ひねくれもの

エアルは空気と同じだ。
大気中に存在しない目に見えないエネルギー。
私たちの生活を豊かにしてくれたり、戦争兵器にもなる魔導器の源でもある。

「っと」

よっとと掛け声を掛けながら一気に階段を登る。

「お前、何で来たんだよ」

ユーリはこちらを振り向いて、そう呟いた。

「伝言を頼まれたの」

ユーリが飛び出してすぐに同じ方向に向かうといったらハンクスお爺さんが

「無茶だけはするなーって」
「言われなくてもしませんよっと」

と、ユーリは一人で笑った。
そしてサンキュと手を振るとまた歩きだす。
それ追うように大またで付いていく。
それにしてもこの人は何者だろうか。
腕には武醒魔導器をつけていて、物騒なことに片手には幅のある剣。
そして寄り添うように歩くのは青い毛並みの犬。
口にはそれなりに値段のつきそうなキセルが咥えられている。
それに身のこなしといい軍用犬か何かなのは見て分かる。

「おい」
「……」
「おい、聞いてんのか?」
「あ、私に言ったの?」
「他に誰に言うんだよ」
「おいさん?」

自分で言っておいて思った。
「おい」さんて何者だろうかと。

「なんで付いて来るんだよ」
「違うよ。私が行こうと思ってる方向にあなたがいるだけ」
「貴族街になんか用でもあんのか?」
「さぁ?そういうユーリさん?こそ無茶しないで何をしに行くつもりなんですか?」
「お前、相当意地悪な性格してんな」
「よく言われます」

と、ため息をつきながら再び歩き出す。
帝都の貴族街はこのテルカ・リュミレースでも相当権力の持った人間でしか立ち入ることを許されない、いわば貴族様たちの神聖な空間。
その絢爛な巨大な門を数人の騎士が守っている。

「おい、そのまま入るつもりか?」
「いや、無理でしょうね」
「だよな。ちょっと来い」

と、ユーリは私の手を引き、ちょうど向こうからは死角になる花壇の影に引き込む。
そこで騎士団が何か私語を交わしているので私たちは聞き耳を立てる。
それはあまりよく聞こえなくて私は首をかしげていた。
ユーリの耳にはしっかり届いていたようで。
近くにあったレンガの破片を男にぶつけた。
それは見事の額に命中し、一発K.O。
何事だと、あたりを警戒する片割れの騎士も同様に見事にクリーンヒットを決めてその場で目を回していた。
きっと二人の頭の中ではヒヨコさんが飛んでいるに違いない。

「おー。かっこいい」
「そりゃどうも。ほらいくぞ」

と、ユーリは白昼堂々と貴族街を歩いていく。
それなりに人気は少ないもののこの格好だと目立つんじゃないかという疑問を持っているがお構いなし。

「ラピード、追えるか?」
「ワン!」

ラピード器用に人目を避けるように走りだす。
標的の追尾もできるなんてやっぱり何か特別に訓練されたに違いない。
私たちはゆっくり貴族街の奥へ進んでいく。
その過程でいやでも気がついたこと。

「ここの魔核もないね」

それは夜足元を照らす魔導器だろうか。
何もない、その凹みをなぞればユーリがこちらを覗き込む。

「節操もないやつなんだな。そのモルディオさんは」
「それにしても魔核は貴重なものでしょ?下町の人たちは存在すら知らなかったとして、騎士団とかが気づかないもの?」
「お前、あれがそんな繊細なところまで見てると思うか」
「あんまり思わないね」
「それに貴族様は魔核の1個や2個、なくなったって何も困りはしないんだよ。ったく、こっちはお祭り騒ぎだってのによ」
「まぁ、そうだね」

一般人にとっては一生働いても稼げない額だったりするし。
それにしてもそのモルディオさんはこんなに魔核を集めて何をするのだろうか。
売ればいいお金になるが下町からお金まで巻き上げているのだ、どっかに流すという点は薄くなっている。
やはり、昨日下町で聞いた情報は間違えないのだろう。

「何だよ、そんなに考えこんで」
「ねぇ、ユーリさんは下町の人に関して詳しいよね」
「あぁ、まあな」
「なんか昨日か、おとといからか見ない顔の人とか見なかった?」
「そりゃ、お前だろうな」
「いや、私じゃなくて」
「見ない顔なぁ……」

ぶつぶつと考えこむ。
それはたぶん居かったということを分からせさせた。

「わからないならいいの」
「何だよ。パパでも探してるのか」
「探し物をしてるっていうのは間違ってないね」

そう笑うと、ユーリはだろうなと相槌を打つ。
そんな緩い会話の中でラピードが戻ってきてユーリの服の裾をかんだ。

「お、見つけたか。どうする?」
「私?そうだね。時間はあるし一緒に行こうかな」


といって走り出すラピードとユーリの後を追った。



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