天候を操る魔導器

「ふぁああ……」

緊張感の無い私のあくびが響いた。
それはまるっきり無視をされて、話は進んでいく。
私は内心、帝国の騎士団の力はその程度かと悪態をつきたかった。

宿屋に帰った私たちを迎えたのはなんとも重い雰囲気だった。
私は近くにあるマグカップを手に取ると紅茶を淹れようとする。

「此処までの事情は聞いた。賞金首になった理由もね」

と私を見たのはフレンだった。
ユーリが賞金首になった理由を伝えたのは大方私だし。

「先ずは礼を言っておく。彼女を守ってくれてありがとう」
「なに、魔核泥棒を捜すついでだよ」
「しかし」

と、言葉をさえぎったのはフレンだった。
その表情は礼を述べるにしては重苦しくてそして、浮かない顔

「どんな事情があれ。公務の妨害、脱獄、不法侵入を帝国の法は認めていない」
「不法侵入?」

私が首をかしげると、ユーリはいろいろあってなと言う。

「ごめんなさい、全部話してしまいました」

エステリーゼも融通の利かない正直な性格しているからなぁ。

「仕方ねぇなあ。やったことは本当だし」

フレンが重く頷くととんと音がするほど、床に剣を落すユーリ。

「フレン!?」

エステルは事情を全て話したとはいえまさかユーリに罪が掛かるとは思っていなかったのだろう。
目を丸くしてフレンを見張るが

「別に構わねぇけどちょっと待ってくんない?」
「下町の魔核を取り戻すのが先決と言いたいのだろう?」

まるでユーリの考えることが手にとって分かるのだろう。
不意に笑うユーリ。
そのとき、部屋にノックの音が落された。
入ってきたのは、ソディアとウィチルだ。

「フレン様、情報が……って何故リタが居るんですか?!」

冷静なウィチルが取り乱したように、部屋の隅で壁にもたれかかって退屈そうに聞いていたリタに声を掛けた。
んあ?と眠そうな瞳をゆっくりとウィチルに向けるリタ。

「あなた、帝国の強力を断ったそうじゃないですか!帝国直属の魔術師が義務付けられている仕事を放棄していいんですか!?」
「……誰だっけ?」
「は?」

体と一緒に眼鏡までもずり落ちるウィチル。

「リタ……」
「さー?悪いけどぜんぜん見覚えないわ」「ふん、いいですけどね。僕もあなたに対してまったく興味ありませんし」

と、眼鏡の位置を正しながら強がりをみせるウィチルだけども瞳が少し潤んでるようにも見える。
ずいぶんと可愛い負け惜しみだと思う。

「紹介する。僕……私の部下のソディアだ。こっちはアスピオの研究所で動向を頼んだウィチル。彼は私の」
「こいつ!!賞金首の!!」
「ちょっと待って!」

いきなり、剣を抜きユーリに斬りかかろうとするソディアを羽交い絞めにして止める。
ずるずると引き摺られながらもぎりぎりで踏みとどまる。
そんな私の必死なことを他所に、ユーリは気にもしない様子でソディアを挑発する。
こんな真っ直ぐなお堅いソディアにそんな真似をしたら

「貴様!?」
「ソディア、待て!彼は私の友人だ」
「なっ!賞金首ですよ!」

と、剣を下げながらも今度はフレンにくってかかるソディア。

「事情は今確認した。確かに軽い罪を犯したが手配書を出されたのは濡れ衣だ。後日、帝都に連れ帰り私が申し開きをする。その上で受けるべき罰は受けてもらう」

ぐっと、唇をかみ締めたソディア。
しぶしぶ剣を鞘にしまうと鼻を鳴らしてそっぽを向く

「失礼しました。ウィチル。報告を」
「この連続した雨や暴雨は、やはり魔導器のせいだと思われます。季節柄、荒れやすい時期ですが船を出すたびに悪化するとは説明がつきません」
「ラゴウ執政官の屋敷内にそれらしき魔導器が運び込まれたとの証言があります」

と、何枚かの書類を机の上に置くと、それに目を通すフレン。
おそらく、助力したのは紅い絆傭兵団だろう。

「待って。魔導器で天候を操るなんて可能なの?」
「あたしは、天候を制御できるような魔導器なんて聞いたこともないわ。そんなもの発掘もされていない」
「私も、遺構の門からはそんな話聞いたことないね」

遺構の門は魔導器の発掘を専門としたギルドだ。
私が映像魔導器を買った先でもあるし、帝国以外の魔導器を掌握しているところだ。
帝国の魔術師と、発掘ギルド。
どちらも知らないとすればその存在はとても怪しい。

「執政官様が魔導器を使って天候を自由にしているって訳か」
「えぇ、ラゴウは悪天を理由に港を封鎖し、出航する船があれば命令違反で攻撃を受けたとか」
「それじゃ、トリム港に渡れねぇな……」

と、呟いたのはユーリだった。
そうだ、船が出ない限り、トリム港がある大陸には渡れない。
ユーリの目的がトリム港に居るその隻眼の男だとしたらそのラゴウをどうにかしないと帰れないわけか。

「ラゴウはそれだけじゃないわね。税金を払えない住民たちを魔物たちと戦わせて楽しんでいるとかね」

口元を押さえてひどいと顔を真っ青にしていうエステル。
私だって現実味を感じないからこうやって冷静にしているけど、それを目の前に突きつけられればエステルと同じだ。
ただ、私とエステルの違い、それは感じ方。

「そういえば子供が……」
「子供がどうかしたのかい?」

何かを言いかけたカロルにフレンが問うと、あからさまに言葉をさえぎったのはユーリだった。

「なんでもねぇよ。色々ありすぎて疲れたし俺ら。このまま宿で休ませてもらうわ」

そのまま、カロルの首ねを掴むと部屋を出るユーリ。
私はそれを追う前にフレンを見ると、とても意志の篭った目でこちらを見る。
そしてかすかに動く唇。
「ユーリを頼む」そう言っているように思えた。

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