そのときは、君が



「おかしいな」

ユーリの後を追って、地下の牢獄を向かう私に不審なことに気づいていた。
牢獄に人が収容されている場合必ず何人かは見張りがつく決まりになっているというのに今日に限って誰も配備されていない。
まずはこんなことは絶対にありえないというのに。
足音を立てないように暗闇に隠れてユーリの後に続くと自然とかび臭さに顔をしかめる。

ぼんやりとした明かりがともった、地下牢獄。
フレンは柵に背を向けて

「ユーリ、か」

とそうつぶやいた。
背中しか見えなくてユーリ表情は分からないけど、驚き笑ってると思う。

「おお、静かに入ってきたのに。もうバレたか」
「僕のこと笑いにきたんだろ」
「そうそう、どんな神妙の顔をして捕まってるか、見にな」

フレンが持ってきてしまった、一枚の書状。
それは戦争を誘発するものであって、ギルドを挑発するその内容によってフレンはこうして捕らわれ帝国とギルドは全面戦争が始まりそうな状態である。

「牢屋にぶち込まれる立場もたまには悪くないものだな」

と、本心ではふざけてないけど、フレンは自分の不幸を笑って見せたのだ。

「あんな物騒な手紙持って来ておいて何をのんきなことを」
「あれは赤眼どもの仕業だ」

言いかけたユーリをフレンがさえぎった。
フレンはただ冷静に、他人事のように今の状況を語っている。

「隊がこの街に到着する直前に襲撃された。撃退はしたが、その際どうやら書状をすり替えられたようだ」
「らしくねえミスしてんな。部下が原因か?」

そう、フレンには釘をさしていたし、彼がそんな重大なミスを犯すとは限らない。
彼の副官であるソディアも騎士団として長い経験をつんだわけでもないし、直球タイプだから、こういうやり取りは苦手なんだろう。

「それを含めて僕のミスだ」
「そうか」

部下を責めるわけでもなくそれを自分の事として考えられるフレンは隊長の鏡だろう。
ユーリも固いフレンの性格を誰よりも理解している、誰の責任だといってもフレンは自分自身が悪かったとしか言わないだろう。
すぐに話をすり替えるユーリ。

「けど、赤眼って事は裏にいんのはラゴウだな」
「ん?どうして、それを?」
「カプワ・ノールでな。ラゴウが赤眼どもに命令出すの見たんだよ」
「そんなことあったのか」

ラゴウが雇ったと考えるザギという男
確かに彼が赤眼の仲間だとしたら、ラゴウと赤眼の暗殺者はつながっていることになる。
先ほど襲われたばっかだし、おまけに狙いが魔導器でとラゴウにつながる点は探せばいくらでも出てくる。

「で、やつらの狙い、分かってんのか」

ユーリが声のトーンを下げて言うと、フレンは小さく肯定の意を表した。

「恐らく、ギルドと騎士団の武力行使を画策してるのだろう」
「だとすると、騎士団にも似たような書状がいってんじゃねぇか」
「十中八九」
「最終的な目的は?」
「騎士団の弱体化だろうな。ユニオンと正面からぶつかれば騎士団とはいえど、ただでは済まない。それに乗じて評議会派の権限拡大を狙う」
「なるほど、分かりやすいな」

そう、冷静になって状況に立ってみればなんとも荒い計画である。
すると、ユーリは鞘から剣を抜いた。
そしてフレン、では無く牢獄の錠に斬りつけたのだ。
いやな金属音が響いて思わず、顔が引きつる。
檻と閉ざしていた錠が地面に落ちた。

「ま、そこまで分かってるならさっさと本物の書状取り返してこいよ」

フレンは無言で立ち上がった。
帝国とギルドの全面抗争を止められる唯一の方法。
次期皇帝である、ヨーデル殿下の真意を綴った本来届くべきだった書状がドンの手に渡ることだ。
ユーリが剣を収めると

「その忌まわしい鍵をユーリが開けてくれるのを待ってたんだ」

ユーリはふっと笑った。
フレンの表情はいまだきつかったが、フレンは立ち上がると外に向かう。
後ろに続こうとするユーリに向かってフレンは言い放った。

「君はここにいてくれ」
「俺、身代わりかよ」

フレンは首を縦に振った。
ユーリはまた笑みをこぼすと、麻が引かれたベットの上に腰を下ろす。

「お前、俺を見捨てる気、満々だろ」
「そうだな、もし戻ってこなかったそのときは、僕の代わりに死んでくれ」
「あぁ」

笑った顔がすぐに豹変した。
私にはお互いのために命を捨てられるような二人の関係が半分しか理解できなかったけど、それは捨てるではなく、お互い預けあっているのかも知れない。
フレンがここに戻ってこないことは決してない。
ユーリもフレンも見捨てる気も見捨てられる気もないんだ。

フレンの足音がこちらに近づいてくる。
この牢獄から地下に続く階段は一方通行だ。
私は急いで階段を駆け上がった、すぐにフレンがこちらにあがってくるだろう。
私が地下と地上を分ける重い扉を開けたときだった。

「エル?お前何やってるんだ?」
「は、ハリー?」

なんともタイミングが悪いのだろう。
こちらに手を振って歩いてくるハリー。
ぴたりと階段を上る足音も止まった。

「ハリーこそ。ちゃんと準備しなくていいの?」
「それを言うならお前もだろ。こんなところで何油売ってるんだよ」
「えーっと……」

なんて返そうか困って視線を踊らしていると、階段からじっとこちらの様子を伺っているフレンと目があった。じっとこちらを見上げるフレンは場合によっては私たちすら打ち倒していきそうな勢いだった。

「私ここの見張りを任されてるの。でも異常もないようだったからご飯食べない?」
「あいつは」
「寝てたよ」
「悠長なことだな」
「まぁまぁ」

私はハリーの背中を押すと、ここから離れる。
フレンは小さな足音を立ててすばやくこの場から去っていくのを隅で捕らえていた。
目が合うと「すまない」と声を掛けているようだった。
私はフレンが行ったのを背中で見送ると今更ながら

「あーあ。やっちゃたな」

と後悔の言葉を口にしてしまった。
ハリーが「何のことだ」と聞いてくるけど適当に答えは返しておく。




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