港町に潜む影 

永遠と、小さく窓を叩く音が聞こえた。
雨水が窓のガラスに当たっては落ち、落ちた水滴は地面をぬらす。
カプワ・ノールはこの大陸一活気ある港町のはずだった。
晴れの日には、漁船が港いっぱいに繋がれてそして市場で騒がしいくらいの競りが行われている。
そして大陸を渡る玄関口だけあって旅行者の数もさながら多いと聞いていたのでこんな静かな街とは想像もしなかった。
確かに、帝国の圧力があるとは聞いていたが、商売や流通の事に関してはさほど口五月蝿くはない。
帝国の評議会から派遣される執政官がこの街の全権を仕切っているとは聞いたが。

「これはひどいね」

私が街全体を見渡すと、隣、前と歩いていた3人はため息を漏らした。

すっと空を見上げてみると曇天がこの街をまるで結界のように覆い隠していて、昼間の太陽はもちろん夜の星を見ることすら叶わないだろうに。
当の結界の輪すら見えない悪天候がもう1ヶ月近く続いていると駐在の騎士から情報を仕入れてこうやって街を回ってみるのはいいが。
漁猟にも天候は、永遠と振る雨。
風も強く波は小さな船だったら一瞬で飲み込まれそうなくらい高く、近くの農家を見たが、農作物は全て流されしまったという。
おかげで市場、港は完全に封鎖されていて、旅行者もどこからか封鎖の情報を聞いてるためかその姿はまったく見ない。

とりあえず、宿屋の部屋を何室か貸しきったのでそこで冷えた体を温めていた。
タオルを肩からかけて、私は席に着いた。

「ソディアとウィチルは?」
「さぁ?まだ帰ってきていないみたいだね」

と、フレンは頭についた雫を拭き取りながら答えた。

「うーん」
「情報は彼女らが集めてきてくれるだろう」
「私もちょっと出ようかな」
「どこへ?」
「さっきね。街を歩いているとき顔見知りかなーって人が数人いたの」

へぇーとうなずくフレン。

「ギルドの人なんだけどね。ちょっと気になるから」
「僕も行こうか?」
「どっちでも。だた確かめたいだけなんだ」

と、私は再び上着を羽織り、杖を手に取る。
宿屋の外に出るとフレンが外に出てくる。
手を振りながら。

「一緒にいくよ」
「うん」

そう短く返すと、私は明後日の方向に歩き出す。

「ラゴウ執政官ね。叩けば叩くほど嫌な噂しか聞かないね」

私が街で仕入れた情報では、漁に出れなくなった住民たちに税の納付を強要し、払えない人間には鞭を売ったり、この辺に出没するリブガロという珍しい魔物の角を献上しろという。
一般の人間が魔物と対峙して無傷で済むわけも無い。
それにリブガロを求めて結界を出ようものならば別の魔物に襲われたりもするのだから。
そして税を払えなかったものは子供からラゴウの屋敷に連れて行かれるという。
しかもその徴収には騎士団ではなくギルドの人間が行っているという。

「これも、帝国の評議会がしっかりしてないか、ま。両方か」
「すまない」
「あなた一人の問題ではないから。私の上司が言うには20年以上も前からずっとこんな様子らしいし」
「……?君はおかしなしゃべり方をするね」
「おかしい?」
「らしいとか、聞いたとか。それは君の知ってることじゃないのかい?」
「うん、そうね。そうだよ」

あっさりと言った自分の中に黒々とした嫌な記憶が脳裏に浮かんだ。
首をかすかに振ってそれを取り払う。
うっすらとした霧に包まれた街下。
昼間だというのに、まるで夕暮れ後のような暗さ。
そして、感じた――

「フレン!」
「っ!」

肌寒さじゃない、それは悪寒。
鳥肌が全身に広がった瞬間それは接近した。
ひやりとしたものがふっとよぎった。
私は後ろに下がると、そこには無機質なナイフがよぎった。

黒い影だった。
まるでのっぺらぼうのような仮面を身につけて、全身は動きが見えないような黒い装束を着ている。
それは帝都の城、そうちょうどフレンの部屋で強襲してきた暗殺者の集団の者だった。

「エル、気をつけて」
「分かってる」

                                                                                                                                                                                
暗殺者が振り上げた短剣をはじき返す、フレン。
2人の暗殺者は前のザキと同様、かなり身軽でまるでたんぽぽの種子のようにふわふわと動く。
そのくせ、狙ってくるところは正確でよけるのも一苦労だ。

私はチャクラムを腰から抜くと魔法を使うときと同じ感覚でエアルを充填する。
そしてそれを暗殺者に向けて投げるが案の定、それは避けられる。
が、そんなことはお見通しだ。

「バニシングソロゥ!」

チャクラムに貯めたエアルが爆発して衝撃波を起こす。
暗殺者はその衝撃に巻き込まれて、住居の壁に叩きつけられてかすかだがうめき声を上げた。

「エル」

それを黙視しているときだった、フレンの声と一瞬ずれて振り向けばせまる片割れ。
手にはナイフ。
杖で何とか応戦はしたが、もう片手にもそれは握られていて、咄嗟で体制を崩した。

「っ!」

急にフレンに手を引かれた。
フレンは私をかばうように剣を振るうと、それは暗殺者の腹に当たる。
が、みねうちのようで大したダメージは与えられていない。

「ありがとう」
「どういたしまして」

と、戻ってきたチャクラムを腕に通すと立ち上がる。
が、そのときには暗殺者の様子は変わっていた。
寄り添い、耳打ちで何かを伝えているようだった。

と、思ったら二人は急にきびすを返して、町の風景に消えていく。

「追うよ」
「分かってる」

幸いにも相手は目立つ格好をしている。
それに人とおりもまばらだ。
裏路地を縫うようにそれを追った。




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