始祖の隷長の進化

急いで洞窟の奥に駆け込むと眩い光を放つバウルの姿があった。
バウルの始祖の隷長のことはよく知らないけども荒い呼吸を繰り返し短命の蛍のよう淡い光を点滅させる。

「これは……」
「バウルは成長しようとしているの……始祖の隷長として」
「怪我をしているわけではないの?」
「えぇ」

バウルが動けない状態にあると知ったときに真っ先にそれを心配したけどそれは私の杞憂で終わってよかった。
ジュディスに話を聞けばバウルはまだ始祖の隷長としては若く、体も小さい。
だからエアルを体に取り込み、成長をするらしい。
今はその段階にあり、その成長は人間が子供を産むときのように時には死んでしまうような痛みを伴うものらしい。
それに怪我をしてないって言ってもここに逃げ込むときに魔狩りの剣に負わされた小さな傷が刻まれていた。
私もエステルも同時にそれに気づいた。
私は一歩踏み出すこともできず、隣を見ていた。
しかし、エステルは治癒術をかけようと飛び出すがジュディスが手を掴みエステルを止める。

「だめ!」
「エステル」

彼女の肩をつかみ、首振る。
満月の子の力が始祖の隷長にとって毒だということはベリウスの件で痛いほど身に染みていた。
エステルははっと我に返り、自分の手を見、握り締めた。

「怪我を治してあげたくても何もしてあげられない……あなたにとって私の力は毒なんですね」
「傷を癒せるってのがエステルの力じゃないぜ」
「え?」
「ベリウスの言葉……覚えていない?」

ベリウスがエステルに最期に残してくれた言葉が風に流れるように聞こえてくる。
『力は己を傲慢にする……だがそなたは違うようじゃ。他者を慈しむ優しき心を……大切にするのじゃ』

「慈しむ心……」
「バウルにも伝わっているわ。きっと……あなたの気持ち」
「ま、見守ろうじゃないの」

エステルは手を組み祈る思いをバウルに伝える。
言葉は通じなくても、種族は違ってもバウルを思う気持ちが伝わるといい。

「ラピード……」

洞窟の隅で私に擦り寄るラピードを撫でる。
仲間たちが思う中、テムザ山で話をしたことが昔に聞いたことのように感じた。
ジュディスに聞いた?
いや、仲間と同じで今はじめて聞いた話だ。

だとすると

「思い出してるというの……」

この旅を始めてから、小さなかけらを拾い集めている。
でもそれが繋がらなくて繋げ方が分からなくて、私は何もつかめずに居る。

「わうう?」
「……そうだね。結局私が悪いのかも」

何をこんなに悲観しているのだろうか。
答えはすぐ目の前にあって手を伸ばせば近づけるというのに。
私が手を上げると鼻をよせるラピード。
くすぐったいような暖かいようなラピードの言いたいことが直接自分に伝わってくる。
私を心配してくれるのか、いや違う。不甲斐ない私に説教しているんだ。

「ありがと、ラピード……あ!」

ラピードが袖を引くから仲間たちの輪に戻るとバウルが咆哮を上げ一際眩しい光を放つ。
エアルの光が私たちの視界を数秒奪ったかと思ったら目の前には

「バウル……?」

色や姿はそのままなのだけど、洞窟にみっしり詰まる大きさと、見上げなければ バウルの顔も分からない。
竜のような軽やかな体つきは深海で眠るクジラの姿に様変わりしていた。

「おほー」
「すごい!」
「がんばったわね、バウル」
「どうやら相棒はもう大丈夫のようだな」
「ええ、ありがとう。バウルを守ってくれて。私だけだときっと守りきれなかったわ」
「仲間だもん!当たり前だよ」
「じゃの!」

と並んで胸を張るカロルとパティを見てジュディスは小さく笑った。
バウルはエステルの方に体を向けて(大きくなった分動きにくいんだと思う)ほえた。
それは心配してくれてありがとう、そう一言で伝えていた。

「言ったでしょう?ちゃんと伝わるって」
「ふふ」
「フェローにも伝わるかもしれない。会う?フェローに」
「決めるのは……」

ユーリとジュディスの視線が私たちに注がれる。
私に迷いはもうない。
意思を伝えるつもりでうなづくと、エステルも力強く「会います」と告げる。

「それが私の旅の目的だから」
「いいの?殺されちゃうかもしれないのよ」
「はい。私も覚悟を決めなきゃ……」

リタの心配が今の私たちに毒を与える。
レイヴンが場を察したか洞窟の出入り口を見る。

「そろそろ魔狩りの剣の増援が来そうよ。ややこしくなる前に移動した方がいいんじゃないの?」
「でも下りる道はひとつしかないよ。鉢合わせしちゃう」
「バウルを隠してってわけにはいかないよね」

このサイズでは隠してやりすごすというわけにもいかない。
パティが「うー」と一人考えながら空を指差す。

「上が開いているのじゃ」
「んな無茶な」

パティが言うとおり天井は吹き抜けになっていて光と新鮮な空気が行き来するがまさかよじ登れるわけがない。
するとジュディスが私の手を引いて、バウルの背につかまるように言う。

「乗って、とりあえずフィエルティア号まで飛ぶわ。話の続きはそこでね」
「……飛ぶの?」
「えぇ」

私が眉をひそめ、ジュディスに聞くと当たり前のように返事をする。
大きくなったからって根本は何も変わらないのか。
全員バウルの背に乗ったことを確認するとバウルは広い大空に飛翔した。



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