ヘルメス式魔導器

廃墟の郡を抜け、山頂へと向かっていくジュディス。
彼女が質問を落とす。

「ここが、人魔戦争の戦場だったってことはもう知ってる?」
「ああ、おっさんに聞いた」
「人魔戦争……あの発端はある魔導器だったの」
「なんですって!」

魔導器、その言葉に食いついたのはリタだった。
ゆっくりとした口調で、空を眺めジュディスは真実を語る。

「その魔導器は発掘されたものでなく、テムザ山の町で開発された新しい技術で作られたもの、ヘルメス式魔導器」
「ヘルメス式……」
「初めて聞いたわ……それに新しく作られたって……」

ヘルメスというのはきっと人名だと思う。
しつこいくらいの話になるけど、魔導器は今の技術では復元不可能であり、古代の人間が作ったものであり、コアとコンテナの二つがあってエアルを抑制、変換、エアルをエネルギーとして外部に放出する仕組みになっている。
今の技術ではコンテナの製造は可能だけど、本体である魔核の複製は不可能らしい。
このあたりの話は私なんかよりリタの方が詳しいだろうけど彼女でさえ「初めてきいたわ」と漏らすというのだからそれは未知の技術であるのは間違いないのだろう。

「ヘルメス式魔導器は従来のものよりもエアルを効率よく活動に変換して魔導器の技術の革新になる……はずだった」
「何か問題があったんだな」

「えぇ」とジュディスはうなづいた。
その瞳は語るのを拒むように揺れていたけどジュディスははやり強い。

「ヘルメス式の術式を施された魔導器はエアルを大量に消費するの。消費されたエアルを補うために各地のエアルクレーネは活動を強め、異常にエアルを消費し始めた」
「そんなの人間どころかすべての生き物が生きていけなくなるわ!」
「ケーブモックやカドスの喉笛で見たアレか」
「それだけじゃないね……トリム港やノードポリカのこと」

ジュディスが他人の噂話を聞き、姿を消したときが何度かあった。
ユーリと話をして何も言わないことを決めていたけどそのときもきっと魔導器を壊して回っていたと思っていた。
植物が活発になったり海で魚が大発生したりとエアルの異常を訴えるものだったかもしれない。

「人よりも先にヘルメス式魔導器魔導器の危険性に気づいた始祖の隷長はヘルメス式魔導器を破壊し始めた」
「……それがやがて大きな戦いとなり、人魔戦争へと発展した……」
「……え?」

始めての言葉を聞いているはずなのに、自分自身が違和感を訴えている。
初めてじゃない……?
似たような話をどこかで聞いた気がする。
巨大な魔物と人間の戦い、そしてそれの引き金となったのは「魔導器……」

「エル姐、どうしたんじゃ?」
「……今の話、どこかで聞いた?」

パティが体をゆするので彼女に聞くとパティはやはり首を傾げる。
ジュディスもおかしいといった様子で私を見るので、私は場を濁さないようそのまま黙る。
何か浮き出てくるようで、頭におかしな単語が浮かびあがってくる。

「……じゃあ、始祖の隷長は世界のために人と戦った……」
「どうして始祖の隷長たちは人に伝えなかったんですか?その魔導器は危険だって」
「必要がなかったんじゃない?始祖の隷長が守りたかったのはあくまで世界であって人間じゃない……」
「互いに有無を言わさず滅ぼしゃいいってなもんよ。元々相容れぬもの同士そこまでする義理はなかった。そんなところかねぇ」
「あるいは何か他に理由があったのかもしれないの」
「……たぶん、レイヴンが正解じゃないかな。じゃなきゃフェローも満月の子の脅威を知ってても人間に訴えようとしなかった。一方的に攻撃したところを見ると人間に義理を売る必要もないってことでしょう」

ダングレストでフェローは私とエステルを攻撃した。
無関係な人間も。
それが何よりの証拠である。

「ジュディ姐に何の関係があるものじゃ?」
「テムザの街が滅んで、ヘルメス式魔導器の技術を失われたはずだった……」
「……あ」
「まさか!そのヘルメス式が稼動してる!?」

私とカロルは同じ考えに行き着いていた。

「そう、ラゴウの屋敷、エフミドの丘、ガスファロスト、そして……」
「フィエルティア号の駆動魔導器か……」
「交換した駆動魔導器がそうだったんじゃな」
「それじゃあジュディスは始祖の隷長に言われて魔導器を壊して回って」

表舞台で始祖の隷長が魔導器を壊して回ればまた人と始祖の隷長との戦争が始まる。
だから、ジュディスは一人、孤独と戦い、魔導器を破壊し、回った。

「なら!言えばよかったじゃない!どうして話さなかったのよ!一人で世界を救ってるつもり?」

沈黙が落ちた。
下手に何か落とせば、自責してしまいそう。
でも私も敢えて何も言わずにジュディスの言葉を待っていたのかもしれない。

口を縫い付けられていたけど、テムザ山の頂上から地を割る咆哮と目を潰す光の束が立ち上る。

「な、何!?」
「バウル」
「ジュディ!」

友達の名を叫び、走り出したジュディス。
とっさに彼女の後を追う。
もしかして今の悲鳴はジュディスの友達のもの。
テムザの頂上には洞穴があり、そこを眺める魔狩りの幹部であるティソンとナンの後姿が目に入った。


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