帝国の内部

「おいし……」

恥ずかしいし、ずずと音を立てないように 甘めのココアをすすった。
それはまだ暑くて猫舌の自分は気をつけて飲まなければと。

「あの……」
「なんだい?」
「そんな、見なくても」

と、控えめに呟く。
すまないと一言声をかけてフレンは小さく息を漏らした。

「それで、ギルドユニオンの人間がなぜ僕に?」
「というより帝国騎士団の人間ならよかったのですけど」

そういって机の上に木箱を置く。
それを食い入るように見つめる、この場の三人。
紛れもない、偽者じゃないと確認をしてもらったところで

「私はギルドユニオンから派遣されて、この密書を“次期皇帝”に渡すように使わされたわ」
「次期皇帝……」

その言葉を眉を潜めたフレン。
今帝国は10年近く皇帝は不在だ。
そして騎士団、帝国の評議院各自が推す次期皇帝候補が居るがどちらも決まらない状態にある。
詳しい理由は知らないが、そのせいで帝国騎士団、評議院がお互いの失脚を狙い、腹の探りあいをしている。
ギルドユニオンとしてはどちらにつくか、どちらともつかないか、それを決めておく必要もあった。

「それでね、ちょっと帝都に行ったの。城の内部の情報も掴んでおきたかったし。そうしたらまぁ、投獄されかけたりして大変だったのだけど。そして、そこにはエステリーゼしか居なかった。エステリーゼはあなたを捜して城を出たいと必死だったわ。私としてもどちらでもよかったのだけど」
「エステリーゼ様が?やはりあれは」
「そうだよ。ユーリとエステリーゼは一緒にいると思う。私はハルルで待っていると思ったけども」

あっさりといった私にソディアとウィチルは私をじっと睨みつける。
しかし、臆する必要はないと分かっていた。
私を雇った人は私たちギルドユニオンと帝国騎士団はあくまで対等な立場で挑めといっていたし。


「それで、なんで僕のもとへ?」
「あなたが信用ある人物だって聞いたから。実際私が帝都に行ったときなんてひどかったし。取立て風景や、ユーリなんてなんも罪を犯していないのに暴力を振るわれて投獄されていたわ。あれじゃあ、ギルドユニオンも帝国を嫌うわけね」
「ユーリ……と会ったのかい?」
「えぇ」

と、うなずくとこちらの腹を探るように質問はどんどん厳しさを増す。
じっと両手を顔の前に組んで口元を隠す。

「ユーリにあなたは信用できる人物だって聞いてわざわざ来たのよ」
「ユーリが……?ということはこれは本当らしいね」

と、フレンが懐から取り出したのは一枚の手配書だった。
その手配書に書かれた絵はお世辞でもうまいとはいえない。
目を瞑って書いたのかと疑いたくなる。
そのフォローに回るべき、外見の特徴も

「お尋ね者。凶悪脱獄犯。黒い服の胸元をいつも開けている黒髪長髪の男なのであーる。今も13、4の少女を人質に逃亡中。この輩を見つけたものは騎士団に報告するのであーる」

それは棒読みで言った。
なんというか、間抜けな手配書だ。
懸賞金はそれなりの額なのだが、いくらで変えられる容姿の事を綴っても何も意味ないだろうに。
それに。

「この人質って私?」
「おそらくはね」

と、フレンはうなずいた。

「じゃあ見つかることないわね」
「君がユーリと居ない限り――」
「私、これでもたぶん17だもの」
「えぇ?!」

と、目を見開いて驚いたのはフレンとそしてウィチルだった。ソディアはかすかに眉が動いた程度だった。

「驚いたな」
「そんな幼く見えます?」
「まぁ、身長とか」
「これから成長しますから」
「うぅー」

ウィチルは頭を抱えている。
なにをそんな悶々と考え込むことがあるだろうか。

「にしても、ユーリが手配書を出されるということはユーリは下町を出たんだね」
「えぇ、最後にあったのはデイドン砦ですけど。元気そうでしたよ。無茶なことしてましたけど」
「そうか、それはよかった」

冷静を保っていった、フレンの口角はかすかに上がって笑っていた。
親友というものは私は居ない。
悪友なら居ることは居るのだけど。
親友の定義は友達より仲がいいだの、幼馴染だという人間はいるが。
先ほどからこのフレン・シーフォはユーリのことは訊ねてくるが心配する様子は一切ない。
それはそれなりに彼のことを信用しているのだと思う。
だからこそ、エステリーゼの居場所を知ってもこうやって私と話をしていられるのだろう。

「此処からが本題ですけど」

そう言ってマグカップを机の上におくと、和らいでいは表情がこわばる。
ぴりりとした空気が部屋をつつんだ。

「エステリーゼにあって、それなりに彼女を見た上で言うわ。私はこの密書をもう一人の皇帝候補、ヨーデル殿下に渡したいと思う」
「それは」
「このギルドユニオンからの密書の中身によって今後のこの継承問題に大きな影響を与えるかもしれないでしょうね」
「なのに」
「私の独断だけど、これはあなた方の今後を思いやって決めたことよ」

こうすると決めたのはユーリとエステリーゼを待ったときだった。

「それはどういうことだい?」
「エステリーゼは確かに他人を思いやれる人格の持ち主だし、頑固なところも私はマイナス評価しない。それに素直だしね。でもその素直さが悪い方向に持っていかれないとも限らないでしょう?」

現にエステリーゼは帝国内部ではたいした発言権も持っていない。
彼女が何もいえないことをいいことにエステリーゼの権力は評議会が握ってしまっている。

「それに、あなたのために城を出たい!と言っていたけども本心ではその必要もあまりないことに気がついているわ。自分が城から出てみたかったかもね。もちろんそれが我が侭だと責める気もないけど。自分が周囲に与える影響力を考えきれてないのよ。それにエステリーゼにこの密書を持っていっても揉消されるだけ。違う?」

重い沈黙が流れた。
私以外、その言葉を続けられるものは居なかったからだ。
まだまだ言えることがあるがそれ以上はこの場に居る全員への侮辱に繋がる。

「君は鋭いね」
「職業柄ね」

最後に向けた問いは肯定の意味で取れた。

「それで帝都でヨーデル殿下に会いに行こうと思ったけど、どうやら留守のようなの。しかも公務でもない。国民にも知らされず。非公開でね。
そして間を空けず将来有望な騎士の小隊長が非公開の巡礼の旅に出た。ね」
「ははっ。お手上げだね」

フレンは碧眼を細めて言った。

「君の想像通りだ。僕たちは誘拐されたヨーデル殿下を追っている」
「フレン様」
「ソディアいいんだ」

剣の柄に手を添えて一歩踏み出したソディアを片手で制したフレンは大きく息を吸った。
彼らはヨーデル殿下を追っているものの、その足取りはなかなか掴めていないのだろう。
だからこうやってハルルで結界魔導器の修理を手伝ったり、学術都市アスピオに立ち寄ったりと、方向性のないことをしている。
そんな彼らに私はさくじつ、幸福の市場で買った情報を漏らした。

「先日、ある執政官が大きな荷物を帝国から持ち出したらしいよ?その直後、ヨーデル殿下が姿を消したとささやかれるようになった。そしてその執政官の集団ととあるギルドがデイドン砦で合流したのも見ている人物も居る」
「それは」
「カプワ・ノール執政官、評議会の一人ラゴウね」

言い切った私に意外性を感じることはなかったらしい。
3人は表情をこわばらせる一方だ。

「やはり、フレン様」
「そうだね」

騎士である二人の目にはぎらぎらと何かいいがたい光は宿ったようだ。

「その、ギルドもこちらで調べはついているわ。紅い絆の傭兵団。五大ギルドの一つね。この紅い絆傭兵団と帝国の執政官が手を組んで何か悪いことをしでかそーとしているならばお互いが考えるべき問題だと思わない?」
「というと?」
「とりあえず、私はこの密書を届けるまでは協力するから、よろしく」

それは協力というなの監視に近い。
彼らがうまいことヨーデル殿下を救い出してくれればそれでいい。
もし無理なのであればその場で別の協力者でも捜せばいい訳だし。

「わかった、しばらくの間よろしくお願いするよ」
「こちらこそ」

それこそ作り笑いをして私はフレンの握手に応じる。

「そういえば名前をまだ聞いていないね」
「あぁ、そうだったね。私はティアルエルよ」

と、私が笑いかけた瞬間、部屋は氷ついたように寒くなった。
まるで機械仕掛けのように止まった彼らを見てみればさっと引いた顔で私を見ていた。
猫目の女性騎士、ソディアまでもが顔を真っ赤にしてみている。
私、何か悪いことでも言っただろうか。

「作家のティアルエルさん?」

おびおびと最初に口を開いたのはウィチルだった。

「そうだけど」
「深みのある人間心情、巧みな言葉回しと計略されたストーリーを書く人なんでそれなりに年のいった人だと思っていたのに」
「僕なんてエステリーゼ様のために城下に買いに行ったときにどこも売り切れで唯一、商業ギルド買ったときにぼったくりみたいな値段で買わされたよ」
「もしかして」

相変わらず、他人の作品で詐欺まがいな行為を働いているのか、カウフマン。

「あの」

そんな不幸体験をウィチルの愚痴る、フレン。
するとソディアに袖を引かれるのでそのまま彼らの死角に来たときに
鬼の形相で睨み付けられるので一瞬まさか殺されるかと思ったけど

「サインをくれ」
「あ、はい」

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