選択

「おはよ、早いね」
「エル今日は早起きなんだね」
「失礼だね」
「まぁ、早起きは三文の徳だって言うしな」
「今日は逆だったんだけどね。おはよ、ユーリ」
「ユーリ、おはよう!」

私が外に出て紅茶を味わっているとまず集まってきた仲間たち。
カロルには私の寝起きの悪い部分をたくさん見られているから朝から冷たい言葉が返ってくることも珍しくない。
少し前に来たエステルとリタ、そして船室から私の紅茶を持ってきてくれたレイヴンとパティ少し前に身だしなみを整えてきたカロルと少し寝癖の残るユーリと上機嫌なラピード。
そして眠りについているジュディス。
これでやっと仲間が全員揃ったことになる。

「きれいな朝、でも今もこうしている間にもエアルは乱れ、世界は蝕まれているかもしれないんですね」
「そうよ」
「ジュディ姐!」

と、疲れた様子などまったく見せずに船室から出てきたジュディス。
ジュディスに飛びつくパティ、彼女はそれを笑顔で迎えいれる。

「もう大丈夫なのね、ジュディスちゃん」
「えぇ、エルのおかげでね。それで本来、エアルが多少乱れたところで世界に影響はないわ。エアルのバランスをとるために常にエアルの流れを感じているものがいるから。それがフェローやバウルたり始祖の隷長」
「始祖の隷長がエアルの調整役……」
「長い間、始祖の隷長はエアルを調整し続けた。だけど近頃、エアルの増加が彼らのエアル調整の力を上回ってきている」
「その原因がヘルメス式魔導器か」
「だからジュディはヘルメス式魔導器を壊して回ってたんだな」
「えぇ、それが私の役目。私を救ってくれたバウルと歩む道」

テムザ山で聞いた聞いたジュディスの覚悟。
それは人から恨まれても、始祖の隷長とともに生きていくと彼女が決め、戦ってきたことだ。

「それでも、人の手に渡ったヘルメス式魔導器はジュディス一人で壊してまわれる量じゃなかったんだね」
「えぇ……それに最近では聖核を求めて始祖の隷長に挑む人さえ居る、始祖の隷長はその役目を果たすことがむずかしくなっているわ」
「どいつもこいつも聖核を狙う理由はなんだ?」

帝国騎士団、魔狩りの剣は人魔戦争で脅威とされた始祖の隷長を狙ったわけでもない。
始祖の隷長が命を落とすときに生まれ出でる聖核の存在を知り狙っていたのだ。
もっとも彼らだって聖核がどんなものだということまでは分かっていなかった気もするけど。

「私には分からないわ。聖核とは始祖の隷長が体内に取り込んだエアルが長い年月を掛けて凝縮し、始祖も隷長が命を落としたときに結晶となって生まれるもの。私が知ってるのはそれくらい。フェローならもっと詳しいと思うけど」
「聖核は高密度のエアルの結晶。それが本当なら聖核のエネルギーをうまく引き出すことが出来れば、すさまじいパワーを得ることが出来るわよ。きっと」
「それは……私たちの武醒魔導器のように?」
「私たちの肉体を強化するっていうたとえならそうかもしれないけど、聖核だったら比にならないわね」
「前にヨームゲンでデュークが話をしていたよね。聖核が術式を刻まれていない魔核だとしたら、応用の仕方によってはとんでもないものが作れるかもしれないね」
「そんな方法があるんです?」
「少なくてもあたしは知らない」

言い切ったリタ。

「でもそんなことが出来るならみんな欲しがるのじゃ」
「誰かが悪巧みしているのは間違いなさそうね」

レイヴンとパティは親子のように腕を組んで相槌を交わす。
カロルはジュディスを見上げ

「でも、どうして最初に話してくれなかったの?」
「まったくだ、話してくれれば、こんなややこしいことにならなかった。違うか?」
「……知っても、あなたたちには無理なことがあるから」
「どういうこと?」

みなの注目は再びジュディスへと戻る。
ジュディスはきゅっと唇をかみ締める。
一度、言葉にするか迷ったのだろうが、みんなの瞳がそれを許さなかったは、否。
ジュディス自身が決めたことなんだ。

「……あの時私たちがヘリオードに向かったのはバウルがエアルの乱れを感じたから。エアルの乱れがある所にヘルメス式魔導器がある。でもそこにいたのが」
「私たちだったってことね……」

明確な殺意をかんじなかったものの、ヘリオードで竜使いが宿屋で強襲してきた。
あの時のジュディスは何を思ったか、窓を突き破ってきたにも関わらず様子見だけで帰ってしまったのだから。
まるで何かの真意を確かめるように。

「ヘリオードにははなからエステルを狙ってきたわけじゃなかったんだな」
「何故、バウルがエステルをエアルの乱れと感じ取ったか。私は知る必要があったの。私の道を歩むために。そんな時、フェローが現れた。彼はエステルが何者か知っているようだった。私の役目はヘルメス式魔導器を破壊すること。だけど、エステルは魔導器じゃない。だから見極めさせて欲しい。私は彼にある約束を持ちかけた。彼は私に時間をくれた」
「その約束って……?」
「もし消さなければならない存在なら私が……殺す」
「あんた!」
「リタ!!!」
「ひぅ!」

リタがジュディスに掴みかかろうとしたとき、私は自分でも驚くくらいの声で彼女を制止した。
パティも目を丸くして私のことを見上げていた。
確かにジュディスが私たちの知らないところで始祖の隷長とどんな約束をしたいたってそれは私たちを殺すためじゃない。
生かすためにそうしてくれたのだ。

「リタっちもエルちゃんも落ち着いて。ジュディスちゃん、結局手を下していないでしょ」
「話は分かった」

私たちを裂くようにユーリは真ん中に立つ。
ジュディスは私たちをしっかりと見据え、そして最期に言う。

「ベリウスは言っていたわね、あなたたちには心があると。フェローにもあなたたちの心が伝わればこれからどうするべきか分かるかもしれない」
「ね、ねぇ。もうフェローに会う必要なんてないんじゃない?問題なのはヘルメス式魔導器だって分かったんだから。聖核も悪いことをたくらんでいる奴に渡さないようにすれば」
「……わたし、フェローに会いたいです。そして話を聞きたい」
「でも!」
「行かせてください。私も自分のことを知ってそれに責任を持てるようになりたいから」

リタがどんなにエステルを説得したって、今の彼女の強い意志を揺るがすことはできない。
助け舟を求め、リタは私を見る。
が。

「ねぇ、リタ分かって。これは今のところ、私の記憶の唯一の手がかりでもあるのよ」
「……」

やっと掴んだ自分が満月の子という事実。
御伽噺ではない、満月の子が実在をし、始祖の隷長と深いかかわりがある。
始祖の隷長は長いときを生きて、膨大な知識もある。
もしかしたら、私の中で眠っている?存在についても知っているかもしれない、そんな淡い期待。
エステルが行かないと言い出しても、仲間に止められたとしても私はフェローの場所に向かうだろう。

「わかったわ……」

渋々リタは了解をする。
リタは場にいるのが耐えられなくなったらしく船室に向かって走り出す。
レイヴンとがその後を追う。
カロルはリタの背中を追いながら、迷いを口にした。

「ごめん、ユーリ……ジュディスをどうするべきかすぐに決められないよ」
「あなたたちが言うケジメをつけないまま去ることはもうしないわ。私も責任を取らないとね」
「フェローに会いに行こう。俺たちの最初の目的、それをこなしちまおう。後はそれからだ」

元々、私がドンに頼まれて次期皇帝に新書を渡そうと帝都に訪れたとき、彼は下町の水道魔導器の魔核泥棒を追ってザーフィアスを出た。
エステルをはじめとした仲間たちと出会ったり、ラゴウや帝国騎士団の横暴を見、今のやり方では何も変わらないと決心しギルドを作った。
そのギルドの最初の目的こそがフェローの会うことだったのにいつの間にか騎士団のこと、ギルドユニオンのこと、聖核のこととたくさんのことに巻き込まれてきた。
だからどうするが迷った今、最初の目的を達成しようという。

「ギルドを作っただけじゃないか……」

ユーリがしたことは。
私の一人ごとを拾ったラピードは心配そうに首を傾げるので私は口元に人差し指を当て「しー」とお願いをする。

「コゴールの砂漠中央部にそびえる岩山。そこにフェローは居る。バウルならいけるわ」
「よし、行こうぜ。フェローに会いに」

これでやっと自分と向き合えるような気がした。


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