を手に入れてエゴソーの森にいけるって話がもう信じられないのに。
赤い花が咲き誇る場所。
赤い花の名前は知らないけども、ただ美しい。
一面、貴族が歩いて喜びそうな赤い絨毯が広がる。
寝転がって高級感を味わってみたいと思わないでもない。

「ピピオニア大陸の赤い花が咲く岸辺、でしたよね?」

エステルがみなを確認するようにとう。
ほかの皆も困惑したように景色を見つめている。
理由は、そうトードに言われた、鐘を手に入れる場所はどこにある。

「そのトードってやつに嘘教えられたんじゃないの?」

リタもこう言ってしまう始末だ。
しばらく辺りを探っていると、ジュディスが石壁と手の甲でこつこつと叩いてる。

「何かあるの?」
「待って、ここに空気が流れているわ」
「中が空洞になってるのか?」

私も叩いてみると扉を叩くような軽い音が響く。
少し離れて叩いてみると鈍い音しかしない。
そこだけなにかを隠しているようにしか思えない。

「どいて!」

リタの短い声が響いて、いつもの習慣か、みんなあわてて離れていく。
非難が完了してからやっと振り向くと、火の魔術の詠唱を始めている。
リタの放った火の弾がジュディスの示した場所に命中すると黒煙の中から焦げ臭い匂いと甘たるい匂いが流れてきた。
人が二人並んで通れるくらいの穴ができた。

「開きました!」

煙を仰ぎながら中を見ると、やはり洞窟が先に広がってるらしく、闇に続く道の先は見えない。

「まったく誰かね。こんな意地悪したのは」
「あなたみたいな不審者が入らないようにふたをしてあったのかもね」
「ぐぁっ。俺様狙い撃ち?!ヒドイなジュディスちゃん」
「……!」
「パティ?」

冗談で笑いを混ぜる二人に対して、パティの表情は硬い。
私が声を変えても「あぁ」と垢抜けた返事があるだけ。

「どうしたの?パティ?」
「……なんでもないのじゃ……ちょっと……暗いのが怖かったのじゃ」
「暗いのが怖いなんて子供だね」
「あんたが言うか」
「……私からすると二人とも子供なんだけどな……」
「幼児体型は黙ってなさいよ」
「……リタ?」

……リタにだけ言われたくないと思う、それ。
人が気にしていることを……。
顔色の優れないパティにユーリはひざを折り「怖かったらここで待ってていいんだぞ」と声をかけるが、パティは全力で首を横に振る。
その反動で頭がふらついていたけど、両方あわせて「大丈夫じゃ」と自分に対する祈りのような言葉を口にしている。

「……この先に……なにがあるんだろ……」

この先にあるのはミョルゾへの鍵というより、恐怖そのものな気がしてならない。


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