利用するものと受け入れるもの

足元で心配そうに覗くラピードをぽんぽんとなでるとはぁ、とため息がひとつ落ちた。
私は雨宿りできるアーケードを見つけてそこで雨をしのぐ。
ラピードも体を震わせて水を払っていた.
私は杖をぬるぬるした柔らかい地面につきたてた。

隣の壁に剣立てかけて腕を組む、黒。

「仲間のところに行かなくていいの?ユーリ?」
「お前もフレンのところに行かなくていいのかよ」
「うーん」

それは皮肉のようで、上手いかわし方も知らない私はただ苦笑いを浮かべた。

「お前、デイドン砦で別れてからなにをしてたんだよ」
「うーん……」

こうやって追求の手を休めないユーリに私はうなっている一方だ。

「カウフマンにハルルまで送って貰ったの。ハルルでユーリが言っていたフレンにあって」
「此処まで一緒か?どっちかってぇとフレンが保護者みたいな感じか?」
「いーえ。あくまで協力者かな?」
「そうか」
「ユーリ」
「なんだよ」
「結界の外の世界はどうだった?」

最初はただ話をぼやかすために聞いて見たが思いのほか、彼はそれには食いついた。
と私が問うと、仄かに唇を綻ばせた。

「思ったよりずっと大きい世界だったな」
「そう?」

帝都の結界内で過ごしたというならば、この結界の外の世界はどれだけ広いだろうか。
見渡す限りの森や平原、そして大海原。
決して彼が知る限りの世界では見ることはおろか、知ることすら出来ないもの。

「貴重な体験だったんだね」

そう、後ろに手を組んだ。

「で、何でノール港にまで来たわけ?フレンがきっと此処まで来ると言っていたから驚きはしなかったけど」
「お前な自分のことは話さないくせに」
「まぁまぁ」
「アスピオの天才魔術師のリタ・モルディオさんは偽者だったんだよ」
「リタ・モルディオ?あぁ、なるほど」

そのアスピオの天才魔術師は先ほどの少女リタが本物だとして、彼女の高名を利用して魔核を泥棒した人間は別にいるということだろう。

「その黒幕がカプワ・トリムに居るそうだ」
「黒幕?」
「顔の右に傷のある隻眼の大男らしいけどな」
「隻眼の大男……」

顎に手を当てて考えてしまうのがどうも私の癖らしい。
そして彼は面倒ごとに突っ込むのは好きらしい。
その黒幕は私が知っている人物だとしたら、彼は今以上の事に巻き込まれることになるんじゃないか。

「知ってんのか?」
「うーん」

あいまいな返事しか返さないでいるとそれ以上の追求は無かったのでそのままにしておく。
聞こえる雨音が少しづつ小さくなっていく気がする。
それをただ片耳だけで聞いていたら、だんだん此処に居づらくなってきて、私はどうしようもなく、足が勝手に動いた。
とそのとき、腕を掴まれた。
ユーリだ。

「俺はいくら使われてもかまわないが、あいつは、フレンはいくらでも騙せるからな。ほどほどにしてやっといてくれないか?」
「やっぱり分かる?」
「当然だろ」

自分は演技派だとは思わないが帝都では不自然な行動はとらないようにはしてた。
ユーリの観察力と、そして冷静すぎる思慮を甘く見すぎたせいか。

「怖いね」
「んぁ?」
「ううん。でもこれだけは弁明しておくね。別に悪いことをしようとしては居ないよ。どちらかというと正義の使者的な?」
「他人をうまく騙しておいてなにを言ってんだよ」
「ユーリは幼馴染に悪い虫がつかないように見張っているの?」
「その言い方、誤解されんぞ」

小さく、声を上げて笑うと、私は肩に掛かった腕を払う。

「だったらユーリが私のことを見張っていれば?ね」

それは本心から言ったか分からない。
彼が私に疑いを持てば持つほどこれから私は動きにくくなるかも知れないと分かっていての一言。
後々、それはずっと未来の話だけど、あの時私は独り、寂しかったのではないかと考えてしまうような、そんならしくない言葉をつむいだ。

「そうだな、そうさしてもらおうか?」
「え?」

本気なのと問うとまるでいたずらっ子のような嫌な笑みをうかべて「お前が言い出したんだろ」と。
そんな彼の一言に後悔して
そして微かにあの時痛んだ心の痛みが無くなった気がする。
利用したとばれた日には必ず、拒絶されると信じて疑っていなかったからだ。




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