沸き起こ疑問



「ったく!!何なのよ!あの魔物に乗っているの」

裏庭に出てやっと煙ではない正常な空気を吸った私たちの中でリタが開口一番、怒りを露わにした。
魔導器を愛してる……リタにとって目の前で魔導器を破壊されたのだ。
怒りは当然収まるわけはない。
むしろ殺気すら感じる勢いだ。

「あれが竜使いだよ」
「もしかして知り合い?なんで魔導器を壊しているの?」
「知り合いなもんですか!!!」

私の一言が気に障ったのだろう。
私の胸倉をつかんでぶんぶんと振る。

「エフミドの丘でも結界装置を破壊したらしいです」

リタの手を何とか解こうとしている私にエステルが説明をいれてくれる。

「あぁ、だからエフミドの丘で魔物に襲われたのか。でも何で結界装置を?まだ此処の魔導器だけなら分かるけど」
「そんな理由どうでもいいわ!それになにが竜使いよ!あんなのバカドラで十分よ!あたしの魔導器を……」
「リタ、落ち着いて」

私の胸倉をつかみ手に力が入っているんですけど。
だんだん苦しくなる胸元を何とかリタを収めることで開放してもらう。
「おい、話は後だ。ラゴウを追うぞ」

と、ユーリがリタの手を掴むと無理やりにでも走らせる。
ラゴウの向かう先は、港の船着場、船で脱出するならばそこで間違いない。

「お前らとはここでお別れだ」
「平気?パティ」
「むぅ、少し寂しいけどエル姐、また会えるかの?」

と、ちょっと瞳を潤めて言う、パティがこの上なくかわいい。
私は膝をたたむと彼女の耳元で小さく言った。

「私は仕事がないときはダングレストに居るからもし何か困ったことがあれば来るといいよ」
「ダングレストか、今度時間があったら寄って見るかの」
「うん」

ユーリたちには申し訳ないけど、私の身元がばれるわけにはいかない。
パティなら無害だろうし、ゆっくりと話を聞いてみたくも思っていた。

「元気でね」
「ラゴウって悪いやつをやっつけに行くんだね」
「ああ。急いでんだ」

ユーリはポニーの頭をくしゃくしゃと撫でるといつもの余裕の笑みで笑った。

「うん。だいじょうぶ。一人で帰れるよ」
「いい子だ。お前もあぶねぇことに首突っ込むんじゃねぇぞ」

今度はパティに向かって言うと、パティはにっこりと笑った。
ユーリも惚れられたくせに冷たくしていたけど、ユーリはユーリなりにパティのことを心配していたのだろう。

「分かっているのじゃ」

分かっては無いだろうに。
しかし、彼女の探究心あふれるというか、その冒険心は止められないだろう。

「あれ、絶対分かってないわよ」
「ま、仕方ないでしょ」

私たちには彼女を止める権利がないのだから。



「あたしはこんなところでなにをやってるのよー……」
「私は、ちょっと」
「エル、何やってんだ。走れ!」

いやいやと手を振り払おうとするが、腕が痛むほど手を引っ張られる。
私たちはすでに出航した船を追う。
私は走りながら(走らされながら)海に立つ、その波を目で追っていた。

「行くぞ」
「ちょっと待って待って!!!」
「お前も飛べ!」

カロルの腰を持ち、そのまま私の手を持ちながらユーリは地面を蹴る。
私は海を見下ろすと、一瞬戸惑いはしたが、唾を飲むとユーリと同じタイミングで高く飛び上がった。

「はぁ……」

何とかぎりぎり船の甲板に降り立つ。
ラピードが
優雅過ぎる着地。
エステルもリタも難なく甲板に降り立つと警戒もこめて辺りを見渡す。
私は心臓が跳ねる思いだった、私は、まぁあれが苦手なのだ。

「これ?」
「これ、魔導器の魔核じゃない」

リタが船に積まれた荷物のひとつである、木箱の中身を探りだす。
その中には宝石と見間違える色とりどりの魔核の数々だった。
その箱いっぱいに詰まった魔核は数にしたら数十はあるだろう。

「全部本物ね。これは帝都の貴族街のものかな」
「なんでこんなにたくさん魔核だけ?」
「知らないわよ。研究所だってこんな数揃わないのに」

アスピオは帝都の学術都市とも言え、帝都の魔導器研究のほぼ全てを担っている。
その帝都の管轄外でこんなにも貴重の魔核が集まるわけが無い。
魔導器に今の技術では0から作り出すのは不可能といわれている。
今の魔導器は古代の遺産であって、その動力源である魔核は造りだすことは不可能だ。
だからそのひとつにとても高価な価格がつく。

「やっぱり、か」
「やっぱりって?」
「ううん。他の街でも魔核が消えるようなことがあったなーって」
「お前、何でそれを早く言わないんだよ」

確か、私が帝都に向かう前にもいくつかそんなことを聞いた。
それは修理に出したら、そのまま連絡がつかなかったとか空き巣にあって魔導器の核だけが盗まれたりとか。

「やはり関係あるんでしょうか?」
「かもな」

ユーリも下町の水道魔導器の泥棒と首領である隻眼の男、そしてラゴウ執政官。
結びつかないような関係が歪に繋がったと。

「けど、黒幕は隻眼の大男でしょ?ラゴウとは一致しないよ」
「だとすると、他にも黒幕が居るってことだな。此処に下町の魔核、混ざってねえか?」

ユーリは思っていたよりぜんぜん頭のキレる人だ。
確信はつかめないが、ラゴウの他に黒幕が居る。
だが私はその黒幕が1人とは限らないと思う。
リタは一通り魔核を見るが、その大きさと種類に見合ったものは無い。

「残念だけどそれほど大型の魔核はないわ」

そのときだった。
辺りから微弱だけど、こつこつと靴音が聞こえた。
いち早く気づいたラピードを見ていた私は腰のチャクラムを抜いた。


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