ギルドユニオンの騒乱

今更驚くことでもなかった。
ドンの人柄はそれなりにカロル大先生か聞いていたし、レイヴンの正体も。
そしてエルがギルドの人間として周りを利用していたことも。
あいつが何かを仕組んだわけでもないし、誰かをだましたわけでもない。
ただ、言うとおりになったというだけだ。
しかし、あいつが今まで隠してきた過去と、ギルドのそれとはまったく違うものに感じるのは俺の勘だけだろうか。

ケーブ・モック大森林からダングレストに帰還して一晩空けた。
すぐに向かいたかったが、エステルとカロルの疲労がピークに達していたのだろう。
それから有無を言わさず、宿屋で一泊取った。
それから珍しくエステルが寝坊をして、出発とギルドユニオンの到着は昼過ぎになってからだった。
今度もあの門番だったが、話は通っているようで、何も言われることなくギルドユニオン本部の門を叩くことができた。
中には炎の巨大なモニュメント、先に続く回廊。
どちらも力を象徴するようなものであって、それ以外の美術品などは一切なかった。
こちらの方がシンプルで俺好みだが。
さて、ドンの私室に行ってくれといわれたが、どこから向かったら良いものかとカロル先生と話をしていたとき、まさかの人間を思いもよらない形で発見することになる。

「おはよ……」
「もう昼過ぎだぞ」
「時間わかんない」

こいつの前では驚かないと決めてはいたのに。
モミュメントに寄りかかり、よだれでも垂らしてるんじゃないかと疑うくらい気持ちよさそうに寝ていたエル。
昨日、あのドンに連れ去られた(強制送還)を食らってからの再会になる。
俺としては望む形だった。
まだ聞きたいとこもあったし。
気になることもあった。

「エル、こんな場所で寝てたら風邪を引きます」
「そっちの方がいいかも」
「今まで何してたのよ」
「人命救助?」

まだ寝ぼけているのだろう、いつもよりもおっとりとした口調でまぶたをこするエル。
こんな時だけ、とてもエステルとは同年代に見えない幼さが見え隠れする。
エルの目はとても厳しいものに変わって、周りの同じギルドの人間をにらみつける。

「そこでぴんぴんしてる人見ると、なんか人生を考えなおしたくなる」
「要するに徹夜で治癒コースか。ご苦労さん」
「え?そうだったんです?呼んでくれれば手伝ったのに」
「まぁ、そうしたかったけど。ほぼ軟禁されて。でももう怪我人は半数もいないだろうし。大丈夫だよ」

半分って、アレだけの騒ぎだったんだ。
何百人といたっておかしくない。
それなのに、その人数を一人で捌ききったこいつに敬意を払いたいくらいだ。
治癒術はフレンや知り合いの話ではとてつもない集中力と技量を必要とするとか。
だから長時間の使用は体に負担をかけるし、無理だと言っていた。
エルは瞼をこすり、体を伸ばすと

「で、どうしたの?」
「あぁ、ドンに会いに来たんだ」
「あー。そういえばなんか来客がいるとか言ってたかな……ユーリたちのではないかな。私も呼ばれたし。まぁ、いいか。ちょっとついて来て」
「おぉ」

荷物を取り、服の乱れを直すと立ち上がり、先の扉を進む。
先が見える廊下を進みながら、俺はおもわず言葉を漏らす。

「それにしてもお前が天を射る矢のメンバーだったとはな」
「意外でもなかったくせに」
「僕はびっくりしたよ。ねぇ何で黙ってたの?」
「んー。ちょっとドンに口止めされててね」
「何それ?」

リタが気に入らないといわんばかりに言葉を吐く。

「まぁ、良いほうに向いてくれるといいけど」
「え?」
「いえ、こっちの話。それよりもいい?」

廊下の先にあった扉。
おそらくそれがドンの私室へと続いているのだろう。
俺がうなずくとそれでいいと俺は首を縦に振った。

「よぉ、てめぇら。帰ったか」

こちらを見てうれしくないが不適に笑ったドン。
ドンの私室というが執務室は思っていやよりも多い。
ドンの隣にはギルドの幹部であるおっさんがいて、そしてギルドの本部だというのに、招かれざる敵というものだろう。
騎士団の面々、そこにいる知った顔。

「……ユーリ」
「なんだ、てめぇら。知り合いか」

何の因果かは知らないがそこにいた、幼馴染の騎士であるフレン。

「はい、古い友人で。ドンもユーリと面識があったんですね」

俺とフレンを見比べたドン。

「魔物の襲撃騒ぎの一件でな。で?用件はなんだ?」
「いや……」

言いかけたとき、フレンがこちらをじっと見た。
フレンも何かしら話を切り出そうとしていたが、水臭いが俺にも言いにくいことなのだろ。
俺が先に用件を済まそうと口を挟んだ。

「俺らは紅の絆傭兵団のバルボスってやつの話を聞きに来たんだよ。魔核泥棒の一件、どうやら裏にいるやつはやつみたいなんでな」
「……なるほどやはりそっちもバルボス絡みか」
「って事はお前も?」

頷いたフレン。
それを予想していたかのようにエルの相槌を打っている。
それは筋書きを俺たちが読んでいるようだった。
フレンは改めて、背筋を伸ばしてドンの目をしっかりと見据え言った。

「ユニオンと紅の絆傭兵団の盟約の破棄をお願いしに参りました」

おそらくフレンはあのヨーデルの遣いでここに来たのだろう。
魔物の襲撃とはたまたま重なって。

「バルボス以下、このギルドは各地で魔導器を悪用し、社会を混乱させています。ご助力いただけるなら、共に紅い絆傭兵団の打倒を果たしたいと思っております」
「……なるほど、バルボスか。確かに最近のやつの行動は少しばかり目に余るな。ギルドとしてけじめはつけにゃならねぇ」

各地でアレだけ問題行動を起こしているのに少しだけといってのけるこのじいさんはどれだけ懐の広い人間なんだよ。

「あなたの抑止力のおかげで昨今、帝国とギルドの武力抗争は収まっています。ですがバルボスを野放しにすれば両者の関係に亀裂が生じるかもしれません」
「そいつは面白くねぇな」
「バルボスは今、止めるべきです」

そうきっぱりと言い切ったフレン、ドンは相変わらずの笑みでフレンを見た。

「だが、その前に確認したいことがある」

片手でにじり出たフレンを制するドン。

「協力ってからには、俺らと帝国の立場は対等だよな」
「はい」
「ふん、そういうことなら、帝国との共同戦線も悪いもんじゃねぇ」
「では」
「あぁ、ここで手を結んだ方が得策のようだ」
「ありがとうございます」

快諾された、といっていいのか。
フレンは懐から手紙を取り出した。
それは糊付けされた手紙だった。

「こちらにヨーデル殿下より書状を預かってまいりました」
「ほぉ、次期皇帝の密書か?」

片目を細め、それを受け取った。
にしてもフレンが手を回すのは早い、のかヨーデルが早いのか。
それとも何かしら下準備があったのか。

「ちょっと待って」

その手紙が差し出されたときに今まで黙っていたエルが口を開いた。
しかしその言葉は小さくて消えてしまう。
手紙を受け取り中身に目を通したドンはピクリと眉を動かした。

「呼んで聞かせてやれ」

そう隣にいたレイヴンに手紙を押し付けた。
レイヴンもそれに目を通したとき、顔をしかめた。

「ドン・ホワイトホースの首を差し出せば、バルボスの件に関し、ユニオンの責任は不問とす」
「なっ」
「あー」

言葉を失ったフレン。
こいつなんつうものを持ってきたのだろう。
ドンが大きな声で笑い飛ばし、フレンに向かってその書状を改め、怪文書投げ捨てた。
それを拾ったフレンは体を震わせていた。

「なんだ、これは」
「っ……」

エルが隣でそれを覗き込んでいるが、その口を引きつらせている。
相当ひどい内容だったのだろう。
間を空けることなくひとつしかない出入り口から入ってきたのは武装した天を射る矢の面々。

「どうやら、騎士殿と殿下のお考えは天と地ほど違うようだな」
「これは何かの間違いです!ヨーデル殿下がこのようなこと」

しかし、ドンもこの場の天を射る矢の人間も誰もフレンの話なんて聞いちゃいない。
フレンを羽交い絞めにした部下に向かって宣言する

「帝国と全面戦争だ!ユニオン総力を挙げて帝都に攻め上る!客人は見せしめにやつらの前で八つ裂きだ!二度となめた口を利かせるな!」


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