捕縛


「何かあればいつもそう!いつも一人で逃げ出して!」

うんざりといった様子でナンは腕を組んでカロルに言い放った。
私たちが建物を出るとその前で行われていたのはカロルとそして魔狩りの剣ナンの言い合いだった。
言い合いといってもそれはナンが一方的にカロルにぶつけているものであった。
「違うよ」と否定の言葉だけ繰り返すカロルに対してナンは怒りを露わにして問い詰める。

「何が違うの!?」
「だからハルルのときは……」
「今はハルルの事は言ってない!ついさっきの話よ」

カロルは何も言い返せなかった。
それは事実でみなが目撃してることだったから。

「大体!やましいことがないなら、なんでこんなところに隠れているのよ。堂々としていればいいじゃない」
「……だから、それは」
「あたしに説明しなくていい、ほら。する相手が来た」
「え?」

カロルがこちらを向く。

「みんな……」

目が合うと表情を曇らせて俯いた。

「カロル。無事で何よりです」
「まったくよ。どこいっていたんだか。こっちは大変だったのに」
「ご、ごめんなさい」

小さく言葉を述べたカロルの頭に手をのせぽんぽんと叩いたユーリ。

「ま、怪我もないようで何よりだ」
「うん……」

その様子をじっと見ていたナン。
彼女にとってユーリたちの対応が予想外だったのだろう。
自分と同じようにカロルを責めると思っていた。
逃げ出すことが悪いと、決め付けていたのだろう。

「もう行くから」
「ま、待って」
「自分が何をしたかちゃんと考えるのね……じゃないともう知らないから」


そういい残したナンは背中を向け、足早に廃墟の中に消えていった。
カロルはその後姿を見つめて、ため息を漏らした。
しかし、涙をこらえているのだろう。
体は震えている。
そんなカロルの頭にまた手を置くと今度がぐしゃぐしゃと髪をかき乱した。

「わっ!ちょっと。やーめーてーよ」
「行こう。カロル。もう疲れた」
「ユーリ」
「私も暖かい紅茶が飲みたいな」

ユーリはこういうときのうまい励ましの言葉を知らない。
むしろ今のカロルには下手な言葉は不必要だろう。
それ以上何も言わないユーリを納得のいかない表情で見ているカロル。
でもそんな中にもカロルは救われた気持ちでいっぱいっぱいだっただろう。


無言のままで出口に向かって歩いていたときだった。

「ん……」
「わふ」

私とラピードが同時に反応した。
聞こえたのは水溜りをふみ足音。
ばしゃばしゃと音を立てながらこちらに近づいてくる。
ラピードがうぅと獣の威嚇を見せるとユーリもただ事ではないと剣を強く握り締めた。

「あーあ。そういえば」

この中に高額の懸賞金を掛けられた人がいたっけ。
それにフレンに認めてもらったとはいえ、エステルを迎えがやってきたのだろう。
やがて鉄の擦る音がすぐ近くで聞こえた。
それは紫のマントをまとった騎士の人間が10人近く。
すでに私たちが来た背後にもその騎士の小隊は回っている。
完全に包囲されたか。
                                                                                                                                                                                                                      
「ようやく見つけたよ。愚民ども。どこで止まりなよ」
「あ……」
「わざわざ海まで渡って、暇な下っ端どもだな」

それは帝都で散々お世話になったキュモールというナルシスト男が従える小隊だった。
前回と同じ色の悪い口紅をした、なんとも奇妙な露出を見せる鎧。

「くっ、君に下っ端呼ばわりされる筋合いはないね。さ、姫様はこちらへ」

ユーリの言葉に唾を飛ばしながらも平静を保ちエステルを手招きして言うキュモール。
私とユーリ、リタの視線がエステルに集まった。

「え?エステルが……姫様?」

事態を把握できていないカロルだけがきょろきょろと辺りを見渡している。

「やっぱりね。そうじゃないかと思ってた」
「え?リタも」
「私は最初から知ってたけど」
「ぇぇ!?」
「やっぱり、知ってて近づいたんだな」

各自好き勝手に言っているが。
エステルは先頭に出、そして前に手を組んで凛として言った。

「彼らをどうするのですか?」
「決まってます。姫様誘拐の罪で八つ裂きです」
「待ってください。私は誘拐されたのではなく」
「あーー!!五月蝿い姫様だね!こっち来てくださいよ!」

とキュモールはエステルの手首を掴み、引く。
それを振り払おうとして必死に抵抗をするエステル。
誘拐犯はどっちかといいたくなる。

「これが本当の不敬罪っていうの?あなたこそ八つ裂きにされたくなかったら今すぐにその手を離したら?」
「うるさいなっ!」

私の言葉がお気に召さなかったのか声を荒げて言うキュモール。
そして部下たちに私たちをこの場で殺すことを命じる。
キュモールの言うがまま武器を構える騎士団の面々。
私たちも腰から武器を抜いたとき、どこかで聞き覚えのある胸をはった声が響いた。

「ユーリ・ローウェルとその一味を罪人として捕縛せよ」

今度あわられたのは橙のマントの騎士団の人間。
それは帝都でユーリをしつこく追っていたルブランとデコとボコ。

「げっ。貴様らシュヴァーン隊」
「シュヴァーン隊……?」

それは騎士団も中では一番有名な隊の名前。
彼らはシュヴァーン隊の人間だったのか。
シュヴァーンは10年前の人魔戦争を生き残った英傑であり騎士団で2番目の権力を持つ隊長の名前だ。
ルブランの指示のままデとボコは縄と取り出す。
あわてて割ってはいるキュモール。

「待ちなよ!こいつは僕の見つけた獲物だ!むざむざ渡さんぞ」
「獲物、ですか。任務を狩り気分でやられては困りますな。それに先ほど死ねと聞こえたのですが」
「そうだよ、犯罪者に死の咎を与えて何が悪い」
「犯罪者は捕まえて法の下で裁くべきでは?」

っちと明からに舌打ちをすると、忌々しいよ言った様子で私たちを見比べる。

「ふん、そんな小物お前らにくれてやるよ」

本当に嫌な性格をしている。
いや、貴族の嫌な面をそのまま鏡で写したような感じ。
キュモール隊はそのまま退いて行く。
ルブランたちはエステリーゼを丁寧にエスコートしていく。

「私は?」
「あなたはこちらへ」
「いいの?」

私は、お縄頂戴しないらしい。
ルブランに言われるがままエステリーゼの横に立つ。

「ちょっと待ちなさいよ!なんであんたがそっちにいるのよ?」
「まぁ、被害者だから?」
「お前、本当に調子いいやつだな」

ユーリはそれ以上何も言わずにおとなしく、手を差し出し縛られていく。
リタだけが騎士団に掴みかかりそうな勢いだけどそのまま連行される。
ルブランは誇らしげに天に向かって手をかざした。
その先を追えば影になって見えないが一人の男が立っていた。
それは騎士団の隊長の服をまとっている。

「あれが……シュヴァーン?」

かすかに手を上げた男の影が目に映った。
よく確認できないまま私たちは急かされ騎士団を追った。

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