水道魔導器


「なんだ?どでかい宝物でも沈んでるのか?」

肩を鳴らしながら水道魔導器まで来てみればみな騒ぎを聞きつけて集まっていた。
噴水のようなその魔導器に急ぎで作ったであろう土嚢を投げ込んでいる。
あぁ、こりゃ骨の折れる仕事だろうに。
先ほどまではくるぶしの辺りまでぬれる程度だったのに今じゃズボンがびちゃびちゃにぬれている。
こりゃ災害だな、と苦笑いした。



「あぁ、でもユーリには分けてやんねぇよ。来んの遅かったから」
「はっはっは。世知辛いねぇ」

冗談でたずねてみれば、顔見知りが笑って答えた。
この下町特有のノリの良さは嫌いじゃない。
まぁ、こんなむさい男たちがみんな暗い顔して作業なんてしてたら逃げたくなるからな。

「そう世知辛い世の中なんだよ。魔導器修理を依頼した貴族の魔導師さまもいい加減な修理しかしてくんないしな。」

そういや今朝、濁った水しか引けなくなった水道魔導器の修理に魔導師が来るとか話をしていたっけか。

それからずっと水道魔導器から出る濁った水と格闘しながら土嚢で固めていくが水柱は一向に引かない。それよりひどくなっている気がする。
そんな中、ひときわはしゃぐ……率先している老人を視界に捕らえる。

「ハンクス爺さん。がんばっているな」
「責任感じてるのさ。修理代、先頭立って集めてたのじいさんだから。じいさんもばあさんの形見まで手放して金を工面したってのに」
「その結果がどかんとはね。けど魔導師が手抜き修理するのはじいさんの責任じゃねぇよ」
「まぁなあ」

爺さん、あの形見を大事にして俺にも見せてくれなかったけか。
貴族が腐っているといのは今までの人生の中で見てきたが簡単な修理でさえ手抜きをする。
手抜きどころじゃ、被害が拡大してりゃ世話ねぇよな。

「おい、そこの嬢ちゃん。危ないぞ、下がってろ!」

と、ハンクス爺さんの怒鳴り声が響いた。
ざわざわと外野の声が聞こえる。

「あいつ……」

ハンクス爺さんの視線の先には水浸しの少女がいた。
銀色にも見えるその金髪は、騎士団に絡まれていた、少女だった。
水にぬれることも周りの警告もものともせず魔導器に近づいてそして魔導器触れた。
すると、水柱が半分の高さになった。

周りからおおと歓声が上がる。

「あの、おじいさん」

目を丸くしてその少女を見つめるハンクス爺さん。
そりゃ俺だってびっくりはしたけどな。

「すごいなお嬢ちゃん」
「いえ、機能を弱めただけなんですけど、それより。魔核はないんですか?」
「ん?ないのか?」

魔道器の動力源ともいえる魔核。
魔道器と魔核が揃わなきゃ魔導器がないならこのぶっ壊れた理由はだいたいここに居る全員が察してきただろう。

「本当だな」
「あ……」

魔道器から離れてコートの裾を絞りながら聞く少女と爺さんの間に割ってはいる。
まぁ、こいつが気づかなかったら下町の連中は倒れるまで肉体労働を続けていたに違いない。

「昨日の人」

俺を見て、ぽつりとはく、少女。
それくらいの認識しかないのか。
それはともかく。

「なぁ、爺さん。最後にこの魔導器触ったの修理に来た貴族さまだよな」
「あぁ、モルディオさんじゃよ」
「貴族街に住んでるのか」
「そうじゃよ。ほれもういいからユーリもみなを手伝わんか」

確か、修理に来たのは今朝だっけか。
そんなに時間はたっていない。
こんなことをいくら繰り返していてもそれこそ無駄ってもんだ。
それにとっ捕まえるならなるべく早いほうがいい。
また俺は、損な性質してんな。

「悪い、爺さん。用事思い出したんでいくわ」

そういって水を避けるように待っていたラピードを呼ぶと俺は走りだしていた。


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