金色の角を持つ魔物


「あれが?」

霧でかすんだ視界にぼんやりと捉えたその敵影。
辺りは視界の白と緑、そしてそこに異様に立つ、金色だった。

「間違いない!あれがリブガロだよ!」

そのフォルムは馬のようであるけど、額からはまるでサイのような鋭い角がこちらに向けられる。
リブガロは私たちの足音を察知すると、警戒をするように鼻息を荒くして私たちと対峙する。

「とっとと終わらせましょ」
「ちょっと待って」
「なによ!」

リタが魔術の詠唱を阻止する。
先頭を切るユーリよりも前に出るとリブガロの体に刻み付けられた傷が私の心を撃った。
刀傷や擦り傷が膿んでいて、それはそれは痛々しいことになっていた。
ラゴウが放った魔物だとは知っていたが争いを好む種族ではないのだろう。
普段は身を隠して、人間を襲うことは無いのだろうが、人間から逃れるために必死についた傷。
もちろん、リブガロを討伐しないと自分たちの生活を脅かされるノール港の住民を責める気もない。

「お前、なにするんだよ」
「しっ」

柄に手を掛けるユーリ。
それにそっと手を重ねて、それをやめさせると、私は彼らの前に立った。
依然としてこちらに警戒心を向けるリブガロ。
無理もない、私たちもリブガロを襲った人間の一人なのだから。
私は目を伏せてそれをじっと見つめていた。
それは仲間がいることも時間も忘れて。
やがて、警戒心が解けたのか、体力の限界なのかその場に崩れ落ちるリブガロ。
私は咄嗟に駆け寄って体を支えようとするが、一緒に地面に落ちる。

「おい、エル」
「なんだか、様子がおかしいよ」
「怪我してます?」

私はリブガロの傷口に手を当てて止血を試みた。
膿んだ傷口からは血がとめどなく出ていたことがその体を見て分かる。

「ひどい」

私がぽつりと言葉を落すと、賛同するように小さく唸るリブガロ。
その高ぶったと吐息からも分かるように彼はもう限界だろう。
このままにしておけば私たちが手を下すことなくリブガロは絶命する。

「どうすんの?戦う?それとも」
「ゆー……り?」

無表情でこちらを見下ろして、剣を抜く。
ぞくりと背中が凍り付いて鳥肌が全身に立った。
思わず、リブガロを抱きしめてかばうとユーリの剣は振り下ろされた。
弾かれる嫌な音がして私は恐る恐ると目を開けると、そこにはリブガロの角が無くなってそれはユーリの手の中にあった。

「手土産ならこれでいいだろ」

思わず、胸をなでおろした。
ユーリはそれをしまうと膝を折り、リブガロの様子を見ながら私に「どうにかなるか」と訊いた。
エステルが駆け寄って手伝いましょうか?というがそれは首を横に振った。

「神の身使い、その意思を我らに、響け、壮麗たる歌声よ」

治癒術を唱える。
この治癒術は体を傷を塞いだりするだけではなくて、体の持っている疲労感を消して、体の身体能力を上げたり自己の持っている自己治癒力を引き出すもの。
魔物の体を癒したことなんて無いから普通の治癒術ではなくこちらを選んだがやはり間違いではないらしい。
リブガロは私たちよりずっと自己の治癒能力が高くて、みるみる傷が塞がり、自力で起き上がれるまでに回復してしまった。


「ちょっとアンタ!」
「なに?」
「今の……」

後ろでリタが驚き、こちらを見ていた。
それはエフミドの丘でウィチルが私に見せた反応によく似ていた。
私は立ち上がり、あの時と同じようなことをリタに聞こうとしたがリブガロの鼻を鳴らす声が聞こえてそれをやめた。
立ち上がったリブガロの足取りはしっかりとしていた。
こちらをじっと見つめるありがとう、そう語っているほど優しかった。

「ありがとうってか」

へっと、ユーリが鼻を鳴らすと、すっとその場から駆けていくリブガロ。

「良かったかな?」
「いいんじゃね?」

勝手に治癒をしたこと、今更仲間に許可を取ったがやったものは仕方ないとリタ。
それより早く帰ろうとせかすカロル。
私は杖をつき、立ち上がると深くうなずき、後に続いた。

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