魔狩りの理念

先ほどの下っ端連中がこの二人を呼んできたのだろう、そしてジュディスの慌てようを見る限り彼女の友達は怪我を負ったか、動けない状態でこの奥に居るに違いない。
私はジュディスに落ち着くよう促すと、それを邪魔するようカロルが魔狩りの少女の名を呼ぶ。

「ナン!」

バウル!」
「……どうやら獲物はそこに居るようだな」

ジュディスらしくない……自ら敵に塩を送るまねをするなんて。
洞窟の奥をのぞき、にやにやと笑って言うティソンにジュディスは怒りを露にし、魔狩りの剣の前に立ちふさがる。

「行かせないわ!」
「人でありながら魔物を守るなんて理解できない!」
「手下どもに聞かなかったか?うちのもんに手をだすなっつったろ?」
「い、いくらナンたちでも、ギルドの仲間を傷つけるのは許さない!」

それはカロルの虚勢だったかもしれない。
それでもカルボクラムでは言い返すこともできなかった彼は、少し強くなったのだろう。

「まだ話の途中なのよ!邪魔すんな!」
「まったく無粋な連中なのじゃ」
「あついのは専門外なんだがな」
「ジュディに格好いいところ見せるなら今だとおもうけど……?」
「まじ?おっさんがんばるわ」

リタは蛇腹鞭を、パティとレイヴンはナイフを取り出す。
私もチャクラムを指で踊らし、ジュディスの横に立つ。

「あなたたち……」
「一人で無理しないで」
「あなたに言われたくないわ」
「ジュディには言いたいことあるけど。今はジュディの友達を助けるのが先かな」

そう、ジュディには私の恨み言をたくさん聞いて貰わなきゃいけない。
聞いて欲しいこともたくさんある。

「魔狩りの剣がなぜ人に危害を加えるんですか!」
「魔物に与するものを、人と呼ばんだろう」
「カロル、魔狩りの剣の理念も忘れたの。邪魔しないで」

冷たく言い放つナン。
それはカロルに対しても自分に対しても容赦はしない、そうカロルに告げていた。
しかし、カロルは先ほどのジュディスの告白を聞いていた。
きっと世界にとって希少な魔導器を壊して歩いていた竜使いとしてのジュディスはたくさんの人間に奇異の目で見られ、時には罵声も浴びせられただろう。
それでも始祖の隷長と人間の間に立って、魔導器を壊していた。
誰に頼ることなくきっと一人で。

「魔物は悪……。魔狩りの剣はその悪を狩る者。でも!始祖の隷長は悪じゃない!世界のために」

戦ってきた。
始祖の隷長として人と相容れぬとしても彼らを悪と呼ぶなら人がやったことはなんて呼べばいいだろうか。

「雇われて見境なくなってるんだろ。狙いは聖核のくせに格好つけてるんじゃねぇよ」

冷ややかにユーリは言った。
彼らが魔狩りの剣として正義として始祖の隷長を狩るのか未知の力を持つ聖核のために戦うか、その真意はわからない。
でも、私たちは始祖の隷長を守って戦うというのを正義だと主張するなら、彼らは悪なのだ。

「ふん、話にならんなぁ?どうしても邪魔立てするなら……」
「仕方ありませんね……」

ティソンとナンは各々の武器を抜く。
凛々の明星と魔狩りの剣の全面的に敵対したといっても過言ではない。
パティとラピードに洞窟の中を守ってもらうよう指示を出す。
バウルの様子と、もしどちらか一方が私たちの防衛線を越されたときと、仲間を呼ばれた場合の砦となってもらうために。
パティは快諾するとラピードを従え、洞窟の奥へと走っていく。

私はチャクラムを振り上げると隙と見てきたか、ティソンがこちらに走りこんでくる。
杖を抜こうとしたが、私の前に入りジュディスがティソンの魔爪を受け止める。

「すべての魔物は退治されるべきなんだ!」
「バウルは私が守るの!命を懸けても!」

ジュディスは思いをぶつけ槍でティソンを貫こうとするが、舞うようにそれは避けられる。
ジュディスの攻撃に鋭さがない、気丈に振舞っていたけど体は限界に違いない。

「この重力の楔にもだえ、救いを求めるがいい!グラビティ!」

重力の負荷を掛ける魔術を完成させる。
巨大な黒い風船が頭上から落ちてきてティソンを襲う。

「ぐぁあ!」

風船のように軽く見えても触れれば体重の何倍もの圧力がかかる。
状態は長く続かないにしてもジュディスはこれに機会を見つけたらしい。

「くっそ!めざわりなハエが!」
「その台詞、そのまま返すわ!毎度毎度!」

私の魔狩りの剣との確執は半年前から始まる。
ダングレストで私がギルドの仕事をしているときにギルドのメンバーが重症で運ばれてきた。
その人は治癒術で一命をとりとめたものの後で知った。
魔狩りの剣と魔物の衝突に巻き込まれたと。
後で突きつけてもティソンと同じようにこちらが悪いように罵られたことだ。
それからというもの、私の中では魔狩りの剣は話に出すのも嫌になり、見つけたら沈黙の後に邪魔をすると私の中で取り決めていたらいつの間にか敵とみなされたらしい。当然だ。

「バウルのこと知ってるの?とても人に害を及ぼすとは思えないけどね。百聞は一見にしかずって言葉知ってる?」
「じゃあおめぇも水火氷炭って言葉知ってるのかよ」
「……そう。じゃあ仕方ないよね」
「殺さない程度に相手してあげるわ!」

バウルを狙われ、追い詰められたジュディスは本当に人を殺しかねない冷たい瞳でそう言った。
私も彼女の援助をするため、新しい詠唱に入る。

「雷神の鉄槌!ライトニング!」

ティソンに向け、宙より現れる雷。
それは蛇のように自在にティソンを追う。
それを振り切ったティソンだが、そこにはジュディスがすでに回り込んでいた。

「雷神月詠華!」

ジュディスが薙いだ槍がティソンの腹を裂いた。
ティソンもぎりぎりで避けたがそれは致命傷となり、地に足をつけるティソン。

「きゃあああ!」

少し離れたところで少女の悲鳴が響く。
ナンのものだ。
向こうでも決着はついたようで意識を失ったナンをカロルが洞窟の近くに彼女を運ぶ。

「ジュディ……」
「エル、ありがとう……」
「お礼を言われることでもないわ。だって私たちは……仲間というより友達じゃない」

いつもの軽いしぐさで私に頭を下げようとしたジュディスを止める。
言うのがとても照れくさくて噛んでしまったけどその言葉は伝わっただろうか。
ジュディスははにかむ様に笑い「そうだったわね」と私の手をとる。
私も手を握り返そうとしたときジュディスを呼ぶバウルの声が響く。



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