新興都市ヘリオード

「続けて、18番目の罪状を確認する」
「はい、どうぞ」

あー肩がこったなとならしてみればちゃんと話を聞けといわれる。
カルボクラムから体の冷えも抜けないまま、騎士団の詰め所に押し込まれて今までの自分を振り返っている。
カロル、リタも隣に座ってうんざりといった様子で床の模様を見ていた。
今、こうやって詰問をしているルブランは自分的には嫌いじゃない。
優先順位といったものを間違っているが性格や行動、信念といったものは騎士団の中ではまともだ。

「三ヶ月前。滞納された税の徴収に来た騎士を川に落した。間違いないな?」
「そんなこともあったな。あれはデコだっけ」
「デコというなであーる」
「あれ?デコって名前じゃないの?」

と、割って入ったのは一人だけ肩から毛布を掛けて大きな自分用であろうマグカップに暖かい湯気の立つ紅茶を啜るエル。
「そう」と俺が短く答えを返すと、本人に名前を聞いている。

「おかげで私は風邪を引いて、三日間寝込んだのであーる」
「つまり意外に虚弱体質と」
「なな!なんという言い草なのであーる」「で、あといくつあるの?飽きてきたんだけど」
「僕はどうなっちゃうんだろう……」

と一人呟くカロル。
巻き込んだ形とは言え、騎士団に捕まるということは不名誉なことだろう。

「大変そーだね。ユーリ」
「誰かさんのおかげでな」

茶すすったまま呟くエル。
本当に他人事だな、こいつ。

「んで?アンタだけ開放されてるのよ」
「だって被害者だもん」
「よくもまぁ、ぬけぬけと」

いえたもんだ。

「話を聞きたい。ユーリ目に乱暴されませんでしたか」
「そんなわけないだろ。」
「っ!痛い」
「大丈夫ですか!?」
「おい……」

いきなり胸を押さえてしゃがみこむエル。
それに駆け寄るデコとボコ。
こいつ今更病持ちとか言わないだろうな。

「痛いわ……」
「大丈夫であるか!」
「ユーリ貴様!!」
「……心が」
「お前な」

わざと二人に聞こえないくらい小さく呟く、こいつ本当に腹黒い性格してるんじゃねぇか。
べっと舌を出して笑うエル。

「お前うまく丸め込んだだろ」
「さて?何のことかな?」
「そういや、おまえらんところの何もしない隊長はどうした。シュヴァーンつったっけ?」
「偉いからさぼりでしょ?」

いつも誇らしげに隊長の名前を挙げる割にはその隊長はまったくというほど見掛たことはない。
それは俺が騎士団に所属しているときもだった。
リタの指摘に声怒鳴りながらルブランは言う。

「我らの隊長を愚弄するか!シュヴァーン隊長は十年前のあの大戦を戦い抜いた英傑だぞ」
「要するにあたしらなんて小物。どうでもいいってことね」

リタも相当いらだっているのか、口調がいつもよりきつい。
こいつらには何を言っても無駄なのは分かるだろうに。

「えぇーい!次の罪状を確認するであーる!」

アデコールが手に持った書類を机に叩きつけて怒鳴ったそのとき
部屋の扉が何の前触れもなく開いた。
唯一、エルの紅茶をすする音だけが部屋に響いていた。
そして現れたのは帝国の地下で一回会った(正しくは見掛た)人物。
立派な白銀の甲冑をまとったコイツらとは威厳も品格も天と地ほどの差がある騎士。

「あ、アレクセイ騎士団長閣下!」
「何?」

俺は思わず硬直した。
俺だけじゃない思いもしない訪問者に固まっていた。
帝国の騎士団長1位の地位にあってその全権を任される人物と一歩後ろに表情をまったく変えない、クリティア族の美人を連れている。

「アレクセイ……?」

エルもさすがにカップを置いてこちらをじっと見ていた。
ルブランたちもさすがに自分たちの上司の中の上司が出てきたためか、ぴったりと固まったと思いきや敬礼をする。
そして室内を見渡したアレクセイは俺に近づき淡々と言った。

「エステリーゼ様、ヨーデル様。両殿下のお計らいで君の罪は全て釈免された」

エステルがちゃんと事情を全て話してくれたんだろうが、騎士団長自らそれを言いに来たとなると、なんともむずがゆい。

「な、なんですと!こいつは帝国の平和を乱す凶悪な犯罪者で……」
「ヨーデル様の救出およびエステリーゼ様の道中の護衛。騎士団として礼を言おう」
「こちらを」

来客の二人はルブランをまったく相手にはせず、中身が詰まった重そうな袋をこちらに差し出してくる。

「いらねぇよ。そんなもの」

それは謝礼というものだろうがそんなもんが目的でエステルとお姫様と旅をしてきたわけじゃない。

「騎士団のためにやったわけじゃないしな」

ま、もともとは下町のためうごいちゃくれない騎士団の代わりにってのもあるけど、魔核泥棒を追うことはあくまで自分で決めたことだ。
アレクセイはふっと笑うと「そうか」とうなずき、クリティア族の連れにそれをしまうように手で命じた。

「ねぇ、アレクセイさん」
「なんだね?」

今までずっと黙っていたエルが急に口を開いた。

「エステリーゼはどうするの?」
「……」
「?」

エルが問うとそれには答えず、というより心あらずといった様子でエルの顔をじっと見るアレクセイ。
それに顔をしかめるとやっとアレクセイは表情を取り戻して「すまない」と、軽く謝罪を述べた。

「君のその武醒魔導器はどこで手に入れたんだ?」
「これ?」

最近、それをよく耳にするが(俺も言ったが)あれは何か特別のものだろうか。
しかしエルの返事は俺のときとまったく同じで

「分からない」

と淡白に答えた。

「最近、似たようなことはたくさん言われたけどまさか騎士団長閣下に言われると思わなかったわ」
「そうか」

一方のアレクセイはそれには納得しないものの、それ以上の興味は示さなかった。

「エステリーゼ様には先ほど帝都に戻る旨、ご承諾いただいた」
「えっ……あ、でもお姫様なら仕方ないか」

そういって黙り込むカロル。
リタはアレクセイが入ってきてから得意の悪態も無くなって黙りこんだままだ。
目をつむって体を揺らしながら話を聞いているところから見るとかなり機嫌も悪いのだろう。

「姫様にはお待ちいただいている。顔を見せてやってほしい」

それはつまり分かれの挨拶の時間を作ったから、きちんとけりと覚悟をつけて置けとそういわれているのと一緒だった。
俺たちはただ無言のまま、その尋問室を出た。

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