不満

「どういうこと?」

私が彼の部屋を訪ねてまず出てきた言葉がこれだった。
私の考えだと、フレンが持ってきた書状とヨーデルの意向は間違いなくギルドと手を組み、バルボスとラゴウの失脚を狙うはずだった。
フレンにはあれだけ言ったけど、もしかしたら例の赤眼の集団に書状をすりかえられたとしてもドンはそれを分かっていながらギルドの人間を焚きつける真似をするだろうか、実際したけど。
それに、ドンがヨーデル個人に渡した密書はこんな戦争をこじつけるものだったのだろうか。
確かに手渡ししたのは私だけども内容は知らない、知る必要はないだろうと思っていたから。

「なんだ?不満か?」

この部屋の他人より大きめに作られた机に足を乗せ、大きな椅子に図体をのせたドンは笑ってそう聞き返してきた。
不満じゃないわけがない、このままだと帝国とギルドの前面戦争、かつてない大規模な戦争になる。
それに私が勝手にだけど、ユーリの親友であり私に進んで協力してくれたフレンを縛り首に上げるというのだから。

「ドン、私が持っていたものは戦争の火種になる内容じゃなかったよね?」
「そうだな、そうだったらお前、ここにいねぇぞ」

そう、私が持っていた内容が「ドン・ホワイトホースの首をよこせ」だなんて内容だったら今のフレンのようにつかまって拷問でもあっていただろうに。

「それなら、何で戦争なんて」
「おめぇ、頭いい癖に盲目だな」
「え?」
「ちょっとは落ち着け。お前こそ、仕事はちゃんとこなしてきたんだろうな」
「主要な人間以外にはギルドの使者としてばれずにあの密書を次期皇帝に渡すこと。は、やったと思う」
「あの、長い髪の男には?」
「ユーリのことは……予想外の事があったのよ」

心の中で舌打ちをした、やはりユーリが私のことを勘付いていたと知っていたか。
そう、予想外のこと

「帝都にいるはずだったヨーデル殿下がラゴウによって誘拐されたって話をザーフィアスに店を出してる幸福の市場の人間に聞いたの。それを調べるために無理やり城に潜入したときにユーリと一緒に城を抜け出してきたの。それでハルルまでの道中でヨーデルと紅の絆傭兵団の動きを知ってフレンに協力してもらって、きちんとヨーデルを誘拐したのはバルボスとラゴウであると知ったわ」
「ほう」
「でも、それだけじゃなかった。ユーリはバルボスが帝都から魔核を盗み出してるといっていた。バルボスにはヨーデル誘拐以外に何か目的があった。だからユーリたちと一緒に足取りを追ったのよ。それに、バルボスは私の……」
「あ?」
「私の魔導器のこと知ってたの。分かる?私の手がかりを持っていたのよ」

私だって知りえないことを知っていたのだから。
それを聞いたドンは肺活量を疑うくらい長いため息をついた。

「お前、その癖どうにかならねぇのか。仕事も満足にできねぇといい加減追い出すぞ」
「自分のことは自分でやれってドンがいつも言ってるじゃない」
「自分のことも満足にけりつけられねぇ癖に何言ってやがる」
「うー……」

小さくうねる私を無視して、ドンは机を叩く。
ドンは私の落ち度を怒っているというより、叱っている。

「とにかくだ、今回のことは自分でけりをつけろ、いいな」
「それって、バルボスと直接関われって事?」
「さぁな。あとはてめぇで考えろ」

きょとんとしてしまった私を尻目にドンは珍しく机の上のペンを走らせる。
ドンが言った、ケリとは今回のギルドと帝国の中に入って解決に導けというのと、バルボスから魔導器のことをとっとと聞き出して、バルボスのことは決着をつけてしまえという。

「分かった」

内心、ドンには感謝しても足らないくらいだ、でもドンが直球で言わない限り、私も素直には答えないと決めている、
私たちは曲がり物同士なのだ。

私は杖をついて、腰を上げる。
椅子に足が引っかかってがたっとなったとき、「そういえば」とドンは再度、こちらを向いた。

「あのユーリってやつ、どんなやつだ?」
「気になるの?」
「度胸も申し分ねぇし。お前に器量もあるんだろ」
「元騎士だったって言ってたね。それに剣の腕もたぶん、このギルドでは勝てる人はいないかな」

もちろん、ここにいるドンを除いてだけど。
ドンの剣の技術は人間技じゃない、そうバケモノだから(本人に言ったら怒られるけど)
それと人間であるユーリを比べるなんて失礼な話だし。

「ほう。おもしれぇじゃねぇか」
「下町にいたそうなんだけど。そうだ、ザーフィアスの水道魔導器の魔核が盗まれたらしくてここまで来たらしいよ」
「魔核ねぇ」
「デデッキって知ってる?」
「しらねぇな」
「ちょっと手癖が悪いって有名なんだけどなぁ」
「なるほど。それでバルボスのこと言ってたのか」
「あ、あと。カロルと一緒にギルド作るらしいよ」
「ほー。そいつは面白い話だな」

と、にやりと笑ったドン。
本当にこの人は好きものだなと思う。

「また悪巧みでもしてるの?」
「それで、おめぇはいつまでギルドにいるんだ?」
「んー。いれるときまで」
「さっさと出て行きゃいいのに」

そんな風に言わなくて良いのに。
私はため息をつくと「さっさと出ていけ」といわれてしぶしぶと部屋を出た。
さて、これからどうしようか、閉めた扉に背中を預けて頭をぐるぐると働かせた。


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