胡散臭い風来坊

「はーあーきーちゃったー」
「後悔するんだったらはじめから言わなきゃいいだろ」
「私、悪の組織と戦うっていう柄でもないのになぁ」
「じゃあなんできたんです?」
「個人的興味かな?とことん悪を知り尽くした人の話を聞けば、次回作に役立つかもしれないし」
「あんたの方が悪趣味だわ」

そんなの、はじめから知っていたじゃないか。
エルは腰の辺りまでの杖をくるくると回す。
さっきから俺たちがこうやっててまねきしているのはラゴウの屋敷の潜入方法についてだ。
泥棒をすると声高に宣言したくせに入り方で今更考える羽目になるとは。
リタやエルは正面突破でも良いというが、それはもちろん却下。
しかし、この外壁越しにはなにも見えないし、よじ登るのも考えたが、壁の上には有刺鉄線が張り巡らされている。

「裏口はどうです?」

と、エステルが提案した直後、背後から

「残念。外壁に囲まれててあそこを通らにゃ入れんのよね」
「誰?」

声を発しようとしたエステルの口元に人差し指を指して、しっと声制止させる。

「こんなところで叫んだら見つかっちゃうよ。お嬢さん」

声の正体は帝都で俺と同じく独房にぶち込まれていたおっさんだった。
その胡散臭さはまだまだご健在のようで。

「えっと、失礼ですが。どちら様ですか?」
「なに、そっちの格好良いお兄ちゃんとちょっとした知り合いなのよ。ね」
「いや、違うからほっとけ」
「あれー?」

無造作に束ねられた髪をいじりながら言う、おっさん。
しかし、興味のほどは俺の後ろにいたエルにむけられる。

「お嬢さん、またあったね。いやーこれも運命かな」
「え?エル。このおじさんと知り合いなの?」

カロルの投げかけた疑問は俺の質問を代弁したようだった。

「いやー。んーー?」

あごに手を当ててうねりながら考える、エル。
それはいつものはぐらかす、というより本当に知らないようだった。

「おっさんね。帝都で一目見たときからお嬢さんの事、気になってたのよ」
「どっかで会いました?」
「ほら、帝都で騎士団をぼこぼこにしていたじゃない」
「あ……」
「お前、俺より派手なことやってよく捕まらなかったな」
「あ、あれは。向こうからよく分からない嫌疑で突っかかってきて」

と、見る見る顔色が悪くなっていくエル。

「そうだったけー?偽造IDを使って帝国に侵入したとかもめていたけど」
「あれは、その」
「本当なんです?エル」

と、エステルの追求を隣で聞きながら、おっさんは満足そうに頷いていた。



「おっさん、帝国で会ってお嬢さんに一目ぼれしちゃってわけ、騎士団と張り合っても物怖じしないその態度」
「ほめられているようには聞こえないのだけど」
「あー。とりあえず。ユーリとエルの知り合いだって事はよく分かったよ」
「知り合いなんかじゃないけど。それであなたの名前は」
「お?おっさんに興味がわいてきた?」
「じゃあおじさんって呼ばせてもらうから」
「あーうん。じゃあとりあえずレイヴンで」
「レイヴンさんね」


カロルが話を収めようと、苦笑いを浮かべたままそういった。

「ねぇ、それって。もしかしてあんたエルのストーカー?」
「え……」

それは明らかな嫌そうな顔を浮かべたエル。
どうしたらいいか分からないのだろう。必死にこの胡散臭いおっさんと俺たちを見返している。

「そんな顔されたらおっさん傷ついちゃう」
「そっか、そのまま病院いけよ。じゃあなレイヴンさん。達者で暮らせよ」
「つれないこと言わないの。屋敷に入りたいんでしょ?」
「レイヴンさん、出来るの?」
「ま、おっさんに任しておきなって」

と、レイヴンは軽い足取りで執政官邸の正門に向かっていく。

「お前も変なのになつかれたな」
「ねー」
「さっきの話本当ならお前もフレンに連行されるんじゃねぇか」
「だから」
「ま、今はいいか」

帝国の市民権が無いものが騎士団の許可なく帝都に入ることは帝国法によって禁止だれるだっけ。
法律に詳しくない俺でも知ってるようなことだから、それを覚悟して入ったのだろう。

「止めないとまずいんじゃない?」
「あんなんでも城を抜け出す時は本当に助けてくれたんだよな」
「あーあの鍵かぁ」
「そ」

城を抜け出すときご丁寧に独房の鍵と、誰も知らない抜け道を教えてくれたのはまこうどなきあのおっさん。

「そうなんです?だったら信用できるかも」
「いやあ……」

と、口元を引きつらせたのエルだった。
当の一番にアタックしたおっさんはあの傭兵と何か話しているようだった。
そして何かを耳打ちすると、おっさんはこちらを見て、にわかに笑った。

はめられたか、
そう思った瞬間、男が隠れていた俺たちめがけて走ってくる。

満面な笑みを浮かべて手を振るおっさんを見て、怒りが有頂天に達したのはリタとそしてエルだった。

「この私が利用されるなんて……」

ふふと、おかしな笑いを浮かべながら杖で術式を描く。
その隣ではリタが鞭を振り回しながら

「あいつ!!馬鹿にして!あたしは誰かに利用されるんのがだい嫌いなのよ!!!」
「お前ら!」

止めに入る間もなく二人の術式は完成して、それは門番たちきり崩す。
リタは炎の魔術で、エルは風の魔術で相手を瞬時に門番を吹き飛ばした。
外壁に叩きつけられた門番はそのまま意識を手放す。
二人の怒りはきっとレイヴンを魔術のさびにするまで収まらないだろう。

「あーあ。やっちゃったよ。どうすんの?」

意識の無い門番を覗き込みながら言うカロル。

「どうするってそりゃ。いくに決まってるだろう。見張りも居なくなったし」
「はじめからこうしてれば良かった……」

そりゃ、エルからすれば犯罪がひとつ明らかになったし、ストーカー?らしい人間の存在が発覚したりといろいろ嫌な出来事だっただろう。

と、門を抜けるとシンプルな庭が目に付いた。
次には目を瞠るような職人ものの装飾の入り口。
それに手を掛けた、エステルを止める。

「ちょい待った。正面はさすがにやめとけ。裏に回って通用口でも捜すぞ」

これだけ大きければ使用人が出入りしたり、荷物を搬入する専用の入り口があってもおかしくない。
と、足元のラピードがぴくりと反応した。
その先を目で追うと、そこには一人、抜け駆けをしたレイヴンが手を振っていた。

「よう、また会ったね、無事で何よりだ。んじゃ」
「待て、こら!」

それはどう見ても誘い込んでいるようにしか思えないが。
頭は良いくせに血が上りやすいリタがレイヴンの元に走っていってしまうのでそれを追う。
レイヴンが通行口のリフトに乗り込む、
それは上に向かっていく。
それを追って急いで隣の昇降機に乗ると、リタはひとつしかない電源を入れた。すると、それは上ではなく下に向かっていく。

「ちょっとこれどうなってるの」

止めようとリタが電源を叩くが、反応は無かった。



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