大海賊のお宝
「よろしくね。パティ。私はエルって呼んで」
「エル姐って呼んでいいかの?」
「いいよー。っと、ちょっとまってね」
私たちは最後尾に居たが私たちが歩いてきた方向から人の声がした。
「侵入者か!」と体以上の大きさのアックスで襲ってくる敵。
パティは吃驚したように帽子を抱え込み、その場で丸まってしまった。
私は瞬時に、術式を書いた。
「貫け、雷!サンダースピア」
私の術が完成するのがいくから早かったらしい。
雷の槍は相手の中心を貫くと、体を感電させる。
嫌な悲鳴を上げながら倒れた男は目に見える静電気を体中にめぐらせながらその場に倒れた。
「危なかったね。大丈夫?パティ」
「すごいのじゃ」
「あはは。そうかな」
「エル姐に一生ついていきたいのじゃ」
「あははそれは困るかも」
適当に笑いごまかすと、事態を心配したユーリがこちらに駆け寄ってくる。
そして、少し目尻に涙をためたパティにユーリはいった。
「こんな危険な連中が居る屋敷をよく一人でウロウロしてたな」
「危険を冒してでも手に入れる価値のあるお宝なのじゃ」
「それってどんなお宝?」
首を傾けて、聞いたカロルに、パティは胸を張って答えた。
「アイフリードが隠したお宝なのじゃ」
「あ、アイフリード」
「アイフリードねぇ」
私とカロルは口を引きつらせた。
「アイフリードってあの海賊の?」
「有名人なのか?」
「帝都に住む、ユーリたちにとってはなじみの無い名前かもしれないけど。昔ね、世界の海を荒らして回ったという悪党だって有名だね」
「アイフリード、海精の牙という名の海賊ギルドを率いた首領。移民船を襲い、数百という民間人を殺した海賊として騎士団に追われている。その消息は不明だが既に死んでいるのではといわれている、です」
そう、そして私の知り合い、ギルドユニオンの首領、ドン・ホワイトホースの知人でもあるという。
その正体を知る彼に前、アイフリードについて聞いたことがある。
小説の作中に海賊を出そうと考えて、海賊のイメージを固めるために。
しかし、ドンは奇人変人としか答えてくれなかったのはまだ記憶に新しい。
「ブラックホープ事件って呼ばれているんだけど、もうひどかったんだって」
「ま、そういわれとるの」
「どうかしました?」
「なんでもないのじゃ」
と、あからさまに不機嫌になるパティ。
しかしその影にはどこか孤独を背負ったように見える。
私は膝をたたみ、パティに耳打ちをする。
「私はアイフリードがそんな人だとは思わないよ。私の知り合いがアイフリードの旧友だったらしいけど。そんなことする人じゃないって言っていたし」
「本当か?」
「うん」
視線を少し上げたパティに笑いかけると、そうかと小さく唇を動かした。
「でも、あんたそんなもん手に入れてどうすんのよ」
とリタが腕を組んでパティに聞いた。
「どうする?……決まっているのじゃ。大海賊の宝を手に入れて冒険家としての名を上げるのじゃ」
「危ない目に遭っても、か?」
「それが冒険家としての生き方なのじゃ」
迷いなく、まっすぐに言ったパティにユーリはにわかに笑った。
この中に居る人間はまっすぐだった。
こんな小さな、少女のパティも
騎士団と、評議会の中でゆれるフレンも
口は悪いけど、一途に魔導器を研究するリタも
誰もが自分の思うことをしている。
「ふっ。面白いじゃねぇか」
「面白いか?どうじゃ。うちと一緒にやらんか?」
それは突然のパティの勧誘だった。
「性には合いそうだけど、遠慮しとくわ。そんなに暇じゃないんでな」
「じゃあエル姐はどうかの?」
「ごめんね。私も用事が済んだら本職の方に戻らないと」
カウフマンにどやされる。
「ユーリも、エル姐も冷たいのじゃ。サメの肌より冷たいのじゃ」
「サメの肌……」
サメの肌といえば、じゃりじゃりとしているイメージしか沸かないのだけど。
「もしかして、パティってユーリのこと」
「ひとめぼれなのじゃ」
「…おめでとう。ユーリ」
「なにがだよ」
拍手を送るが、冷たくあしらわれる。
「やめといたほうが、いいと思うけど」
「そして、エル姐にもほれたのじゃ。本当の姐さんになってほしいの」
「いいよ、別に」
「いいの!?」
ほのぼのとした笑みをこっちに向けるエステルと、だいぶ混乱気味のカロル。
「そうか!」と満面の笑みを浮かべたパティは私の左腕を抱き、体を振って喜んでいる。
「何でもいいけどさっさといくわよ。一刻の猶予もないんだから」
「はーい」
痺れを切らしたリタの掛け声で私たちはその部屋を後にした。
私には家族なんていないから、パティが妹になってくれるというのもまんざら嫌でもなかったんだ。