他人任せ


「エルちゃん?」
「よう。レイヴンさん、内緒の話は終わったのか」
「おや、みんなお揃いで。悪いけどエルちゃん知らない」
「そりゃこっちがききてぇな。あいつどうしたんだ?」

エルが走り去ってから数秒、今度は息を切らしたレイヴンがユニオン本部から走ってきた。
エルの様子はおかしかった、今にも泣きそうで、目を腫らしていた。

「うーん。とても言いにくいんだけどね」

と、頭をかきながらいうレイヴン。
その言い分をゆっくりと聞くことにした。



「はぁ!どういうことよ」
「つまり言葉の通り、エルちゃんは破ってはいけないルールを破った。だから天を射る矢から脱退処分を受けたってこと」
「はぁ?何よそれ!」
「そうですよ。エルは悪いことはしていないです!確かに様子は変でしたけどあれはエルの意思ではなかったと思います!」
「そうね、本人もあまり覚えてないっていうし」

おっさんに掴み掛かるリタと詰め寄るエステル。
おっさんは困ったように後ずさりする、二人の剣幕はとても怖かったのだろう。

「ちょっと、おっさんに言われても。最終的に決めたのはドンだし」
「じゃああのおじさんに文句言えばいいわけ?」
「だーかーらー。そういう問題じゃないんだって、ねぇ青年?」
「俺もその処分は不服だな」
「もー。少年は分かる、よね?」
「う、うん」

念を押されたからカロルはうなずいたわけじゃない。
ただそれを口にしていいのか困惑してるようだったので、俺が名前を呼んで後押しする。

「ギルドのルールっていうのは絶対なんだ。それは自分がたてる誓いであって。……それを破ったら」
「死の制裁が待ってる、ってね」

数段声を低くしていうレイヴン。
そうだ、ドンがギルドに見せるギルドへの覚悟。
例外は許されない、鉄の掟。

「ドンはエルちゃんのこと一番に思っているよ。もちろん天を射る矢のメンバーもね。だからこそ今回がこういう処置であの子を守ったんだ。……本人には受け入れがたいものだと思うけどね」
「そうだったんですか……」
「なんていうか、ギルドの人間って本当に面倒なのね。結局あの子のこと考えてないじゃない」
「そうですよね。大切にしていた魔導器まで奪われて見つからないらしですし」
「魔導器か……」
「ユーリ、どうしたんです?」
「ちょっと聞いてくれるか」

ドンに口止めされたわけじゃない、ただ今彼女が一番必要としているのは身近にいる理解者なのだろうって。
俺はみんなに彼女のいきさつをすべて説明した。
彼女の過去がないことも、帝都からここまで一緒だった理由も、そして彼女自身、自分がなぜあんなことになっているのか、魔導器なし魔術や治癒術を完璧にこなすのかも。

「そうだったんですか」
「知らなかった」
「あの話、本当だったんだ」
「リタ、知ってたんです?」
「いえ、カプワ・ノールでそんな話をしたけど。冗談半分でいってるものかと」

そりゃ、本人から「記憶喪失なんです」なんて吐かれても大概はふざけているとか考えるだろうに。それにあの時からおかしな行動を取りまくっていたわけだし。

「俺はドンからそんな感じの話をさっき聞いたから驚かないけど、辛いだろうね。仕方ない、おっさんが抱きしめて人肌でなぐさめて」
「レイヴン、ふざけていいときと悪いときがあるでしょ」
「カロル先生、もっと言ってやってくれ」
「ユーリ」
「ん?」
「エルも僕たちが作るギルドに誘ってみたらどうかな?」
「そりゃ名案だが本人がなんていうか、だな」
「おっさんはいい話だとおもうよ、普通他のギルドじゃしばらく貰い手もないだろうし」

それは、もっとも大きなギルドから首宣告を受けちゃダングレストにすら居にくいだろう。
俺としてはカロルの提案には賛成だった、しかし今の声を出すことも話すことも満足に出来なかったくらい傷ついた彼女にはそれはどうなのだろうか。

「まぁまぁ、じゃあおっさんはエルちゃんと」
「おーい。空気読めないおっさんがここにいるぞー」
「空気読めないって」
「あんたはとっとと自分の巣にでも帰ってなさい!」

と、リタはおっさんの背中から空中回し蹴り(というよりとび蹴り)をかましたとき、おっさんが小さなうめき声を上げて倒れた。
その前に懐から一枚のメモのようなものが落ちた。
リタに引きずられてユニオン本部へと連れて行かれるおっさん、俺がそのメモを拾うと裏には何か地図のようなものが記されていた。
ユニオン本部を中心とした地図で少し離れた一本道にハートマークで囲まれた場所があった。
それはおそらく予感だったがおっさんを見ると確かにこっちを見てウインクしていた。

「俺にいけってか」

それはきっとエルが向かった先かどこかだ。
はじめから俺に行かせるつもりじゃなかったらわざわざこんな風に記したりはしないだろう。
「食えないおっさん」そう、苦笑いでリタたちを見送ると俺はそのメモを懐にしまった。




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