慈しむ心


私が人肌のぬくもりを持った魔導器の魔核を両手で握り締め、私は祈るような気持ちで言葉をつづる。

昔から、自分が世界の一部ではないという孤独を感じていた。
周りには自分を知らない人間ばかり、優しくしてくれるのがただ記憶喪失の哀れみか、それとも治癒術に利用価値を求めるからかと。
それは違うと私に正面に立ち教えてくれる人に会うまでは。
孤独を感じたとき、魔導器に触れていれば大丈夫、そう言い聞かせてくれる声がして、私は安心を出来た。
だからこそ、周りから変な癖と呼ばれるものが自分の中に染み付いたのかもしれない。

「……ベリウス……いま」

助けるから。
その言葉を云ったのはきっと初めてではない。

魔核に触れていると頭に浮かんでくる言葉。
事態を読み込めていない大丈夫だからと笑いかけると、私はそれを口にする。





「……ぁ……」

ふと目を開けると、おかしな光景が目に入った。
先ほどまで目に入っていたいほど舞い上がっていた砂煙がまったく動かない。
夜風もぴたりと止まり、先ほどまで冷えていた体が嘘のように温まっていく気がした。

「ユーリ……?」

そしてなんとも異様だったのが、石像のように表情や動きをなくした仲間の姿が。
ユーリは私を止めようと手を差し伸べている姿のまま動かない。
カロルも剣を持ち直し、レイヴンも弓を構えている。
リタもエステルもパティもその姿を見上げてるだけのまま。
まさか、今の一瞬で自分だけ殺されてしまったのではないかと思い込んでしまう。
しかし、ベリウスの姿も雄たけびを上げたままで止まっている。

そんな中、太陽の黒点のように間違い探しで一番に見つかるようなおかしな人物が目の前に移っていた。
私から少しはなれた真正面に立った、男が一番イレギュラーな存在に見えた。

其の男は私と同じくらい髪が長く、腰まで届くウェーブのかかった長い髪。
月の色をした銀色の瞳と、草色のマントを纏っている。

彼は囚人を捕らえる看守の瞳で私をじっと見据えていた。
でも不思議と怖くなく、私は目の前の光景を自然、自然に受け入れていた。

「……ゼグンドゥス……」

彼の名を呼ぶとふっと蜃気楼だったかのように姿が消えた。
私が探すようにあたりを見渡そうとすると、彼の姿は私の顔のすぐとなりにあった。
振り向けばすぐにぶつかってしまいそうな、位置で腰を折り、私に語りかける。

『時間がない……ここにきた意味を早く……』

「知れ」と彼は告げた。
その刹那、時は動きだす。

カゼの音が戻り、ユーリは私の肩をつかんだ時だった。
私の目の前に、見覚えのない術式が地面に描かれ、地面から黒い杭が生まれ
そして

「あああああああ!」

ベリウスを貫いたのだ。
罪人を断罪する杭はベリウスの体を地面に打ちうけた。

「な……」

こんな術、私は知らない。
なぜ、発動したかも。
さっきの男「      」がやったのか、彼は

でも、
手を下したのは私だ
私の……力が

「ベリウス様!」

ナッツさんの声が響いた。
私が顔を上げるとベリウスは青い光を放つ。
其のぼんやりとした幻の光は解けるように世界になじんでいく。

「今度はなに!」
「こんな結果になるなんて……」
「ジュディス……」

長いため息をつくジュディス。
エステルはベリウスの前で膝をつくと泣きそうな顔で謝罪を繰り返す。

「ごめんなさい……。わたし……わたし……」
「気に……病むでない。そなたはわらわを救おうとしてくれたのであろう……」
「あ……」
「ティアルエル……そなたも……嫌な役を背負わしてしまうな……」
「……!」

ベリウスはそのとき、笑っていったような気がする。
ベリウスは更に光を放つと、世界になじんでいく。

「ごめんなさい……わたし」
「力は己を傲慢にする……だがそなたは違うようじゃな。他者を慈しむ優しき心、大切にするのじゃ……。フェローに会うがよい。己の運命を確かめたいのであれば」
「フェローに……」
「ティアルエル。そなたは強い……己の運命から背をむいてはならない……」
「自分の……運命」

そう告げたベリウスは、ふとナッツさんに視線を投げると、子供をあやす母親のような声で言った。

「ナッツ、世話になったのう。この者たちをうらむでないぞ……」
「ベリウス様!」
「ま、待ってください。だめ!お願いです!行かないで!」
「ベリウス……さようなら」

「ごめんなさい」その言葉は届かなくて、私はただ空振りをした左腕を握り締める。
体が寒くてかたかたを震える体を自身で抱きしめていた。

ベリウスの最後に放った光が集まって生まれたのは深い海の色の石だった。
石は最後にベリウスの声で託す、『わらわの魂、蒼穹の水玉(キュアノシエル)を我が友、ドン・ホワイトホースに』と。
私はその石を手に取ると、氷のようにつめたい石を泣きそうな思いで抱きしめた。
隣ではエステルが地面に崩れ落ち、泣きそうな顔で私たちを見上げていた。

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