ケーブ・モック大森林

相変わらずなやつと思っていた。
俺たちが結界魔導器の修理をして、やっと辺りに気を配れた時にエルの姿がいないのが目に映った。
いくら探してもいないし、ダングレストが彼女の故郷らしいので自身の家にでも帰ったか。
しかし旅先でもエルの名前は有名らしく、旅先でも何度も声をかけられることだってあった。
きっと近い将来ひょっこり出てくるかもしれない。

俺たちは事態が収集したのを見計らってギルドユニオンの本部にドンを尋ねて来たらドンはあのまま魔物の群れを追ってしまったらしい。
門番の言うにはいつ帰ってくるか分からないと、それだけだった。
そして何を思いついたか、エルの事をたずねればこの門番とは知り合いらしく逆に「顔を見せるように言っておいてくれ」と言付けを頼まされてしまった。

そして俺たちは先にリタとエステルの用事であるケーブ・モック森林を片付けることに決めた。
そこで、だ。

「青年?どうしたの?おっさんに惚れた?そんなに見つめちゃって」
「おっさん、熱でもあるんじゃねぇの?」
「え?大丈夫なんです?」
「おー。お嬢ちゃんだけだよ。心配してくれるの」
「ほら。エステル行くわよ」
「でも風邪なら」
「その辺の雑草でも煎じて飲んでればいいじゃない」

と、リタの一言に「冷たい」だの「泣いちゃう」だの言いながらおっさんことレイヴンはため息をついた。
そう、このおっさん。
ケーブ・モック大森林の入り口でいかにも俺たちを待ち伏せしてついてきている。
カプワ・トリムで聖核とかわけの分からないものを探しているとか言っていたが、今回もこの件だろうか。
それでもノール港では不本意だが一回利用をされている、この間のカルボクラムのことだって結局ガセだったのだから。

ケーブ・モック大森林はアレクセイの言っていたとおり、植物や昆虫がエアルに触れたせいかおかしな進化を遂げ、魔物と化している。
カロルは虫に怯えて立てないし、おっさんはおっさんで後ろで最小限、弓で敵を撃ちぬくか魔術で敵を切り裂くか。
エステルも毒の治療でいっぱいいっぱいだ。
おっさんの働きと、相棒のラピードの働きを比較するまでもないだろうか。

「にしても本当に薄気味悪いところだね」
「あれ?少年知らないの?ここでは遭難者が絶えないらしいよ」
「うん、それで?」
「それでね。出るらしいのよ。ここに女の子のアレが」
「え?」
「ば、馬鹿なこと言い出さないでよ!」

急に始まった怪談話。
よくもまぁ、こんなときに緊張感のない話ができたものだ。

「ギルドの連中から聞いた話なんだけど。ずっと前にここに調査に来たときね。誰もいないはずの暗い森の中から女の子の声が聞こえるんだって」
「ちょっと!レイヴンやめてよ」
「待って!待って!って。それはどこまで逃げても声は近づいてきてやがては。すぐ後ろで聞こえて。そいつは」
「うわぁぁぁあ」
「ちょっと!がきんちょ!急に大きな声を出さないでよ!びっくりしたじゃない!」
「だって、だって」

がくかぐと足を震わせて涙目でこちらを見る。
こうなると、後が大変なのに、本当に厄介なおっさん。

「どうしたー。カロル先生。まさかおっさんの作り話で腰が抜けちまったか」
「作り話ってひどいなぁ」
「ち、ちがう」
「カロル、どうしたんです?」
「聞こえたんだ。『待って!』って!!!!」
「は?」

なんだそれはと言い返そうとしたときに風が吹く音と混ざって確かに人の声がする。
場の空気が一気に氷ついた気がする。

「ちょっと、これまじ?」
「ラピード。様子を見てきてくれないか?」
「わん!」

走り出す、ラピード。
さすがは俺の相棒、頼もしい。
と関心していたが、ラピードが走り出してから俺たちは数分、無言のまま過ごした。

「ねぇ、ラピードは」
「しかたねぇ。様子を見に行くか」
「えぇ!やだよぉ」
「ユーリ。私行きます!」
「おー。カロル先生はここでお留守番、か」
「わかったよう。行けばいいんでしょ……」






「だから!パティ!ちょっと待って!降りてきてってば!」
「あはははは!面白いのじゃ!」
「面白くない!」
「わふ!!わん!!」
「あー……」

これはどうしたものか。
樹海の開いたところで見た光景は消えた筈のエルが空を飛ぶ昆虫の魔物を見上げてその後を必死に追っている。
まるで鬼ごっこのようだった。

「あー!!エル!何してるの!」
「え?っとぁ」

急に立ち止まると、足元にいたラピードをクッションにしてその場に倒れこむエル。こいつ、ダングレストで別れたと思ったら、ケーブ・モックに先回りしていたのか。

「いったぁ……ってちょうどよかった!じゃなくて……」

と、足元にちらばったチャクラムを拾い上げるエル。

「そんな熱心に魔物狙ってどうしたんだ」
「あ、あれ!」

指差すのは魔物、確かに何か黒い塊のようなものを持っているような気もする。

「うちをどこに連れて行ってくれるのかのー」
「ぱ、パティ!?」

カロルが立ち上がり、少女の名前を呼んだ。
魔物に連れ去られてる……戯れて遊んでいるようにも見えるのはパティだった。

「レイトラスト!」

なぜ、エルとパティが一緒にいるかは知らないが、カロルや俺の武器じゃ魔物に追いつかない。
長距離を得意とするエルのチャクラムでさえ、敵に翻弄される始末。
きっとパティにあたらないように細心の注意を払ってるためだろうが。

「何?おなじみさん?」
「レイヴン?」

チャクラムをはずし、不機嫌になった顔でレイヴンをにらみつけるエル。
そんな冷たい視線を気にもせず、

「あー。ほいほい。俺様にお任せよっと」

レイヴンは一瞬だけ魔物に狙いを定めると弓で魔物の中心を貫いた。
仲間に勝手に加わる際に見せた、特技とやらを十分に発揮して。
崩れ落ちる魔物、そして俺は体が勝手にその落ちてくるパティを受け止めた。
前も思ったとおり、見た目より重い。

「ナイスキャッチなのじゃ」

イラついたわけでもないが、両手を手放すと、パティはそのまま地面に落ちた。


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