堕ちて行く闇の中で


明かりはしだいに灯っていく。
目の前におきたことを理解するのにはずいぶん時間がかかった。
すわり心地のよくない椅子に座らされている、手足の拘束はないのに体の自由が利かない。
喉元と先ほど蹴られた腹がじんじんと痛んだ。

なんという失態だろう。
私が攫われて迷惑をかけているに違いない。
帰ったらドンになんと言い訳しようかな。
言い訳なんてきっと聞いてくれないのだろうな。

「っ……」

意識を失う前に聞こえたか細い声、それはしだいに大きくなっていって私の耳を支配する。
それは闇からの声のようでまるで冥府からの、悪魔からのような。
まるで私が書いているファンタジーの中の住人みたいだ。
その声は言う、「代われ」と。
言葉の意味を理解できずに私はそれを聞き入ることも出来ない。

耳をふさごうと無理やり手を当ててもそれは自分のうちから響いてきて。
そしてふと気づいた、私の耳にあるはずだった、
あったはずの魔導器が存在しない。

「あ……」

言葉にならなかった、ぐっと唇をかみ締める。
なんともいえない思いが中からこみ上げてきた。
怒りというには私は落ち着いていて、唯一の私のものを奪ったバルボスに対して、憎しみが沸いていたと思う。

心の中がまるで嵐のように、竜巻が渦巻いて、まるで悲しみを模したような涙の雨が降っていた。

そのとき、部屋の中に一筋の光が差し込んだ。
伸びた影が私の顔と重なる。

「おい、出て来い」

声が出ずに、ただうめき声が出た。
こつこつと足音を立てて近づいてくる。

「首領は丁重に扱えといったが」

頭に紅いバンダナをした男は動けない私の元に近づいてくる。
それをただ、冷淡に見ていた。

「カプワ・ノールでやられた仲間の仇でもあるんだ」

そういって、見下したように上から私を見た。
繭ひとつまともに動かない、私に業を煮やしたのだろう。

「なんとかいったらどうなんだ!」

そういって、拳を振り上げた瞬間私の中で何かの楔が外れた

「代われ!」
その声が実際のものとなって部屋に響いた時、私の意識が体から浮遊した。
体は勝手に動いて男の拳を受け止めた

「なっ」

男の力ぎりぎりと力を押すが、私の信じられない腕力はものともせずにそれ横にはじいた。

「んなっ……」

床に体が放り出された男はまるでおかしなものを見るような目でこちらを見上げていた。
私は男の腰から抜けた剣を左手に携えた。


そのとき、状況は目から耳から鼻から入ってきて全部理解できていたはず。
なのに、実行に移しているのは明らかに自分ではないのだ。

「う、うぁ。やめろ」

男の腹を蹴っているのも、私であって、私じゃない。
聞こえなくなった男の声が、そして私の左目を侵略する闇が。
それを冷静に見つめていた。
男の悲痛な訴えも、聞こえないふりをしていたに過ぎないのだから。

私は男が何も言わなくなったとき、しっかりと剣を握り締めて光の筋を辿っていった。
私の意識は、私の中の深淵に閉じ込められていた。



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