クリティア族の女性

要塞のどこかにある牢にぶち込まれた。
俺たちだけかと思えば数人、すでに捕らわれた人間がいる。
中には老人や、女性もいる。
どの人も衰弱しきった顔をしている。

あぁ、途中で殴られた左頬痛い。
中に突っ込まれてあたりを見渡しながら左頬をさすった。
エステルやエル#がいれば治癒術で一瞬にして治してくれるのだろう。
エルはどこに連れて行かれたのだろうか。
彼女の魔導器を目的としてさらい、ドンを揺さぶるためだとしたらすぐに殺されるなんて最悪な事態は逃れているだろう。

「なぁ、早く出してくれよ」

考えの中、捕らわれていた老人が見張りに縋るように袖をつかむ。
邪魔をするなといわんばかりに振りほどくと、腰に下げた件を引き抜く。
いくらなんでも丸腰の爺さん相手に大人げないじゃないか、俺たちが何かできるわけでもないのにな。

「丸腰の年寄り相手に刃物を抜くなよ」

年寄りをかばい、背中に隠すと、見張りをにらみつける。
自分でも端から見ればお人よしも厄介な性格だと思っていた。

男は忌々しそうに剣を振り上げ、俺はなんとか避けようとしたが、それより先に俺を突き飛ばした人物がいる。
あの鎧に身を包んだ、竜使いだ。
鎧にぶつかった金属音が響いた。
鎧には小さな皹が入っただけで、中は無傷なのだろう。

「お前……」

牢に入っても無関心を決め込んでまったく存在感もなかったが、砕けた顔部分のからは血のような印象的な瞳が、見張りを鋭く睨み付けた。
すっと立ち上がり、そのまま奥に向かっていく竜使いを忌々しそうににらんだ見張りだが「やめておけ」といった。外番の男に止められ舌打ちをしながら牢から出て、重い鍵をかけた。

奥に再び目をやると、鎧を脱ぐ竜使いの姿があった。
重い鎧から見えたのは透けるような白い肌、そして豊満の肉体だった。
まるで深海のように深い青い瞳を束ねている。
耳は尖っていて、この世界に少ない希少な種族であるクリティア族だ。
なんというか、すっげー美人。

「悪かったな」

と一応謝罪しておく。
俺が買った喧嘩なのに、自分で自分を守れないなんて。

「いえ……だってバウルを助けてくれたでしょ?」
「バウル?」

その妖艶な声から落とされた聞きなれない名前。

「えぇ、私の友達」

と、唇で弧を描き月のような微笑を浮かべた。
思い浮かべられたのはあの竜の姿だった。

「あの魔物か」
「えぇ」

それで納得してされたようで、そのまま、壁にもたれかかってわざと困ったように首をもたげた竜使い。

「なぁ」
「何?」
「あんたなんで魔導器壊して回ってるんだ?」
「聞いて感動できる美談ではないわよ」

ずっと思っていた疑問を投げかけるがその回答はとてもあっさりとしていたものだった。
「壊したいから壊してる」それだけ告げるとまた口を閉ざしあさっての方向を向く。

「確かに聞いて感動できる話じゃねぇな。それでバルボスの魔導器も壊したわけか」
「完全じゃなかったけど」

残念そうに繭をひそめた姿。
俺は右手にはめた武醒魔導器を竜使いのおねーさんに突きつけると。

「これはいいのか?」
「それは壊しても面白くないもの」
「ふぅん」

どうやら、魔導器全部壊して回っているわけじゃないらしい。
そんなことしていたらそれこそ大問題なのだが。
俺の魔導器には一切の興味も示さずじっと見張りが立つ、牢の唯一の出口を見つめる。

もう一度、確認するようにあたりを見渡す。

「エルはいねぇな」
「あの女の子?そうね。見てないわね」
「こうしちゃいられねぇな」
「大切な人なの?」

なぜかそういう話には興味があるみたいだ。
俺の顔を覗き込んで楽しそうにしているクリティア族のおねーさん。

「まぁ、そんなところだな」
「へー。あの子愛されてるのね」
「そんなんじゃねぇよ」

そう、少なくとも相手はそう思っていない。
その基本だけは忘れちゃいけない。

「な、ちょい協力しねぇか?」
「そうね、屋上の魔導器も壊しそこねたし。お姫様を救おうとする王子様も気になるしね」
「決まりだな」
「どうするの?」
「ま、手はないわけじゃないけど」

そう、二人ならやろうと思えばやれることはある。

「なら、その手を使えばいいんじゃないかしら?出来る人は手を抜いちゃいけないと思うの」
「それじゃ、協力してほしいんだけど」

とにっこりと笑みを浮かべたクリティア族のおねーさん。
こうやって話が通じるところを見る限り、俺たちは別の場面ではもっと気があったかも知れない。

エルが心配なのは仕方ない。
俺が原因で、バルボスに捕まって、そのまま連れ去られてしまった。
それにドンにもまかされてしまったし、ヘイオードからずっと考えていた。
彼女に落ちる闇から少しでも引き上げることが出来たら、自分の心が少し晴れる気がした。




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