竜使いと歪な魔導器


魔導器の起動音だけが響く。
ホールのように大きい部屋で中央にはなんとも歪な魔導器が熱を放っていた。
その魔導器は無理をして居るふちが見え、白い光を放っている。
部屋には照明がなくそれが唯一の光になっている。
部屋を占拠するその魔導器が天候を操るものに違いない。
魔導器の制御装置に続く、スロープをリタは一目散に掛けていく。
そして魔導器の制御装置の鍵盤を目にも止まらぬ速さで操作するリタ。

「ストリムにレイトス、ロクラーにフレック……複数の魔導器をツギハギにして組み合わせてる。この術式なら大気に干渉して天候を操れるけど……こんな無茶苦茶な使い方して……エフミドの丘といい、あたしよりも進んでるくせに魔導器に愛情のかけらも無い!」
「エフミドの丘?」
「あぁ、いろいろあってな」

と、ユーリのアバウトな説明にそうですかと相槌をつく。
リタがなにをやっているか理解できないけど、私はリタの後ろのそっとついていく。

「ともかく、これ止めちゃえばいいんじゃない?」
「分かってるわよ。でも」
「これは」
「ちょっと勝手にいじらないでって、え?」

リタの手を無理やり退けていじると私はいくつかの鍵を叩く。
なんとなく叩いたに過ぎないけども、魔導器は巨大な音をさせながらも間の抜けた音を発しながら機能を停止した。
此処からでは外を確認できないがやがては日も差してくるだろう。

「なんでアンタ止め方分かったのよ」
「え……なんとなく?」
「なんとなくって!」

私に何か言おうとはしたが今の状況では時間の無駄なのだろう。
再び鍵盤を叩き始めたリタ。

「リタ、調べるのは後にして」
「もうちょっと調べさせて」

エステルの声はリタの耳には半分しか届いていないのだろう。
ユーリが代わりにこちらに近づき、声をかける。

「あとでフレンに回してもらえりゃいいだろ?さっさと有事をはじめようぜ」

ユーリは剣を抜き、身近なものを片っ端から切り捨てていく。
カロルもエステルも悩みながらも近くの壊しても問題なさそうなものを破壊していく。

私もロープを降りると、杖を抜き上級の術の詠唱を始めようとするがユーリに遮られる。
杖を上から没収されて私の術は中断をせざるえなくなった。

「なにするの?」
「お前がやったら屋敷ごと吹っ飛ばしかねないだろ」
「それは確かに」

私は杖をユーリから取り返すと仕方なく、腰のホルダーに戻す。
ちまちまと屋敷を壊していくけどそれではインパクトも足らないだろう。

「あー!!もう!!」
「うぇ!!」

リタはくるりと一回転すると、帯が舞って、リタの魔術が発動する。
ファイアーボールは四方八方と四散する。
炎の弾は柱や入り口に当たると黒く跡を残して音を立てて崩れていく。

「うわっ!いきなりなにするんだよ!?」
「こんぐらいしてやんないと騎士団が来にくいでしょ!!」

リタが止めることなく炎の弾を放つ。
私はそれを避けながら、ラゴウそしてフレンの到着を待っていた。
それはすぐに叶う。
荒々しく扉をあけて入ってきたのは紅い絆傭兵団の傭兵たちに囲まれたラゴウ一味。
ラゴウは唾を飛ばしながら命令を下す。

「人の屋敷でなんたる暴挙です!お前たち、報酬に見合った働きをしてもらいますよ。あのものたちを捕らえなさい。ただしくれぐれもあの女を殺してはなりません!」

ラゴウが指差したのはエステルだった。
やはり顔くらいは知っているのだろう。
エステルの正体に気づき、そして捕まえて自分の思うようにしようとしているのだろう。
はやりヨーデル殿下を誘拐した犯人の実行犯はラゴウのほかならない。

「まさか、こいつらって紅い絆傭兵団!」

カロルは斧を構え、傭兵たちと対峙する。
ところどころ赤い服をまとった傭兵。
それは特徴的でそんなことするのはギルドの人間で赤い絆傭兵団他ならない。

「邪魔よ!」

そんなこと最初から分かりきっている私は今更驚くことも無い。
杖で描き、先制攻撃を決める。

「星の瞬き、無数の煌きよ、闇を浄化する光となせ!レイ!」
「なっ!」

光の線が相手の武器を貫いていく。
粉々になった剣、無防備な相手をリタの魔法で吹き飛ばしていく。

「今の魔術、あの魔核!」
「なに……?」

ラゴウの視線が明らかに私のイヤリングの魔核にいっている。
この武醒魔導器は術を発動するときは青白い光を放つ。
確かに、色としては珍しいかも知れないけど特別視されたことなかった。

「あの女の魔導器を奪いなさい!」
「なっ!」

いきなり私の武醒魔導器を指して、そう指示をする。
傭兵たちは私に標的を変えるとこちらに向かってくる。
この武醒魔導器の事はまったくといって知らないし、興味は無いが、これをあんな男にくれてやることもない。
チャクラムを抜くと、エアルを充填し放とうとしたときだった。

ラゴウが入ってきた扉の前に立つ、黄金の髪を抱いた騎士。
そして傍に控える、女性騎士と魔術師。
それは

「フレン?」

この場に居る人間の誰もが突然の介入に度肝を抜けれただろう。
フレンは私たち、そして紅い絆傭兵団に刃の切っ先を向けると。

「執政官、何事が存じませんが事態の対処に協力いたします」
「ほらみろ」

ユーリが先ほどから早く退くように言ってたがまさかこんなに仕事が早いとは。
きっとフレンたちはラゴウたちにはばれないようにこの屋敷の外と中を張っていたのだろうに。

「っち。仕事熱心な騎士ですね」

ラゴウが舌打ちをし、早急にと私に向かってくる傭兵に向かって指示を出したときだった。
天窓に張られたガラスが激しい音を立てながら割れ
雨のように降りそそいでくる。
そして音はそのあとに響く。
その窓を破ったのは人?では無い。
小ぶりだが空を舞う、竜だった。
竜なんてこの世界にもその存在すら疑われるもの、空を舞う獰猛なトカゲのような、鳥のような魚のような生物。
しかもその背中には白と黄金の甲冑をまとった人間が跨っている。
顔まですっぽり覆い隠すような甲冑と揃いの鉄のマスクのおかげでその人物の人相は把握できない。
その竜は巨大な部屋の天井を舞うように、何度も飛来する。

フレンは部下たち即座に指示を出す。
ウィチルは杖を大振りし、ファイアーボールをいくつも放つが、まるで遊戯のようにたやすく交わしていく。
フレンとソディアの剣も空中を舞う敵には届かないようで地上で見上げているだけだ。

私のチャクラムがいくら方向が自在とはいえ飛び回る敵には有効的ではない。
それに竜とその竜使いがなにをしにこのラゴウ邸に侵入したか分からずそれなのにいきなり攻撃するのも気が引けたのだ。

しかし、竜は人間を丸呑みできそうな口をあけると、炎のブレスを吐き捨てた。
それは人に向かってではなく、屋敷の柱や扉に向けて。
それはまるで目隠しのように思えたが、火は部屋中のものに燃え広がっていく。

私は水の術を唱えようと思ったが、この火の回る速さでは追いつかない。

「!」

私が竜を追ったときだった。
竜にまたがった人物がアンティークものの槍を中央にあった天候を操作する魔導器の魔核を一突きしたのだ。
ガラスのはじけるような音がしたと思えば、魔核は粉々になって地に落ちる。
空気の抜ける音がしたと思えば、完全に魔導器は機能を停止した。
竜使いは、もう一度槍を振るうと魔導器は帯電のような現象を初め、煙が上がる。

「ちょっと!!!なにしてくれてるのよ!魔導器を壊すなんて!」


それは本当に一瞬の出来事だった。
竜使いが何者かは知らないけど、魔導器をわざわざこんな荒業で壊す必要があっただろうか。
そう説いている暇は無かった。
私の水の術の詠唱が完成はした、が。
最悪なことにリタまでもが頭に血が上っているのか見境なしにファイアーボールを竜に向かって撃ち続けそれを無駄にする。
竜使いは魔導器が完全に壊れたことを見届けると、壊した天窓から脱出してしまう。

フレンが部下に消火を命じるがもう間に合わないだろう。
フレンたち騎士団はラゴウが天候を操る、魔導器を使って圧制をしいてたことを立証するはずだったが証拠がこの有様ではもう無理だろう。
そんなことより、私は別の件で焦っていた。
それはラゴウにとらわれた皇帝候補、ヨーデルの所在だった。
フレンには強く言っていないが、ラゴウが彼を誘拐したのは間違いはない。
しかし、この屋敷を見ては回ったがその姿は無い。

「此処じゃない……もしかして」

もう別のところに移動してしまったのだろうか。
出来れば帝国の近くで、その姿を捉えたかった。
ギルド領に入れば入るほど、いろいろまずいことになりかねない。

「船の用意を!」

ラゴウのその一言が私を現実に引き戻した。
ラゴウは部下たちに囲まれながら、火の手を避けて逃げおおせようとしている。

「っち!逃がすか!追うぞ!」
「うん!」

ユーリの言葉で仲間がみな集まる。
フレンたちは出来るだけ屋敷の消火を急ぎ、証拠を残しておいてほしい。

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