結界魔導器の暴走

「リタ!」

結界魔導器の元に駆けつけた私たち、そこで合流したフレンとその部下たち。
それよりも驚いたのは結界魔導器の異変だった。
まるでドリルのように天に向かって伸びるこの街の結界魔導器の異変。
異常な熱を持ち、辺りはまるで砂漠のような暑さ。
そしてカルボクラムの地下で起こった現象と同じ、濃度の高いエアルが魔導器を中心に渦巻いていた。
あのときのように魔導器の暴走だろうか。
魔導器の操作パネルに向かって走り出すリタ。
街の人間や騎士団も体に害を及ぼす視覚化したエアルのせいで体が動かないらしい。
しかも目に見えるエアルが何か障壁のような働きをしているらしく魔導器の近くによれない。
私が唯一この中で立っている私でさえ、この地響きせいで体が動かない。


「よせ!リタ!」
「黙って!この子を放って置けないのよ!」
「っち!あの魔導器ばか!」
「ユーリ!」

膝を折って立てないで居るユーリは肩を揺らして息を注いでる。
リタも同じくらい苦しそうだが必死に魔導器に語りかけながらキーを恐るべき速さで打ち込む。

「大丈夫、エアルの量を調整すればすぐに落ち着くから。元通りになるからね」
「危ない!今すぐ離れるんだ!」
「フレン!なんでここに!」

フレンのほかにアレクセイの隊もぞろぞろと集まってくるがエアルの影響と障壁に阻まれて身動きが取れない。
今あの魔導器をどうにかできるのは中心に居る天才魔術師のリタとそして

「わたし…」

分かってはいたけど、行動にいたれない理由がいくつかあった。
しかし、そのままでいると一度仲間と認めた彼らを見捨てることになる。

ぎゅっと杖を握り締めた。
それは私の中で覚悟を決めた、んだ。

「貫け、雷!サンダースピア!」

私の中で何かがはじけた気がした。
私が守るべき物は個人のプライバシーだけかと思っていた。
身バレさえしなければ逃げてもいいし、自分は帝国とギルドの仲を持つ調停役なのだからある程度の無理とそして行動は許されると思っていた。
最初、あの密書を手渡すようにといわれたときはなんとも面倒だと思った。
私の住む街、ダングレストから帝国まで歩きや馬車、船で2ヶ月は掛かったし、おまけに一人で此処まで来たのだから。
命の危険はそれなりに覚悟していた。
でもそれは私個人の問題だけであって、それがまさか他人を守ろうとは、
何でこんなに心を閉ざしたか知らない。
でも、私が大切なものを失ってからいつか他人と自分とは違うものだって分かっていたような気がして
ドンはそんな私を見かねて一人で旅をして自分を見つめ直させるために私をこんな面倒な旅をさせたのかもしれない。

私が放った雷の矢がエアルの膜を貫いた。
その一瞬を狙って私は体をねじ込ませた。
ユーリの呼ぶ声がとても遠くに聞こえた気がした。

結界の中に入って気づいたのは体を襲う倦怠感だった。
そしてやはり生ぬるいものが体に入ってくる感覚がする。
それはまるで口から含んだ水が体に浸透していくさまを感じている。
そしてつま先まで行きわたったときに体を襲ったダルさが消えた。

「あれは……?」

それは傍観を決めていたアレクセイの声で私は自分の異変気づいた。
体が火照ったとだけかと思っていたが、金色の光が私の体の内側から放たれた。
それは火のついたランプのようで。
そして気づいたのは自分が魔術を使うときと同じ

「エアルを取り込んでる……?」

かなりの量だ。
私はリタが言っていたエアルが人に与える悪影響の話を思い出した。

「そんな!この子の要領を超えたエアルが流れ込んでいる。このままじゃエアルが街を飲み込むか、下手をすれば爆発……!」

最悪を想定させる一言に我にかえった。
どこから吹く風か分からない突風が私の進む道を阻むけど何とか踏みとどまった。
体が魔導器の一部に触れた。

「あんた」
「リタ、どうすればいい?」

ずるずると体を必死に魔導器を掴んで身動きを取れなくなっていたリタに問いかける。
自分で想像できないくらい大きくて、必死な声だった。

「……っ!あたしが言う鍵を押して早く!」
「分かった」

自分で出来ないことが悔しいのだろう、リタは血がにじむほど唇をかみ締めたが鍵盤を順に習って述べていく。
かなり早口で。
私の手はそれに追いつくのに必死だった。
そしてリタに言われた鍵盤を全てこなしたとき
一瞬、結界魔導器の音が大人しくなったと思った刹那、また再び稼動し先ほどよりも巨大なエアルの波が発生した。

「あんた……!」

その膨大な量のエアルは魔導器とそして大半は私に流れ込んだ。
リタの驚愕を映した瞳が私を捉える。
私に流れ込んだエアルは体の外に放出されていく。
植物になったような奇妙な感覚、根を張って大地に自分の一部を提供しているような。

「これ、エアルじゃない……?」

私から出たものはエアルとは別のものに感じた。
違いを明確に聞かれれば言いよどんでしまうけど。
そのとき、魔導器から不穏な動きが見えた。

「リタ!」

私の声は爆発音と同時に響いた、それは彼女の声に届くこと無かったと思う。
魔導器に残ったエアルが干渉し、爆発が起こったと気づいたのは爆風で体が浮いて全身が体に叩きつけられたそのときだった。

「リタ!しっかりして!!」
「エステル?」

エステルの枯れた声が私の耳についた。
私と一緒に吹き飛ばされたリタは多量の出血をしている。
彼女の服はもともと赤いがそれを上塗りする紅。
エステルが治癒術を掛けると、辺りには優しい風が吹く。
しかし、騎士団の、アレクセイの顔色だけが悪いように思えた。

「おい、大丈夫か?」

横たわったままの私の体をユーリが支えた。ぼんやりとその光景を眺めていた。
エステルはリタの名前を必死に呼びながら彼女に治癒術を掛ける。
そう、いつものフリを忘れて。
自分でもおかしいと思うくらい私はそのとき冷静だった。
しかし、心臓は高鳴って、そして何より息苦しかった。

「おい、エル!」
「……」

無言のまま、ユーリを見上げると私より彼のほうが青ざめていることわかった。
ユーリが私の額に手を当てるとぐっと全身に一巡りする痛みが走った。

「わぁぁぁ!」

私、ではなく遠くで見ていたカロルの悲鳴が耳についた。
ラピードもユーリの隣でいつまでもぼんやりとしている私を叱りつけるように吠えた。

「お前!血が出てるぞ!」
「血?」

そして額に手を重ねると生暖かい液体が私の手を染めた。
それはどろっとしていてとても気持ち悪い。
そして、それを瞳に映したときだった。

「っ……」

ひとは傷口を認識したときに痛みが全身にめぐる。
それが一周して帰ってきたとき、頭が割れるような頭痛が襲う。

「あ……っ……」
「エル?おい、どうした?」
「ぃ……あ……」

世界がだんだん色をなくしてきた。
ユーリの顔すら白く見えてきて。

『この世界のために犠牲になってくれ』
「だ……れ……」

それはノイズのようにがさがさと混ざったような声。
それがとても憎たらしく聞こえた。

「おい、エル!しっかりしろ!エステル!こっちも看てくれ!」
「はい!」

そんな二人の声が聞こえて、
私の視界は完全に色を無くしたかと思えば
色は急に一転した

「赤……っ。げほ……げほ……」
「おい、エル!エル!」

それはラゴウ執政官邸で見た、色と一緒だった。
視界が完全に何かに支配されたとき、私は意識が飛んだ。
まったく体が動かなくなって、視界が白と赤がまぜってマーブル状態になっていたことまでしか覚えていない。

そして、混ざった2色
完全に赤が勝ったときに私は気づいた。

その赤は血の色だって


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