黒衣の暗殺者

フレンの部屋まではどこまであるかは知らないけど、そこまでは遠くないようだ。
階段を登り、廊下を少し抜けたところ。
何も変哲もない扉の前で立ち止まったユーリ。
扉は閉まっていなくてゆっくりとユーリは扉を開けた。
暗いその部屋の隅まで確認はできなかったが小奇麗に片つけかれている。
人の気配はなく、静寂だけが置き残されていた。

「やけに片付いてるな。こりゃフレンのやつ、どっかに遠出かもな」
「そんな間に合わなかった……」

「ねぇ」
「はい?」

私が声を掛けると、少女は少し涙目で振り返る。

「そのフレンさん?を探しているのは分かるけど、あなた自身なんで騎士団に追われてるの?」
「私は」
「悪いことでもした?たとえば城の中の壷を壊したとか」
「お前……そりゃないだろ」
「私、悪いことなんてしてません」
「なのに騎士に追い回されるのか?常識じゃ図りしれなぇな。城の中は」
「あの、ユーリさん」
「なんだよ、急に」
「詳しい事は言えませんがフレンの身が危険なんです、私、それをフレンに伝えに行きたいんです」

と、少女は私たちの顔を見据えてそういった。

本人は隠しているが、この少女の名前と素性は私には容易に想像できた。
なぜなら私の探しものの片割れといっていい人物だから。

「俺にも急ぎの用事があってね。外が落ち着いたら下町に戻りたいんだよ」

と机に手を掛けてユーリは言う。
私を見るが目を背けた。
私にはつれていけるほどの余裕はないと。
少女は目を伏せたが、何か思いついたのかユーリに三度。

「だったら私も連れて行ってください。今の私にはフレンしか頼れる人がいないんです。せめてお城の外まで。お願いします。助けてください」

と、必死に訴え深々と頭を下げた。
ユーリは一瞬何か考えたように沈黙したが、はーとため息をつくと

「わけありなのは分かったからせめて名前ぐらい教えてくんない?」
「あ……」

と、少女が声を発しようとしたときだった。
私の背後からぎぎぎといやな音がした、ので私は扉から離れると、その直後、扉が私のすぐ後ろまで飛んできた。
蹴飛ばされたのだ。
何事だと、二人が後ろを向いたとき、入り口にはメッシュの入った赤髪の男がいた。
全身黒い巻きつけられるような衣装両手には小さな鎌が握られている。
目は焦点があっていなく、見るからにやばそうなやつだった。

「俺の刃の餌になれ」

と、ユーリに向かって吼えるといきなり襲い掛かって言った。
ユーリは剣を構えると全身の体重で向かってきた黒衣の男を止めた。

「俺はザギ、お前を殺す男の名、覚えて死ね。フレン・シーフォ!!」
 
と、ザギは言うともう片手の鎌を振り下ろした。
後ろに下がってそれをよけるユーリ。

「人違いだ!!」

そんなユーリの言葉は聞こえていないのだろう。
ユーリが防御に撤する中叩きつけるようにして鎌を振り下ろす。

「くっくっくっ」
「何だよお前」
「俺はお前を殺して自らの血にその名を刻む」
「それ最高に趣味悪いな」

こうやって会話をしてるということはユーリの中ではそれなりに余裕はあるのだろうけど。
ザギの身軽な動きに反撃の余地はないだろう。
すると、私の横で見ていた少女が剣を握る。
私は彼女の腕を掴みそれをとめた。

「危ないよ?」
「でも、放っておけません」

そう頑なに言うと、私の手を振り払った。
その反動で痛んだ手は少し痛かった。
私は今までただ見ているだけでいたから。
そういって「私もお手伝いします」
と、ザギの背後からスキを狙い、切りかかる。
が、ザギは急にユーリの剣を払うと宙に飛び上がる。
狙いをはずした少女の斬撃が空をきる。

「ばか!!お前!!」

ユーリが少女に向かっていったとき、ザギはすでに少女の背後で構えていた。

「邪魔をするな!!」

それは振り上げられ一刻の余地もなかった。
私は咄嗟に手を上げ、目の前に術式を描く。

「貫け、雷!サンダースピア!」
「なに!?」

それは私の手のひらから放たれる、雷撃。
光速の速さでザギの体を貫いた。
よける余裕もなかったであろう雷の槍はザギには一身に受けて床にもだえ苦しんだ。

「お前……」

呆然とこちらを見つめる、ユーリと少女。
そんな暇はない。
私はさらに次の術式を描こうとしたときだった。

ユーリはザギに突っ込んでいき、そして剣を振り下ろした。
立ち上がれるまもなく、ザギは床に伏したままぴくりと動かなくなった。
それをじっと見つめていた、私たち。

「相手、完璧に間違ってるぜ。仕事はもっと丁寧にやりな」

ザギの怪しさを見る限り、この人物はきっと暗殺を生業とするものだろう。
暗殺者に仕事は丁寧にいって言っても。
少女も「この人はフレンじゃありません」といってるが。

「そんな些細なことどうでもいい。続きをやるぞ」
「些細なことね」

小さく悪態をつくと私はさらに次の術式を人差し指でえがいた。

「疾風の刃よ、切り刻め!ウインドエッジ!」
「ザギ!引き上げだ。こっちのミスで騎士団に気づかれた」

私が小範囲で相手を切り刻む、カマイタチを起こしたときだった。
扉の奥に黒いマントを羽織った新しい人物が現れそういったのだ。
ザギはそれを聞くと、私の攻撃をよけてその介入してきた男を蹴り飛ばした。

「き、貴様」
「俺の邪魔をするな。まだ登り詰めちゃいない」

はぁはぁ、を息を切らしながら言う姿はさながらの変態。
今までに戦闘バカは大勢見てきたつもりだけど、このザギという人間は飛びぬけて危ない人間だというのが分かる。

「騎士団が来る前に退くぞ。今日で楽しみを終わりにしたいのか」

その言葉にザギはぴくりと、止まった。
楽しみとはおそらく殺しの仕事のことだろう。
そして、ザギはこちらに三日月型に目を細めて口もゆがませて、笑った。
そして、武器を収めると、黒いマントの男とともに一瞬で姿を消してしまった。
私たちはそれを追うという気にもなれずはぁと息をついた。
ユーリと少女はよほど緊張したのか剣を投げて、床に座り込む。
それはそうだ。
暗殺者と戦うなんて一生のうちあるかないかなのだから。

「お前、魔術師だったんだな」
「まぁ、一応」
「だったら俺、キュモールにぼこられる必要なかったんじゃねえか?」
「それは」

そうかもね。と態とらしく笑う。
ユーリは力が抜けて反論する気にもならないのだろう。
すると、少女は私の元にやってくる。

「あの診せてください」
「なにを」
「その手です」
「あ……」

と、袖で隠した私の腕を捲くる。

「どうしたんだ、それ」

ユーリもそれを眺めに来た。
私は魔術を使うさいに必ず、杖を使っているがあいにく今日はおいてきてしまった。
介入物がいないおかげで今日は手からカマイタチや雷の槍を放ったがゆえ。
手は火傷や切り傷だらけだった。
後で隠れて治癒術でも使えばいいかと思っていたが、血にじんだ服でばれたらしい。
変なところで観察力のある、人だ。

「それが魔法使わなかった理由か?」
「まぁ……」
「このままにしておくと、手は動かなくなりますよ」

と、少女は私の手に重ねる。

「聖なる活力、ここへ」

と詠唱をすると暖かい光が私の怪我を治していく。
それはとても暖かくてそして、心地いい感じがした。
普段、自分で治癒術を掛けたりなんかしないから、あぁ、こんな感じなんだと変に安心してしまった。
そして、治癒術を掛ける少女の左腕には赤い宝石の武醒魔導器を身に着けているのだが、治癒術を発動したにも関わらずそれは何も反応を見せなかった。
それは見覚えのあるものだったからユーリは気づかなくても私はすぐに分かった。
あれは私と一緒だと。

「あ、ありがとう」
「いえ、こちらこそ危ないところをありがとうございました」

とまた丁寧に頭を下げる少女を見て私は意地悪を言ったことを少し恥ずかしく思った。
この少女は誰よりも頑固でそして素直な気持ちで他人を接するのだと。

「気にしなくていいよ」
「普通、最初に俺に礼を言うべきじゃねぇのか」
「あ、はい。そうですね」
「助けてくれてありがとうございました、フレンさん」
「お前それはやめろよな」

と、私は無理やりに笑いを作って、ユーリに向けた。

「まあ、ゆっくりと話もしてられねぇな。女神像の話に掛けてさっさとおいとましますか」
「まぁ、そろそろ探しに来るころだろうしね」
「あの、ユーリさん」
「分かったよ。ひとまず城の外までみんな一緒な」
「はい!ありがとうございます。あの私エステリーゼっていいます」
「よろしくね、私はエルだよ」
「はい」

ぎゅっと直った左腕で握手を交わすと、にっこりと屈託のない笑みを浮かべるエステリーゼ。
私もぎこちなくは笑って自分とエステリーゼの違いに気づかされる。

「じゃあエステリーゼ。急ぐぞ」

と、ユーリが部屋から出ようとしたときだった。

「ちょっと待ってください。あの扉を直さないと」
「……」

と予想外の一言に私たちは少しの時間、固まってしまった。

「んなことしてる場合じゃねぇだろ」
「でも……」
「いいんじゃない?フレンさん。このままにしておいたら、脱獄だけじゃなくて小隊長暗殺の容疑まで掛かるかもよ?」
「お前、他人ごとだと思って。ったく」

取りあえず、私たちは扉を持ち上げ、嵌める。
蹴った後は残っているものの、別にこれくらいはかまわないと思う。
その小隊長にうらみをもった(主に昇格をねたんだ)騎士の人間が羨ましい!と蹴ったのかも知れないしね。

「さて、夜なのにずいぶんと騒がしいことだね」
「ったく、ルブランのやつは年なのに元気なこった」
「取りあえず女神像だっけ?」

私がユーリに聞くとそうだなあとうなずく。
走り出そうとしたが、どうしてもエステリーゼのドレスとヒールが動きづらいらしくてそっちも気になる。

「その目立つ格好、どうにかしたほうがいいな」
「着替えなら、この先の私の部屋に行けば」
「それならいこうか」

さすがにこのままじゃかわいそうだ。
街に出たら何よりも目立つだろうし、身を忍んで出ても城下でつかまったりしたらね。
私たちは道を指差すエステリーゼの後に続いた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -