テムザ山

コゴール砂漠から北、そこは一面草木も生えない荒野だった。
聞いた話ではここも昔は人の手が入らない美しい草原だったというが、なぜそれがこんな地になってしまったのか理由は明らかではないらしい。
テムザ山は荒野とそして荒廃した家の残骸が残っている(遺跡と呼んだほうが正しいかもしれないけど)
先に見えるテムザ山は突き出したように天を貫くような鋭い山だ。

先頭を歩くユーリ、ラピード、カロルが急に立ち止まる。
そして膝を折って地面をなぞる。

「これ、人の足跡だよね?ずいぶんたくさんあるな……」
「魔狩りの剣、でしょうか?」
「騎士団かもな」
「え?どうして騎士団が」
「フレンも聖核を探してた。魔狩りの剣が聖核を狙ってここに来てるなら騎士団も聖核を狙ってきてるかもしれない」

ベリウスから生まれた蒼穹の水玉をフレンは狙っていた。
なら魔狩りの剣とジュディスを追ってここに来ていてもおかしくない。
エステルは目を瞑りふっと考えを口にする。

「なぜみんな聖核を手に入れようとするんでしょう」
「ぴかぴか光ってとてもきれいなものだったのじゃ。とても貴重なものに違いないのじゃ」
「……宝石みたいなものなのかな……」
「結局ドンには聞けなかったし」
「ジュディが全部話してくれたら何かわかるかもしれないな」
「ジュディ姐……話してくれるかの……?」
「さぁな、話す話さないはジュディが決めることだ。話さないってんなら……」

とユーリはぐっと拳を握り締める。
パティの表情が曇るので私は彼女の頭を撫でると、パティは私の腕を組み「行くのじゃ」と私の手を引く。

「……れ」

私たちを制止する声が聞こえて、振り向こうとしたら、それが目にはいった。
追いついてきたリタは何よこれとその異様な光景を見ていた。

「山が削れてる……」
「ここで、いったい何が」

プリンをスプーンですくって食べたみたく山の一部が削られ、むき出しになっている。
それも一箇所だけではなく複数。

「ここに街なんてあったのかな……」

レイヴンの話だとここにはクリティア族の街があったと聞くけど。

「十年前に確かにあったんだがなぁ……。今はどうかわかんないわ」
「十年前?そんな前の話なのか。そのときはなんでこんなところに来たんだ?」
「そりゃ……」

とレイヴンは言いかけたときに空から落ちてきた魔物の断末魔の叫び。
その声は、ジュディスの友達のバウルのものに間違いない。

「あの声……バカドラ!」
「何かまずいことになってるんじゃないの!」
「急ぎましょう!」

と駆け出そうとするもの、山道を走るのは危ないとレイヴンに止められ、心だけ早歩きで山頂を目指す。
少し先に道をさえぎるようにクレーターができている。
近くで見ると、焼き跡が生々しく残って、ここであったこと語っていた。

「近くで見るとより、ひどいな」
「こんなでっかい穴ボコ見たことないのじゃ」
「どう見ても自然現象じゃないわね」
「何かが爆発したあとみたい」
「巨大なものが降ってきたとか」

それは俗に言う隕石とか。
でも、こんなにたくさん、テムザ山だけというわけでもないし。

「爆発って……こんなことできる魔物なんているの?」
「ああ、その魔物ならとっくに退治されたんだから」

と当たり前のように言ってみせるレイヴン。
エステルは自分の中知識の本を開いているが検索は失敗したらしい。

「退治されたってどういうことです?」
「ここが人魔戦争の戦場だったってこと」
「え!そうなの?」
「ということは……ここで人と始祖の隷長戦ったんですね……。戦いは人の勝利で終わったが、戦地に赴いた者に生存者は殆どおらず、その戦争の真実は闇に包まれている。公文書にも詳しいことは書かれていません」
「じゃあ……この有様は始祖の隷長の仕業ってことか……、すさまじいわね」
「人魔戦争……十年前」

パティが指で折るように言葉を繰り返す。
何か大切なものを探るよう。

「エステルはまだ小さいころですね」
「じゃの……」
「でもここが戦場だって話、聞いたことないぜ」

人魔戦争はとても有名な話で、いまだその傷を負ったものがいる。
一般の人間、私が知る限りでは10年前、人とクリティア族の街が襲われたという。
そこで帝国騎士団がそれの制圧に向かったが、帝国の騎士団はほぼ壊滅。
テズエールにあった街のいくつかが沈んだと聞く。
あとはエステルのいうとおりだった。

「色々、情報操作されてるのよ。帝国にね。知られたくないこといっぱいあったんじゃない?」
「魔物が人間相手に戦争っておかしいと思ってけど……」
「その魔物というのが始祖の隷長ということも知られたくない事実だった」
「……戦争でなくなった人はたくさんいるって聞くから……そのためではないかな……」
「まぁ、それもあるんじゃないかな」
「レイヴン、ずいぶん詳しいんだね」

少し見直したかも知れない。
レイヴンは腕を組むと、別人のように風変わりし言う。

「少年少女の倍は生きてると色々あるのよ。ほんとに」

それは普段のおちゃらけているレイヴンだったら私はまたふざけていたに違いない。
何か背負っている大人だからこその説得力というのだろうか。
私も、リタもカロルもレイヴンに色々聞きたいことはあったけど、ユーリが「歴史の勉強はもういいだろ」と私たちの背中を押す。

「俺たちはジュディを探しに来たんだ」
「先ほどの魔物の声……ジュディスたちももう追い詰められているかも」
「ジュディ姐は強いのじゃ。簡単にやられるとは思えないのじゃ」
「当然でしょ?それに……あのバカドラはあたしがぶん殴るんだから先を越させないわ」

と私たちを追い抜き、複雑な表情で言ったリタはテムザ山を見上げる。
リタの風景の中にはジュディスの友達が移っていただろう。
リタを葛藤の中に追い込んでいる。

「ジュディは強いか……」
「ん?」
「あ、いやね。ジュディは強いと思うのだけど……それは一人で戦う強さということでしょ……だから急がないと」

その強さは考え方によってはとても強いのだけど、脆い。
そして折れてしまったときに本当に取り返しのつかないことになる。

「わかってんならさっさと行くぞ。いいな」

ユーリの言葉に私は強く肯く。



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