桃色の少女

慣れなれしいのはもともと嫌いだった。
だって、知らない自分の事を深く聞いてくるし、答えても答えられなくてもなんでとさらに聞いてくる。
知らないことを聞かれても知らないし、たとえ知っていたとしても答える必要もないと思っているから。

「ねぇ、ユーリ」
「なんだよ」

深夜の静まり返った城の中は声がずいぶん声が響く。
小さな声で問いかけてみる。

「ユーリは騎士団にいたの?」
「あぁ、昔な」
「じゃあ帝都の内部事情に詳しかったりする?」
「他人の連中よりは詳しいだろうけど、さっぱりだな。なんだ気になるのか」
「まぁ」

私は仕事を兼ねて帝都までわざわざ足を運んだのだ。
それなのにまさかつかまって半日取調べを受けるとは自分でも想像しなかった。
それはこの青年についてきた自分も悪いが、なぜか気になるところがあったんだろう。

「お前、本当に何しに来たんだよ」
「んー。探し物かな」
「探し物?貴族街にあったものか」
「まぁ、あったかも知れないし。なかったかも知れないね」
「お前と話してると疲れるな」
「私だってこうやって隠し事ばっかりするの辛いんだよー」
「だったらしなきゃいいじゃねぇか」
「まぁ、知らない人に自分のことぺらぺら話すなって言われてるから」

私のしてることが公になればそれこそ私はあの人に耳の鼓膜が破れるまで説教を食らうに違いない。
昔食らったことはあるがあれは説教というか拷問の類に入る。

「じゃあ知らない人について行っちゃいけないとか言われてないのかよ」
「それは言われてないね」
「そうですか、っと」

ぐいと私の手を引き、柱に隠れるユーリ。
しっと人差し指を唇に当てる。
先には騎士となんとも場に似つかわしくない、桃色の髪の少女がいた。
レースが上品にあしらわれた薄緑のドレスをまとった短い髪を束ねた少女。
手には細身の剣というなんとも合わないものを手にしている。

「もう、お戻りください」
「今は戻れません」

事の顛末を見守っている。
騎士が警護を使うということは貴族以上の位の人だろうか。

「これは貴女のためなのですよ。例の件につきましては我々が責任もって小隊長に伝えておきますので」
「そういってあなたたちは何もしてくれなかったではありませんか」

?マークがつきそうな話だった。
ただ、か弱いお嬢様に武装された騎士が数人。
ずいぶんと物騒なお話だということは分かった。
じりじりと迫る騎士に桃色の髪の少女は後ろに追い詰められる。
やがて剣先を騎士に向ける。

「それ以上、近づかないでください」
「おやめになられたほうが。お怪我をなさいますよ」
「剣の扱いは心得てます」

と、騎士たちは腰に挿した剣を抜く。
少女一人にずいぶんな扱いだと思う。

「お願いします。行かせてください!フレンにどうしても伝えなければならないことが!」

と、必死に訴える。少女。
ユーリが驚いたように呟く。

「フレンだって」
「フレンって。あの小隊長のフレン・シーフォのこと?」
「知ってるのか?」
「まぁ、一応。それより」

私が視界を送ると、ユーリは剣を抜いた。
騎士が少女に向かって掛かってく。

「蒼破刃!」

それをユーリの剣の衝撃波が止めた、というか吹っ飛ばした。
間髪いれずにもう一人の騎士に剣を振り下げのしてしまう。

「フレン!私を助けに……誰?」

少女は突然現れた男に警戒しているのか、体を拒めた。
そして部屋の隅にあるものを手に取る。

「ったく、それが騎士のやることかよ。最近の騎士団じゃエスコートの仕方も教えてくれないのな」
「ユーリ!」

倒れた騎士を見つめて呟くユーリの名前を呼んで背後を指差す。

「えいっ!!」
「な!!」

少女は廊下に飾ってあった高価そうな壷を振り下ろす。
間一髪でそれをよけたユーリ。

「なにするんだ」
「だ、だってあなたたち、城の人じゃないですよね」
「だからって」

壷はないよね。
壷は。
最近の教育はずいぶんと過激なんだね。

「おい、エルいつまで隠れてるんだ」
「だって。壷怖いですし」
「あ、あの」

やれやれと立ち上がると二人の間に入る。
壷を律儀に元の場所に戻す少女。

「えっと」

位置まで気にしている少女を私たちはただ苦笑いで見ていた。
すると、私たちが来た方向から

「ユーリ・ローウェル。どこだぁ!!」
「不届きな脱獄者め。逃げ出したのは分かってるのであーる」
「ばっかもん!声が小さい」
「ルブラン小隊長はでかすぎて声が……」

いや、ちゃんと届いてますから。
叱咤を飛ばす人の声には聞き覚えもないが二人は、なんだっけ
デコさんとボコさんで間違いはないだろう。

「ユーリ・ローウェル。もしかしてフレンのお友達の?」
「そうだけど」
「なら以前は騎士団にいた方なんですよね」
「まあ」
「あの、ユーリさん。フレンのことでお話が」
「ちょい待った。あんたいったい何者だ。知り合いなのは分かったけどなんで騎士団に追われてるんだよ」

と、気迫迫る少女の肩を押し返す、ユーリ。
一方の私はこつこつと足音が大きくなっていくことのほうが気になっていた。

「ユーリ。いいの?」
「はぁ、とりあえず、フレンの部屋に案内すればいいんだな」
「あ、はい」

と、走り出すユーリについていく少女。
私は後ろを気にしながら小走りでついていく。



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