ともだち

ぺらぺらと紙をめくる音だけがこの暗い部屋を支配していた。
フィエルティア号の船室の中、蝋燭の細い明かりで私はダングレストを出るときに持ち出した世界史実の本を読んでいた。
前に流してよんだ事あるが、今になって色々と抜けていたことに気づく。
聞けばエステルが答えてくれたりとしていたが、帝国の起こりから古代ゲライオス文明で当たり前のように使われていた魔導器が発見され、帝国が強い権力を持つようになり、貴族と一般市民の貧富の差が激しくなったことに一部の力を持つ人間が帝国から造反したのがギルドの起こり。
ギルドはダングレストを拠点として帝国と前面きって戦うことになったときに帝国の圧倒的な力でダングレストまで猛進をしてきた。
ギルドユニオンの元首ドン・ホワイトホースが幾十のギルドをまとめあげギルドユニオンを作った。
ダングレストの地下水道にユニオン発足の際に血と厳しい掟を記したユニオン誓約をパティと前に目にしている。

「やっぱりこんなものを読んでも意味がないか……満月の子、始祖の隷長のことなんて載っているわけないし」

子供が読む教科書を見ても意味がないか。
と私が本を閉じると、私の後ろからうめき声が届く。

「ごめんね……起こしちゃった?」
「いいえ、少し前から起きていたわ」

蝋燭の位置をずらすとジュディスの顔が浮かび上がる。
バウルに乗り、魔狩りの剣と鉢合わせすることなくテムザ山を抜けてフィエルティア号に戻ることは出来たが、ジュディスが倒れてしまったのだ。
寝ずの番でバウルを守っていてやっとその糸が切れたみたいで安心した顔で眠りについていたので船室で寝かせ私が治癒術を施した。
ジュディスの看病として私は小さな明かりで本を読んでいたが、ジュディスが寝るベッドにもたれていた。

「体のほうはどう?まだだるいなら」
「もう十分よ、ありがとうエル」

私の治癒術は体力を回復することも出来る。
顔色もよくなったので、後は様子見をするつもりだったのに。
私が窓に目をやると漆黒の黒だけが映る。

「もうちょっと寝ていたら?邪魔なら出て行こうか?」
「いいえ、ね。エル」
「うん?」
「ありがとうね」

ジュディスがゆっくりと噛みしめ言うので私は少し悪戯心がわいてきてしまって「それは前にも聞いたよ」と苦笑いをし返すとジュディスはしかめっ面で「そうね」という。
ジュディスは普段から飄々としているからこういうところがかわいいと思う。
だからこそ、私の悪い癖を出すのはやめようと思った。
仲間たちの前で言えない言葉が出てくる。

「……私も凛々の明星と同じ気持ちだったのよ」
「え?」
「ちょっと違うかな……私は……。個人的にその……ジュディのこと友達だと思ってるの。だから……助けるのが当たり前いうか……」

あれ、おかしい。
滑らかに口から言葉を伝えているはずなのに出てくる言葉は詰まっていて。
緊張している?
こんな簡単な言葉を伝えたいだけなのに。
そんな私の様子が可笑しいのかジュディスがくすくす笑うので私はもっと恥ずかしくなってきて顔を隠すためにひざを抱える。

「なんなの……ジュディ」
「いえ、ただ人の友達は始めてだから……とてもいい響きだと思って」
「……そういえば、私も友達といえる友達は……初めてかもしれないわ」

胸を張って友達といえる仲で、相談事とかいえる中なのかな。
ラピードと友達だって話をしたことはあったっけ?
私、結構寂しいやつだったかもしれない。

「……凛々の明星のみんなは違うの?」
「友達というか仲間ね。それところはちょっと違うの」
「じゃあユーリは?」
「なんでそこでユーリが単体で出てくるの?」
「いいから」

今のジュディスの表情に擬音をつけるならにやにやかもしれない。
不満気に漏らすとジュディスはベッドから身を乗り出して私の顔を覗き込む。
私は観念し、ジュディスの質問に答えようと色々と考える。
ユーリ、友達のようで友達じゃなくて。

「悪友ってやつかな……」
「悪友?」
「色々意地悪いえる仲……」
「そうなの?うふふ」
「なに、さっきから」
「エル、顔が赤いわよ」
「え?うそ」

頬に手を当てると確かに熱を持っているようで熱い。
おかしいな、今日の体調はとてもよかったはずなのに。

「ジュディ、さっきから何笑っているの?」
「いえ、友達とこういう話をするのも悪くないなって」
「こういう話…………?」
「いいえ、なんでもないわ。私少し休むわね」
「ジュディ、逃げるの」
「おやすみなさい」
「ジュディ!」

それが最後の会話になった、私はいくら呼んでもジュディスの返事はなくてやがてすやすやと気持ちのよさそうな寝息が帰ってくるだけ。
疲れているのは分かっているので起こさずに部屋を出ることにした。

「……ユーリは悪友か」

少し可笑しいような気がする。
でもジュディスの面白がるような表情が目に浮かんで少し腹立つのでもう考えるのはよそう。

















「あ、ユーリ」

船室の扉に背中を預けて漆黒の空を見上げるエルは俺を見ると複雑そうな笑みを浮かべる。
その苦悶の表情を見、おもわず俺も苦笑いを返すしかない。
空を見て憂う様はとても絵になっていたのにこうなってしまっては仕方ない。
そういうところを直して欲しいと思うが、それはそれで面白くないのだ。

「……お前さ船が動いていなきゃ平気なんだな」

船が動き出したときの取り乱しようは尋常じゃないというのに。
すると彼女は俺に詰め寄り、俺を指差し反論をする。

「私のキャラを誤解していない……?別に苦手というわけじゃなくて」
「はー。そうですか」
「なんかむかつくわ……」

腕を組んで一人唸りながら空を見上げる彼女。
なにか思い出したらしく俺の顔凝視するので「なんだ」と肩を押すと珍しく真剣な顔で俺に訊く。

「ユーリは私の何?」
「はぁ?」
「……やっぱりジュディからかっているのかな」
「なにか言われたのか?」
「いやーその」

言葉を濁すので、俺がじっと見据えると彼女は口をきゅっと結び、俺を見上げる。
短い沈黙の後、彼女が口を開いたのが想像の範囲外の言葉。

「ジュディスに言われたの、ユーリ……仲間をどう思っているって」
「なるほどな」

それは誰が言うまでもなくジュディにからかわれている。
正直な話、俺もその答えは気になる。

「それでなんて答えたんだ?」
「……悪友かな」
「は?」
「だから悪友かなって。ほら、ユーリもフレンとはそんな感じだって言っていたし」
「はぁー」
「……でもよくよく考えたら悪いというのは可笑しい気もするけど、ほら住居に無断侵入したりさ、他人をからかったり。一緒に脱獄もしたじゃない?」

俺がため息をつくと困ったように言い訳を口にする。
本当にその程度にしか思われていないのか?
いや、出会いたてのころの無関心のころに比べればだいぶ進歩したんだろう。
一時期は主語だけで答えるときだってあったのだから。

「ま、今はそれでいいか」
「何?何?」
「いんや、なんでもでねぇよ。それで何を考えていたんだ?」
「え?」
「何も考えずに突っ立っていたわけじゃねぇだろ」
「あー……そうだね」

ふっと彼女が俺から視線を外すと再び、夜の暗闇を見通す。
急に散歩に出かけるように歩き出すと俺はその後を追う。

「……ゼグンドゥス……」
「……?」
「言い訳をするつもりはないけど、ベリウスを倒したときに時間が止まったように周りが凍りついたの」
「……それ、本当なのか?」
「やっぱり疑う?」

俺が首を横に振ると彼女はとてもじゃないけど信じられないことを口にする。
それは闘技場で俺から魔導器を返してもらったとたん、時が止まりゼグンドゥスという男が、ベリウスを倒したという。
子供が夢物語を語るようなそんな話だが、真摯な瞳がそれは嘘ではないと訴えている。

「……ゼグンドゥス……古代の言葉で……時を渡る者か」
「そういうの詳しいんだな」
「まぁね……それで」
「……わかんないけど。私は彼を知っているような気がするし……というより自分で……」

もごもごと一人考えに耽るエルは俺のことはすっかりと忘れまた歩き出し、部屋に戻っていく。
こうなってしまったらもう話しかけても無駄だ。
作家ゆえの集中力か、他の事に興味がないのか自分の部屋に戻っていくエルを引き止める。

「あ、なんだっけ?」
「なんだっけじゃねぇって」

「あー」と気まずそうに笑うエルを見て無意識にしてしまうというのは分かるが。
いや、これ以上話をしたって無駄なんだろうな。

「いや、やっぱりなんでもねぇわ。それじゃあな」
「また明日ね。ユーリ」

そういうしかなくて俺はエルを送る。
あいつとはとても打ち解けてこれたと思うが、やはりマイペースな部分が抜けないと思う。
あいつが書く小説は評価をつけるなら天才の領域らしい。
エステルが熱説していたが、俺の理解にはほど遠い。
ただ思うのはやっぱりなんとかと天才は紙一重だということ。











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