気になること


「っと、こんなものか」

私は幸福の市場の一号店から出た。
両手に持った紙袋がとても重い。
街に出るのであればそれなりの用意も必要で今回の旅でいろいろ消耗品もあったし、おまけにガスファロストで無くしてしまった杖を新調した。
今度は前回のような長いものではなく腰にまでしかこないタイプのものだった。
幸福の市場の人間とはとても顔が知れていて今回の一件何が合ったか散々聞かれたが適当に答えることしなかった。

さて、早く帰って今回買った武器と服を見てみたくて足を急がせた。
そんなときに私は会いたくない人間に遭遇する。

「おい」

それは足音からすでに気がついていた。
私を話しかけてきた男は前にダングレストに帰還した際にカロルに突っかかってきた他所のギルドの人間だ。

「お前、よくダングレストをのうのうと歩いていられるな」
「あれだけでかい顔していたくせに」

あぁ、今度の標的は私なんだとため息をついてゆっくりと振り返るとそこにはまたいやらしい目つきをした二人組み。
趣味は本当に子供にちょっかい出すことじゃないのかと思う。

「人質にされるなんて泣けるくらい愉快だよな」

それ、今一番気にしてることなのに。
これ以上その下品な言葉を聞きたくない。
私は腰のチャクラムに手を伸ばした。

「大人気ないよー。君たち」
「……?」

私は顔をさらにしかめた。
ふらふらとした足取りで私たちの間に入ったのは少しお酒が入っているんだろう、顔も少し赤いレイヴンだった。

「おーエルちゃんじゃなーい。元気にしてた?」
「……」
「お前も邪魔するのか!?」

さらに声を荒げて突っかかってくる男。
それはレイヴンに標的は代わって胸倉をつかみかけたとき、私は走って男に足を振り上げた。

「ぐぇ!」

まるでカエルみたいな声を発してつぶれる。

「ちょっと、エルちゃん。飛び蹴りはまずいんでない?」
「ユニオンのルール?今の私には関係ないもん」

意識を失った男の肩を抱えてよく分からない言葉を発しながらそそさと去っていく片割れ。
何がしたかったのだろうと首をかしげるレイヴンと着地して靴で足を慣らす私。



「レイヴンさん、ありがとうございますー」
「え?なんでいきなり他人行儀?」
「私、他人にはちゃんと敬語を使うって決めてるんです。ユーリにもそうだったんですよ」
「他人って、俺ショックなんですけど」

なぜか街でふらふらしていたレイヴンを捕まえて両手の紙袋を持ってくれるというので遠慮なく手渡して感謝の礼を述べる。
レイヴンは私の一歩先を進んでこちらを振り向く。

「意外だったな、おっさんエルちゃんへこんでると思って励まそうとしてたのに」
「聞きたくないですが具体的にどんな方法で?」
「人肌で」
「結構です」

両手を広げてスタンバイするレイヴン。
私は立ち上がるとぴくりとも動くことなく笑って返す。

「その敬語やめない?」
「何でですか?」
「おっさんが泣きそうだから」

それも面白いだろうにと私は心の中でせせら笑った。

「ねぇ、エルちゃん」
「なに?」
「俺のこと怒ってない?」
「何で?」
「俺が全部ドンに話したのよ?

レイヴンはそんな些細なことを責められるのを気にしていたのだろうか。
たぶん、この間の私ならレイヴンにも苦言を漏らしただろうけど彼は正しい仕事をしたのだからそれを責めることなんて出来やしない。
隠しようもないし、仕事と私情をきちんと分別してるのは流石ドンの右腕と呼ばれる人物なのだろう。
最初に会ったときはただのちゃらんぽらんなおじさんと思ったのに。

「レイヴンがいわなくても私はきっとクビになっていたんだなーって思う。だって前々から五月蝿かったのよ。ギルド辞めろって」
「だろうね。そもそもドンはエルちゃんのこと心配だったんだと思うよ?」
「そう……かなぁ」
「俺もエルちゃんのこと心配なんだけどなー。そりゃもういろいろと。ハリーもエルちゃんいなくなってから癇癪起こして大変だしさ。それに青年とどんな関係?」
「青年ってユーリのこと?」

急に投げられた一言に私が首をかしげて返すと「他に誰がいるの」と詰め寄られる。

「急になに?」
「最初あったときからおかしいと思ってたんだよね。みょーに青年はエルちゃんと距離近いし」
「たぶん、気が合うんだと思うけど」
「気が合う?」
「なんて言ったらいいのかな……話しやすい?」
「じゃあおっさんとは」
「とても話しづらいかな。もう一言一言が面倒かも」
「ひどい!」

と泣いたふりで顔を隠すレイヴン。
私は心底子供っぽいその態度に呆れてため息をついた。

「で、レイヴン。本当の用事は?」
「え?」
「何かいいたいことがあってきたんでしょう?じゃなかったらあんなところふらふらしてるわけないしね」
「うーん。エルちゃんは鋭くてたまに付き合いにくいなーって思う」
「珍しく意見一致したね。じゃあお話する必要もないかな」
「なんか、おっさんにだけ冷たくない?」
「じゃあもう少しその胡散臭さどうにかならない?」

そう、私がレイヴンに本心を晒さないのは見た目から来る怪しさにある。
これで天を射る矢の幹部、私より信頼されていたって言うんだから世の中はよく分からない。

「エルちゃんはさ、これからどうするの?」
「何?それもドンに報告するの?」
「まぁ、一応はね」
「ダングレストを出る、以外は決まってないかな。明日エステルも帝都に帰ってリタも出発するって言うから私も明日出るつもり」
「ふーん」
「とりあえず、ラゴウを追うかな。帝都に更迭されると思うし。被害者だって適当にでっち上げれば話くらいはさせてもらえると思うし」
「それ、無理なんじゃないかな……」
「え?」

レイヴンが暗い空を見上げ、ふと思い出したように呟いた。
私が彼の顔を覗き込むと「だってね」と私は信じられない話を聞くことになる。




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