鴉再び


「おー。ご両人、お熱いね」
「……」
「レイヴン?遊びに来たの?」
「いやー。麗しのエルちゃんが姿を見かけて追っかけてきたんだけどねー」

私は否応にも、何かになつかれる性分なのかもしれない。
ユーリと話始めるといつも自分がらしくないと思っていた。
だんだん、自分が何を伝えたいかよく分からなくなってくるし、彼にも大切なことを伝わっているかも分からない。
そこで現れたのが相変わらずその見かけと中身の胡散臭さを消しきれていないレイヴンだった。

「挨拶の前に何か言うことあるだろ」
「そうそう。俺って誤解されやすいタイプなんだよね」
「おい、エル。騎士団にストーカーの相談に行ってきた方がいいんじゃねぇか?」
「奇遇だね。私も同じこと考えていた」

別に手をついて謝ってといいたいわけじゃない。
ただ、人のことをだまして見捨てておいて良心というものがまったく痛まないのかと。

「じゃあどうしたらエルちゃんは許してくれる」
「俺は無視か」
「そうだね」

ユーリは軽く、スルーしたことは置いておいて。
ストーカー疑惑、そして私の帝都での秘密をばらしたこと。
そしてラゴウ邸での買収行為。

「現金で手を打とうかな?」
「え?」
「は?」

同時に驚いた、男二人。

「騎士団に突き出されるのと、身包み一式置いていくのどっちがいい?」
「エルちゃん、案外きつい性格なのね、おっさん泣いちゃう」
「やめとけ。こんなおっさんの裸見ても何の得にもならねぇだろ」
「確かに、お金持ってるように思えないしね」

レイヴンのよれよれの服、ぼさぼさな髪。
とても私が納得するような慰謝料を払えるようには思えない。

「確かに、そのとおりだけど、おっさんにもひとつエルちゃんにあげられるものがあるよ?」
「何?」
「熱い抱擁を!さぁ、おっさんの胸に飛び込んでおいで」

と、両手を広げてスタンバイをするレイヴン。
私は後ろに一歩後ずさる。
本当に女好き?な性格というかふざけた性格をしている。

「騎士団直行だな」
「ちょっと待ってて。今呼んできてあげる」
「冗談。それに騎士団だって俺を相手にしているほど暇じゃないって」
「何で?」
「さっき物騒なギルドの一員が北西に移動するのを見かけたしね。騎士団はああいうのほっとけないでしょ?」

ユーリは顎に手を当てて考えた。
私も同様にレイヴンの言葉の真意を考えた。
これでも帝都の城では抜け道を教えてくれたし。
それも何で知っていたか考えると怪しいのだけど。

「物騒か。それって紅い絆傭兵団か?」
「さぁ?どうかな」

私も同じことを考えた。
うそは言わないタイプなのだろうけど。
確実にそのギルドが赤い絆傭兵団と言い切ってないし。
まぁ、よく見ていないといわれればそれまでだけどね。

「そもそも。おっさんあの屋敷に何しに行ってたんだ?」
「ま、ちょっとしたお仕事。聖核って奴を捜してたのよ」
「聖核?なんだそれ」
「魔核のすごい版だってさ。あそこにあるっぽいって話をきたんだけど見込み違いだったみたい」
「それもそうでしょう?だってよく童話に出てくるものだから」

私もそんなようなものを作中に書いたとこがある。
それ一個あれば街ひとつの魔導器を全部動かせるとか果てはラスボスを倒すための伝説の宝玉だとか。
ファンタシー作家にとってはポピュラーな伝説のアイテムだったり。実在するかしないかは分からない。
誰も見たことないのだから。
何せそれがお宝だったり魔核だったりするのだから冒険家のパティや研究者のリタが食いつきそうな話題かも。

「もしかしてレイヴンも冒険家だったりするの?」
「?冒険家?」
「いや、こっちの話だ」

と、私の発言はユーリにばっさりと切られる。

「不思議なこと言うんだねエルちゃんは」
「まぁ……」
「あ!ユーリ!おーい!」
「あんの!オヤジ!」

声がする方向を見るとそこに手を振る仲間たちの姿。
私より先に出たのに今更になって合流とはよほどユーリの事を探したに違い無い。
リタは一番にレイヴンを捕らえるとまるで獲物を見つけた獣のような瞳でこちらに全力疾走。

「逃げたほうがいいかね。これ」
「一人好戦的なのがいるからな」
「んじゃあね。エルちゃん。また会おうね」
「嫌」

ウインクを飛ばすレイヴンにそう告げると背中を押す。
「ひどい、冷たい」「泣いちゃう」
など理解不能なことを叫びながら逃げていく中年の背中をお望みどおりの冷たい目で見送りながら手を振った。

「待て!こら!ぶっ飛ばす!」

私たちを追い抜いたリタがそう叫ぶけど、もうそれは伝わらないだろう。

「はぁ、はぁ、何で逃がしちゃうんだよ」
「誤解されやすいタイプなんだとさ」

荒い息を正すため膝を抱えるカロル。

「逃がしたわ。いつか絶対に捕まえてやる」


リタが戻ってくるけど獲物は取り逃がしたようで
怒りが収まらないらしくその辺の壁を蹴ったりしている。
その矛先が私たちに向かなくて良かったと思う。

「ほっとけ。あんなおっさん。まともに相手していたら疲れるだけだぞ。んじゃ、早速いきますか」
「ユーリ、本当に信じて」

「行くつもり?」と聞こうとしたときユーリはこちらをふりむいて自身の唇に手を当てて秘密にしていろと意思表示をみせる。

「紅い絆傭兵団の後を追う。下町の魔核返してもらわねぇと。北西に怪しいギルドの一団が向かったんだと。奴らかもしれねえ」

確かにレイヴンから聞いたといえば行くのを渋られるかもしれない。
特にリタ。

「北西というと……地震で滅んだ街くらいしかなかった気がするなあ」
「カルボクラムかぁ……確かに盗んだ魔核を隠したり魔導器の実験をするにはもってこいのところかもしれない」

ずっと昔に大地震があって滅んだ亡き都市カルボクラム。
今では近隣も地盤沈下を起こして人が住めるような場所でもない。
もちろん危険が無いわけではないのだけど。

「そんな曖昧でいいわけ?」
「だから行って確かめるんだろ。他に方法があるなら別だけど」

私的にはその先のヘリオード、ダングレストで情報を仕入れるのもひとつの手かと思ったけどその間にカルボクラムの一団がどこか消えしまい、重要な証拠を逃したらまた私は叱られる羽目になる。
順序は逆かも知れないけど私は彼らの意向に従って黙ってついていくことに決めた。

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