常識な話

「この辺で野宿にするか」

夜になって雨も止んだ街道の外れ。
ユーリがそう一言声を掛けるとカロルはテントの準備を、ユーリとエステルは夕飯作りをとおのおのに仕事を始める。
それをじっと見ていた私と腰を掛けて本を読もうとしていたリタにユーリから声をかける。

「お前らは焚き木でもさがしてこい」
「は?なんであたしが」
「この辺のやつだと湿っていて逆効果じゃない?」
「それでもないよりはましだろ?それとも夕飯は火の通っていないやつの方がいいのか。それにぬれた服だって乾かさなきゃなんねぇだろ」

じっと顔を合わせた私たち。
確かに、こんな冷えた中、火の通ってない料理なんて食べたらさらに体を冷やすだけ。
それに夜は今以上に冷え込むだろう。

「分かったわよ、ほらあんた。早く行くわよ」
「はーい……」

しぶしぶ承諾した私たちはテントから少し離れた場所で小枝などを集めている、中。
急に脈拍の無い会話を振っていたのはリタだった。

「あんた、エステリーゼと一緒なのね」
「私?」
「魔導器を使わないであんた強力な魔法が使えるなんて」
「知ってた?」
「確かにあんたの武醒魔導器は反応したけどそれとこれは別でしょ?」
「そうかもね」

確かにリタのいうとおりだった。
私もエステリーゼも希少な、いや私たち意外いるかも分からない魔導器なしで魔術や治癒術を使える人間。
エステルと会う前は私も自分ひとりとして疑わなかった。

「ちょっとあんたの魔導器見せてみなさい」
「ん」

私は左耳からイヤリングをはずすとそれをリタの手の中に落した。
しげしげとそれを見つめるリタ。
もっぱらの興味はその造りより魔核にあるようだった。

「やっぱりこんなの、ありえない」
「ねぇリタ」
「なによ」
「私とエステルのこと思い当たること、あるの?」
「それは、ちょっと」
「私もエステルも自分のことが分からないんだと思う。何でそんなことが出来るか、とかね」
「それは分かっているわよ。だから自力で調べているんでしょ?あんたこの魔導器どこで手に入れたの?」
「わかんない」

と首をかしげていうと「冗談を言っているの」と一喝されたが、再び細木を一本手に取る。

「人の記憶なんてあっけないものでね、この枝みたいに力を入れたらすぐに折れちゃうみたい」
「あんた、記憶喪失ってほんとうなの?」

笑って頷いた、それは肯定の意味で。

「一応隠しているからユーリやエステリーゼに内緒ね?あぁ、あとフレンたちにも」
「まぁ、わざわざ言うつもりなんてないけど」
「もし、何か思い出したならリタに教えるよ。それでどう?」
「きっとアンタが思い出すより先にあたしが解明しそうね」
「まぁ……そうかもね」
「ほら、こんな話、もういいわ。さっさと集めて帰りましょ」
「はーい」



「うーん」

どうもスープが濃い味に感じるのは私だけだろうか。
みんなは普通の顔をしているので私もその言葉と一緒に呑み込むことにした。

「腕を上げたな、エステル」
「そうですか?」
「あぁ、まともになった」
「それは、確かに酷かったかもしれないですけど」

しゅんと項垂れるエステル。
ユーリもほめるならもっと素直に言ってあげればいいのに。
と、カロルがパンをかじりながら片手にリブガロの角を持って呟いた。

「にしてもさ、魔物の角が本当にそんな価値あるのかな」
「一生分の税金だっけな。まぁ、色だけは珍しいけどな」
「馬鹿ね。こういうのは骨董品として価値があるのよ」
「うーん?万病とは言わないけどその角は昔、ある病気の特効薬として使われていたんだよ」
「そうなんです?」
「うん」

細かくちぎったパンを口に放り込むとそれを口の中で消化してから頷く。

「砂漠の地方で、デスガロ熱って言う不治の病があったらしんだけど、リブガロの角を煎じたものが唯一の薬になるらしいよ。今ではそのデスガロの病原菌も死滅したって言うから価値はないかもしれないけど」
「へー」
「初耳です」
「そう?」
「物知りなんだな」
「じょう、しきじゃないですか?」
「いいえ、私も本ではそんな病気あるなんて知らなかったです」
「あたしも、ていうか前々から思っていたけど、アンタの常識ちょっとずれてるわよ」

傾けた首を正す。
リタ、そんな毒舌を撒かなくてもいいじゃないか。
私は本当に当たり前だと思ってこの話をしたのに。

「ま、価値なんて俺たちの決めることじゃねぇしな。お前ら、食ったらさっさと寝ろよな。朝になってまた本降りになる前に出るからな」
「うーん、常識じゃない……じゃあ、万病に効くキノコの話は?」
「なんです?それ」
「それもどうせ、御伽噺かなんかでしょ。アンタ作家だけあって柔らかい頭してんのねー」
「えー」
「話、聞けよな」
「聞いてるよ。大丈夫、大丈夫」
「そうですかっと」

と、ユーリは使い捨ての食器をまとめると、一人、背を向けてしまった。
ユーリの忠告をきちんと聞いておけばよかったと後悔するのは早朝になってからだった。







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