執政官ラゴウと首領バルボス


4、5人の傭兵に囲まれていた。
すでに武器を抜き、こちらを睨みつけている。
体の一部には赤いスカーフやバンダナ。

「コイツラ、やっぱり5大ギルドのひとつ、紅い絆傭兵団だ」

5大ギルドとは数百はあるギルドの組織、ギルドユニオンの頂点に立つものだ。
紅い絆傭兵団(ブラット・アライヤンス)のほかには天を射る矢(アルトスク)幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)遺構の門(ルーイズゲート)魂の鉄槌(スミス・ザ・ソウル)の5つだ。
ギルドユニオンはダングレストを拠点としてギルドの統率を行っている。

「はんっ。ラゴウの腰抜けはこんなガキから逃げてんのか」
「やっぱり、バルボス」

その男の後ろから現れたのは体格も、そして放つ気も他者とは一線を介す隻眼の大男、巨大な剣を持ち私の倍近い筋肉質の体つきをしている。
左の瞳のは横に切り傷が入り、左腕は金属のツギハギのような義手をしている。
そう、この男こそがユーリたちが言っていたであろう隻眼の男、そして紅い絆傭兵団の首領であるバルボスだ。

「隻眼の大男、あんたか。人を使って魔核を盗ませているのは」

いつの間にはバルボスの背後を取ったユーリが剣を突きつけていた。
剣を首元に突きつけられているのにバルボスは驚くことも怯む様子もない。
目を細め、そして奇妙にも笑っていた。
この余裕、やはり死線を掻い潜ってきてギルドの首領だからこそか、それとも何か別にこの状況を楽しめる何かがあるか。

バルボスは右手の大剣を一薙ぎする。
それは大剣とは思えない大きさに見合わない速さだったが、ユーリはそれを避けると今度は私たちの元に舞い戻ってくる。

「いい動きだ。その肝っ玉もいい。ワシの腕も疼くねぇ。うちのギルドにほしいところだ」
「そりゃ光栄だね」

嬉しくも無い申し出だろう。
そして意外だった、口元を引きつらせて笑ったユーリ。

「だが、野心の強い目はいけねえ。ギルドの調和を崩しやがる。惜しいな……」

と言って鷹のような鋭い目つきでこちらを見据えたときだった。
男の背後の船室から姿を現したのはラゴウだった。
二人は互いを見ると嫌そうな顔を浮かべているのが私たちには見えた。

「バルボス、さっさとこいつらを始末なさい!」
「ラゴウ!金の分は働いた。それにすぐに騎士団の連中が来る。追いつかれては面倒だ」
「あの女の魔核を見なさい」
「んん?」

そういって、ラゴウは指差したのは私の耳のイヤリングだった。
私は咄嗟にイヤリングをつかんでそれを隠すが、それはすでに遅かっただろうか。

「なるほどな」
「な、何」
「ははっは!これは面白い」
「何?これを知っているの?」

それに答えなかったバルボス。
ただ、こちらを一瞥するとにやりと笑うだけ。

「小僧ども、次に会えば容赦はせん」
「待て!あの魔核!そして中に、っち……!」

バルボス、ラゴウはそのまま船についていた小船に飛び乗りそのロープを切った。

「ザギ!後は任せますよ!」

ラゴウはそう言い残した一言。
私は背筋がぞっとするような気配を再び感じることになる。
奇妙に笑った黒衣の男。
その三日月型の笑み、そして目の遭わない奇妙な視点。

「誰を殺らしてくれるんだ……?」

ふらふらと足取りも千鳥足で、こちらにゆったりと近づいてくるのは帝都の城でユーリとフレンを勘違いして襲撃した暗殺者であるザギだった。

「どうも縁があるみたいだな」
「あーあ。私もう嫌だよ」
「そういいなさんなって」

剣を抜いて背中合わせで臨戦態勢をとる私とユーリ。

「刃がうずくぅ。……殺らせろ……殺らせろお!」

と狂気の色を見せてこちらに切りかかってくるザギ。

「っと、お手柔らかに頼むぜ」

ユーリはそれを受け止め、そして刀身で流す。
そしてバルボスに取り残された傭兵数人がまだ残っている。

「カロル!そっちは任せたよ!」
「え!あ」
「分かってるわよ!」

即答したのはリタだった。
3人とそしてラピードに残りの傭兵を任せて私たちはザギの相手をすることにする。
前回は武器を持たなかったので戦いには直接参加していないがザギの戦闘能力の高さは知っている。
変則的な剣のさばきにそしてスピード。
どちらも厄介なものだ。
剣を結び合うユーリにもいつもの余裕が消えている。

私は後衛からその姿を見る。
下手な魔術を使うとユーリも巻きこみかねない。
だからといって私は前に出ると、ユーリの邪魔になるだろう。

「レイトラスト!」

チャクラムは一線上にザギに向かっていく、ユーリと刀を交わしながらもザギは開いた手で私のチャクラムを打ち落とす。

「邪魔をするなぁ!」

と、今度は標的をこちらに向け、ザギは一瞬で移動をし。剣を振り上げた。

「んっ!」
「エル!あぶねぇ!」

私は咄嗟に杖の柄でそれを受け止め、そして滑らせ受け流した。
そして杖で相手の腹を蹴った。
「ぐっ!」
「はぁ!」

ザギはひるんだ隙にユーリが入り床に倒れたザギを突きつけるがそれは足を軸にしたザギはそのまま立ち上がる。
しかし、その間にも私の術は完成している。

「冥府の宴、闇の明瞭、ダークフォース!」

私たちの影が集まり、ザギの周りに収縮した。
そしてそれは黒い縄となってザギを拘束した。

「くらいな!烈砕衝破!」

ユーリの衝撃破が確かにザギを捕らえた。
血しぶきが上がりザギはゆらゆらとたたらを踏んだ。
それは致命傷を与えたと言っても良いはずだ。
勝負はついた。
ユーリは私が見ないうちにずいぶんと剣のキレが良くなったと思う。
ユーリが元騎士団にいた実力の持ち主だったが、帝都でザギを剣を交えたとき、ユーリは何年かのブランクがあったのだろう。
しかし、結界の外に旅立っても魔物と戦ううちにその感覚と取り戻してきたのだろう。

と、私がやっとリタたちを視界に捕らえるとあちらも決着はついたようだった。
怪我はないようだし、彼らの実力も侮れないだろう。

「いてぇ!」

あれほどの致命傷を与えなければ痛みを感じないザギは何か特殊な訓練でも受けているのだろうか。

「勝負あったな」
「ちょっとひやひやしたけどね」

ユーリの戦い方は独創的というか、ジャグリングみたいな剣の振り回し方する。
それを見ているだけでこっちははらはらしているのに、ザギとの真剣での戦いは常に命を賭けている。

「お、オレが退いた……ふ、ふはははは。貴様強いな!強い!覚えたぞ!ユーリ、そして!」
「え……」

私を見て、にたりと笑った。
まるで金縛りに遭ったように固まってしまった。
全身に走る悪寒。
暗殺者に気に……いられるのは人としてどうなのだろうか。

「お前らを殺すぞ!切り刻んでやる!うごくな!じっとしていろよ!」

その言葉にはあえて何も言わず、私たちはザギをじっと見ていた。
彼がなんと言おうとその傷では戦えないし、もし再び襲ってくるような事があれば今度は命を賭けなければならないのだから。

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