海の見える丘

「それにしてもなかなかロマンティックなことするんだね」
「そうかな」

あれから早急にハルルの街を出た私たち。
驚いたことに少人数で移動していると聞いたがまさか私たち4人でカプワ・ノールまで移動することになるとは。
本隊とはカプワ・ノールで合流すると聞いた。
私たちが今居るエフミドの丘はカプワ・ノールとハルルの街の中間に位置し、結界魔導器も設置されているので野営などとって行く人が多い。
日はどっぷりと暮れて辺りの視界は暗い。
フレンをは先頭を、私とウィチルはその後ろを、そして殿をソディアが警戒している形になる。

「僕はノール港に行く。早く追いついて来い。か」
「変だったかい?」
「いいえ」

フレンがハルルの街を出る際、ユーリの手配書に書いた手紙。
それをあの町長に預けてきた。
早く追いついて来い、か。
わざわざそんなことしなくても時間を待たずとして彼らはあの街に帰ってきただろうに。
それなのにわざわざ自分を追わせる真似をしたのかは分からないけど。

「それより、気になっていたんだけど」
「なに?」
「ギルドには君みたいな子が多いのかい?」

それは私みたいな女性が多いのか、それとも私くらいの年齢が多いのか。

「私と同じ年くらいの女の子はそうそう居ないかなー」
「じゃあ君はなんでギルドに?」
「私?成り行きかな?」

気がついたらこうやって仕事をしていたし、私にはいまだに帝国というものが理解しがたい。
もし、生まれが帝都などだったら私は一生その結界を出ることなく暮らしていただろうとは思うが。

「僕も聞いていいですか?」

こちらを見上げるウィチル。
どうぞとうなずけば

「やっぱりエルさんが派遣されてきたのって作家だから心理戦に強いからですか?」
「心理戦?」
「ほら、こうやってフレンさんと交渉したりとか」
「あー。そのことならたぶん。たぶん私が知っているギルドの人間はまともな敬語を使えないからだよ」
「え?」
「それだけ?」
「えぇ」
「ギルドって」

ポツリと零したウィチル。
内心あきれるのは分かる。
ギルドの中身をひっくり返せば中には荒くれものばっかだし。
そこらの盗賊の類となにが違うと聞かれればんー。心底悩む。
現にギルドの中には盗賊ギルドと呼ばれるものがあるし。

風が出てきて、私は身震いをした。
先ほど話し合った結果、今晩中にもこのエフミドの丘を抜けて明日のお昼にはカプワ・ノールにつくようにすると。
しかし、昼間も歩きどおりなのでいい加減眠い。
騎士である二人はしゃっきり歩いているが私とウィチルは足元が覚束なかった。

「ほら、ウィチル。見てごらん」
「なんですか?フレン様」

と、ウィチルがその先を光で示した。
その先は広大な海が広がる丘だった。
月明かりに照らされたそのどこまでも深い漆黒の海。
そして鏡の水面には空の星々の光が宝石のように輝いていた。

「うわぁー。きれいですね」

と、感嘆の声を上げる、魔導少年。
私も何か感想を一言でも述べたいが、あまりのきれいさに言葉を失っていた。

踏み出して見下ろすとその光景が台無しなくらい、恐怖を感じる高さとそして渦が巻いているが。

「気に入ったの?」
「な……」

隣で口をぽかんと開けていたソディアに声をかけると私と同じ症状が出ているらしく。
ただ彼女は素直じゃないから顔を赤くしてそれを否定していた。

「やっぱり外はきれいなところがたくさんあるね」
「フレン?」

剣に手を添えて、そう呟く彼に声をかけると軽く「ごめん」と言い

「僕たちの守っている世界はあまりにも狭いのだなと思ってね」
「そう?」
「ユーリにも僕たちの世界が広いって事を知ってほしいんだ」

思っていたけども、ユーリはフレンの話は自分から持ち出したりはしないが、フレンはその逆だ。
まるで兄のような心配を見せて、こうぽろっとユーリへ対する不安をもらす。

「彼は下町でくすぶっているような人じゃない」
「確かに、剣の腕はとってもいい筋だったね。ただ、怠慢さがちょっと見えていたけど」

おそらく、いくら下町の用心棒(主に騎士団に向けて)をやっていたとしてもそうそう剣を振るう機会はないのだろう。
騎士団の人間に剣で傷をつければそれこそ、二度と、土を踏めないような処罰を受けるに違いないし。
そういう分別をついている癖に困った人間はほうって置けない。
重度の病気だね、うん。
嫌よ嫌よも好きのうちという言葉がユーリにもっとも当て嵌まる。
素直じゃない彼なりの優しさなのだろう。
私も優しさに触れた一人だろう。
だから、デイドン砦で彼を見送ったときに良心が痛んだ。

「ソディア?」

そんな話をしているとソディアがぎゅっと上唇をかみ締めてそっぽを向いた。
私が名前を呼ぶと

「此処に留まるのは危険です、行きましょう」
「あぁ、そうだね」
「えぇー。もう行くんですかー」

と、ウィチルは文句をたれながらもソディアの後に続く。
フレンも慣れている様子でそれに続く。
私は早足で二人を追い抜き、ソディアの横に着く。
そしてフレンたちとの距離を確認しながら

「どうしたの?」
「隊長は……」
「?」
「なぜそのユーリとやらを信用するのだろうか」

それは私に尋ねられても答えられないものだった。
うつむきながらソディアは疑問を綴る。

「隊長の話を聞く限りとてもではないが隊長がそこまで信用を置く人物だとは決して思えない。それに隊長はなぜ私を信用してくださらないのだろうか」
「え?もしかしてフレンの事すきなの?」
「え?あ!違う!!!」

そう、直球に問えばただ、叱咤のように強く否定される。
こう、女性だったら顔を赤らめて「ち、違うんです」位あってもいいのにと内心がっかりもしていたと思う。

「じゃあ?憧れの人とか?」
「小隊長は他人を区別しない。平等に接しようとしてくれる」

ソディアはそういったとき、何よりも目が輝いていたと思う。
でも、私はそんな彼女に冷酷なことを言った。

「そう……でもねソディア。憧れはあの人の理解にはもっとも遠いものだよ」
「?」
「憧れはねその人の本質を見るのに、霧を撒くもの。その人を美化すればするほどその人を見るのを邪魔する。理解するにはお互いが同じに立たなきゃ出来ないものだよ。彼のあるべきものを見ないとあなたはいずれ間違ったことを彼のためにしてしまうかも」
「それは!!」
「ソディア!!!」

話を割ってきたのはフレンの叫喚の声だった。
その瞬間、そばの木ががさがさと大きな声を立てて動いた。
隣のソディアは咄嗟に剣を抜く。
私は杖を握り締め辺りの様子を伺った。
聞こえた音はひとつ。



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