迷子と落し物

「で、何遊んでたんだ」
「私は遊んでなんてなかった」

うん、なかった。
パティと野営をしていざ出発となったは良いけど、空から現れた魔物に急に攫われた。
そのまま抵抗することなくむしろ楽しんで魔物と空中散歩をしていたパティは悪びれることなく私に言った。
「楽しかった」と

「こんなところにアイフリードの宝があるわけないだろ」
「それは私も十分言い聞かせた」
「とりあえず、うちはお宝探しを続行することにするのじゃ」
「パティ」

昨日の夜あれだけ言い聞かせたのにまったく聞いてなかったなんていわせない。

「一緒に森を出ようって」
「でも、エル姐はユーリと行きたかったりするんじゃないかのー」
「いやー。それは」

むしろ今の状況だと逆だったりするかもしれない。

「一人でうろうろしていたらさっきみたいにまた魔物に襲われて大変なことに……」

身を案じるエステルが言うが逆にむっパティはほほを膨らませる。

「あれは襲われていたのではないのじゃ。戯れていたのじゃ」
「……」
「たぶん、魔物の方はそう思っていなかったと思うけどな」

魔物は本気でパティをさらっていくつもりだったし私ももちろん遊びで追いかけていたわけじゃない。

「!」
「パティ!後ろ!」

私とカロルの声は同時にひびいた。
彼女の背後に忍び寄る、カマキリが変異した魔物。
しかし、パティは余裕の笑みを浮かべて、腰からすばやく大型の銃を取り出して、引き金を引いた。
銃声が数回、森の中に響いて鳥の飛び去る音と一緒に響いた。
パティが放った弾は確かに魔物の急所を打ち抜いていた。
そして、余裕の笑みで銃を回し腰のホルダーに戻す。
簡単のように思えて銃の扱いは大人でさえ難しい。
それを軽々とこなしてしまったパティは実力としては普通の傭兵ギルドの人間よりはずっと上なのだろう。
だったら、あれ。
私があんなに必死になることもなかったんじゃないかな。

「へぇ、一人でも大丈夫ってことか」
「一緒に行くかの」
「せっかくだけど、お宝探しはまたの機会にしておくわ」
「それは残念至極なのじゃ。エル姐。一宿一飯の恩は絶対忘れないのじゃ。サラバなのじゃ!」
「あ。ちょっと!」

私が止めようと手を差し伸べるがそれは空振りに終わる。
振り向くことなく去っていってしまったパティの事は心配で仕方ないが、しつこく追い回すのもなんか痒い。

「行っちゃった」
「本当に大丈夫なんでしょうか」
「本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫なんでしょ」
「保護者も見送ったことだしな」
「それ、私のこと?」
「ほかに誰がいるんだよ。おねえさん」
「……」

ユーリの言葉になんかもやもやするものを持ちながら、私は再会してしまった仲間たちの中の異物に始めて突っ込む。

「で、こっちはこっちで……どうしてレイヴンがいるの?」
「お?再会を喜び合う熱い抱擁がまだだったね」
「……」
「無反応?おっさんさみしいな」
「昨日から走り回ってばっかで疲れてるの」
「お前、何で急にいなくなったんだよ」
「あの赤眼がこっちに逃げてくるのを見て追いかけてたの」
「あの状況で普通、深追いするか?」
「一人でも捕まえられたら上出来だったんだけどね」

ずいぶんとうまく撒かれてしまったものだ。

「まぁ、俺は悪いとはおもわねぇが」
「女の子がこんなところまで、おっさん、エルちゃんの将来が心配」
「で、この人は?」
「あぁ、なんか落ちてた」
「ユーリ。落し物はすぐに騎士団か街の自警団に届けなきゃだめだって習わなかった?」
「お前も、迷子は親の元に返すのが一般常識ってやつじゃねぇの?」」
「なんか、俺。酷い言われ様じゃない?」

実際、私もユーリもわざと言ってるのだから、それは当たり前。

「ま、森林浴をしにきたらしいぜ」
「森林浴ねえ……」
「まぁ、背後で魔導士さまが目を光らせてるからな。平気だろ」

確かに、リタが鋭い目つきでレイヴンをにらみつけている。
その視線を気にしながらこちらに割ってくるレイヴン。

「まぁ、まぁ。早く用事を済ませちゃいましょーよ」
「用事ってエアルクレーネの調査だっけ?」
「あぁ、一緒にいくだろ。お前も」
「まぁ、気にならないって事はないけど」

納得はしていないけど、とりあえず頷いた。
そりゃ、ここ最近のエアルの活発化と魔導器が破壊される事件。
どちらも結びつきそうでなかなか結びつかないものがこの調査で少し分かるかも知れないし。
ダングレストではほかの理由で別れたけど、

「あぁ、それと伝言だ」
「何?」
「ギルドユニオンの人間がお前に『ドンが顔を見せるように』って言ってたぞ」
「一緒にいくよ」

ユーリのつぶやくように言ったのに対して私の声量は大きかったと思う。
やはりダングレストでちらりと目があったけど、私の存在に気づいていたか。
今ここで道草を食っていたと知られればそれこそ後の祭りだ。






「何これ……」

それから歩くこと数時間。
ケープ・モック大森林の奥地に向かう私たち。
私たちを急に襲ったのは魔物でもなんでもない、私は疲労しか感じないがそれとはまったく違うもの。
ユーリたちは肩を上げ下げして息を繰り返す、それはエアルが濃くなっていくのを意味していた。
ケープ・モック大森林の終点、そこにはこの森の主(というのはおかしいかもしれないけど)と言わんばかりの巨大な樹がこちらを見下ろしていた。
しかし、その幹でまるで蛍のような結晶が大量に渦巻いていた。

「またエアルが暴走しているわ。木も魔物も絶対、エアルのせいだ」

酸素を深く補充しながらリタは調査の準備を始めようと必死になっている。
しかし、辺りの草むらから集まってくる魔物。
それに手を止めて、手短に魔物を切りすてるとまた新たな魔物が集まってきてそれは無意味に変わる。
ユーリたちはエアル酔いで意識も朦朧としている。
まともに戦えるのは私だけ、しかしこの数じゃ

「あぁ、ここ死んじまうのか。さよなら世界中の俺のファン」
「世界一の軽薄男、ここに眠るって墓に彫ってやるからな」
「その役、立候補するわ」
「そんなこと言わずに一緒に生き残ろうとかいえないの?」
「じゃあ、ちょっとおとなしくしていて?」

何とか口の開く、私たち三人。
この二人はもう戦えないだろう、もう言葉を発するのだけで精一杯だ。
唯一、動く私でも群れとなった魔物を一人で裁くのは無理だろう。
それにこちらには動けないカロルやエステルを庇いながらという弱点があるのだから。

「どけ」
「あなたは……」

私たちの前に一人の青年が降り立った。
その着地は静かに、そして森には静寂が落ちた。
私のすぐ横に降り立った青年は長い銀色の髪が私の顔にかかった。
そして、血色の瞳が私の瞳を鋭く捉えた。
途端、空気が変わった。
切り裂くような軽い空気の音が響いた。
黒い、まるで祭儀用の剣だった。
その銀の青年は黒の剣を振り上げると衝撃破のようなものを生み出した。
それは信じられない光景、その剣から生み出された衝撃破が大樹のとり憑いていたエアルを霧散させた。
そう、実体のないはずのエアルを斬ったことになる。
それはエアルだけでなく、魔物の郡も巻き込んだすさまじい風ですべてなぎ倒した。

「デューク……」

その青年の名だろうか、レイヴンが呼んだ名は確かに男の名前だった。

「お前は、やはり」
「私?」

長身の男は剣をしまうと私を見下ろし、核心に迫った顔で言った。
そのとき、思い出した。
この青年とはハルルで一度会っている。
その時は言葉を交わしてなんかいないけど、それは確かに前いいっていた「お前は、まさか」と。
あの時、まさかこの人は私のことが分かるのかと聞きたかったのに。
今回も、そう言おうと思ったのに

「その剣は何!!見せて!?今何をしたの?エアルを斬るっていうか、ううん!そんなこと無理だけど」

今にでも、銀の青年。
デュークに今にでも掴みかかって剣を取り上げそうなリタ。
しかし、それを軽々しく交わすと、いたって冷淡に

「知ってどうする?」

とデュークはリタを退けた。
しかし、ただじゃ退かないのがリタ。

「そりゃ、もちろん。いや、それがあれば魔導器の暴走を止められると思って……前にも魔導器の暴走を見たの。エアルが暴れてどうすることもできなくて」
「それは歪み、当然の現象だ」
「ひずみ?」

アレはどう見ても異常だった。
それを当然といいのけてしまい、なおかつエアルの暴走を止めてしまうこの男は何者かを先に聞くべきだろう。

「世界に点在するエアルの源泉、それがエアルクレーネ」
「エアルの源泉?」
「あんた、いったい何者だ。散歩ってこともないよな」
「……」

その問いには答える気はないらしい。
恐ろしく静かに話していたが、すぐに口を閉じる。

「私のこと、分かるの?」

それは自分にしては意外というか消極的に聞いたと思う。

「お前は、エアルから生み出されるものを別のものに還元している」
「は?」

エアルを別の物質として生み出してるというのか。
それは今の私にはあまりにも意味深で、意味不明な言葉だった。
首をかしげて聞き返そうとしてもデュークは背中を見せ歩き出す。
これ以上、私たちと干渉する気はないのだろう。
今まで私がやってきたのだからそれは理解している。

「ま、おかげで助かったけど。ありがとうな」
「あの、ありがとう」
「不用意に近づかないことだな」

そう、静かで抑揚のない声で言ったデュークは少し日の落ちて薄暗くなった森の中へ消えていった。

「別のものに……」

自分がイレギュラーな人間だとは分かっていた。
エアルに酔わないし、収めた知識が薄くても治癒術や魔術を使っていたのだから。
これ以上考えるのは疲れる。
大樹を見上げるとやっと深呼吸をしたといわんばかりにその葉を広げて輝かしていた。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -