改めましてよろしく



「あんた?」
「うん」

遅れて宿屋を出た私を一番に迎えたのはリタだった。
ゆっくりと振り向く仲間たち。

「一緒に来るのか?」
「うん」
「あんた、あの騎士の部下じゃないの?」
「違うよ」

あっさりと言うと「は?」とおかしそうな顔でこちらを覗き込むリタ。

「ま、行くか」
「エルよろしくお願いします」
「こちらこそ」

ふかぶかと頭を下げる、エステル。

「よろしくね。エル」

と、カロルとも握手を交わす。
「ま、よろしく頼むわ」
とユーリは髪をくしゃりと掴みながら言う。

「ね、リタ」

同じ魔道師同士、と言葉を紡ぎかけたときにリタはふいときびすを返してすたすたと先に行ってしまう。

「必要ないみたいね」
「だな、さ。行くか」







「あーあ」

雨もだいぶ小降りになってきたけど体中びしゃびしゃで、体は重い。
ノール港を離れてからいくらかは天候は回復したが、それでも雨は止む様子はない。
体の心まで冷え切ってしまってくしゃみが止まらなくなるほど寒い。
ラゴウと会うためには穏便に屋敷に入る必要がある。
だからラゴウは住民に求める、希少価値のある魔物のリブガロの角を入手するために街を出た。
雨のせいで、どんよりした雰囲気の中、私たちは無言で歩き続けていた。
疲労感もどこか、この空気を歪ませている。

「ね」
「どうした?」

ばしゃばしゃと足音が聞こえた。
結界の外の危険は何も魔物ではけは無い。

「っち、囲まれたか」
「えぇ!?」

と、周りはお世辞でも上品とはいえない身なりの男たちが武器を構えている。
ギルドの人間ではない。
ただ、貧困に喘いで盗賊になったか、私利私欲で犯罪者に成り下がったものたち。
結界の中では騎士団がいるから守ってくれるが、外はそういうわけには行かない。
ユーリはエステルをかばうように後ろに隠す、私も杖を構える。

「カロル、行くぞ」
「うん」

先陣を切ったのは、ラピード。
それに続いたのはユーリ、カロル。
相手もそれなりの実践経験があるとはいえ、大した力量でもない。
相手の攻撃をうまくかわし確実に一撃と、責めていく。

「あぁぁぁあ!うざったい!あどけなき水の戯れ、シャンパーニュ!!」

リタの魔術が発動し、水しぶきが相手を攻撃する。

「彼方遥かより吹く、激しき風よ、敵を薙ぎ払え!ターピュランス!!」

私が杖を敵に向けると、巨大な陣が生まれて敵を突き上げた。
やがて地面に落ちた数人の敵は意識を手放す。
続いて、私は範囲の回復術を唱える。

「万物に宿りし、精霊たちよ、我らに癒しの加護を。ハートレスサークル」

生暖かい風が吹いて、体からいくから疲労感が抜けていく。
この範囲の治癒術はかなりの体力を使うから私にとってはプラスマイナスゼロくらいにかならない。

「わぁ!すごいね!」
「確かにな……」

おのおの武器をしまいながらこちらに声をかけてくる仲間たち。
私は術の反動もあって疲労感に耐えながらそれを聞いていた。

「すごい治癒術ですね。尊敬します」
「エステルも勉強すればこれくらい」
「それだけじゃないわね。ね、あんた」
「なに?」
「その魔術の知識、どこで学んだのよ」
「んー……」
「少なくともアスピオじゃ無いわよね。あんたの顔見たこともないし」

どう返事をしたらいいか困っていた時だった。

「記憶喪失なんだとよ。こいつ」
「は?」

ユーリの一言に私もリタも同じ反応したと思う。
粗雑過ぎるフォローじゃないかと思ったが、帝都の城の中で同じことを言った自分を振り返ると何もいえないか。
あながち間違いでもないし。

「それで、生き離れになった両親を捜してるんだと」
「エル、あなた大変な思いをしてたんですね」

と、瞳を潤わせて私の手を取るエステル。
大変だったんだねと声を掛けるカロル。
私はどうしたらいいかと分からずにただ苦笑いをしていた。
ユーリを見てみれば口笛を吹きながら明後日の方を見ているし。

「馬鹿っぽい、もういいわ」

何の興味も沸かないと手をひらひらと翻してリタは歩き出す。

「何か、困ったことがあったら言ってくださいね」
「僕も協力できることがあったらいつでも」
「だから……」

あーと深く息をつきながら、隣を歩くラピードを見れば「わふ」と小さく息を漏らしてそっぽを向かれた。
あぁ、飼い犬は飼い主に似るのかと内心、呆れていた。

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