共感できるもの



「……っ」

私、らしくもない。

赤眼の4人はどうやら傷は負っているらしく、走るスピードがそこらの一般人とは変わらないが、それでも私は普段の書庫篭りが祟ってか、千鳥足になっても必死に足を動かしている感じ。
一時間もすると、体力が尽きてきて相手の影しか見えなくなったが、それでも方角を頼りに進んできた。
あそこであきらめていればよかったものの、今日は何熱くなっているかは分からないが、そのまま突き進んでしまった結果。

「どこ、ここ?」

壮大な迷子になってしまったらしい。
辺りは森林のようなので、ダングレストから近いとも思うが、植物が異常なのだ。
木の高さを競い合えるほど大きくなった、雑草。
花を見るのに、まさか見あげる事になろうとは。
ケープ・モック大森林の方角に向かったことまでしかは分からないけど、ここは内部だろうか。
ヘイオードでアレクセイが植物や魔物が異常な成長をしているとは言っていたけど、まさか、ここまでとは。

「あー、しまった」

鞄に手をつっこんでいくら方位磁石を探るが、見当たらない。
そういえばカルボクラムでカロルが地図を描くと言っていた際に貸してそのままにしてしまったことを今更ながら思い出した。

「まいったなぁ……」

相手も見失ってしまったし、ここが仮にケープ・モック大森林だとしたら、中は準備もなしに乗り込めば抜け出すことは困難な樹海。
人が出入りしてできた一本道はあるそうだけど、ここは外れらしい。

本末転倒とはまさにこのことだろう。
深く、とにかく深くため息をついた時だった。

「きゅぁぁぁ」
「魔物?!」

振り向けば人の形ほどした植物がこちらへ接近していた。
根は力強く地面を踏みしめ、体の頂点にある魔物の花の蕾は今にでも爆発しそうに膨れ上がっていた。
耳が痛くなるような鳴き声を上げ、体を揺らし、こちらに近づいてくる。

「これはちょっと……」

今まで見てきた中で一番グロテスクかも知れない。
おそらく、これは普通の植物だったに違いないが、エアルの活性化でこんな姿になってしまったのではないだろうか。
この地域でエアルが濃いと公表されたばかりだし。
生憎、私はリタのような火の魔術は使えない。

「冥府の宴、闇の明瞭!ダークフォース!」

私が詠唱を終えると、私の影が形を変えて収束し、槍の形へと変わった。
そのまま相手の体を貫いた。
頭が重いせいか、バランスを崩してその場に倒れる魔物。

しばらく様子を伺ってもぴくりとも動かない。
呆気なさ過ぎて、私は腰を下ろして杖でちょんちょんとつつく。

「こんなものかな……!?」
「きゅああぁぁ!」

すると、頭部だけがびくびくと反応を見せて、ぶんぶんと頭部を揺らす。
断末魔の抵抗に私が恐怖で腰が抜けかけていた。
その気持ち悪い光景に目を奪われていると蕾から何か大きなものが吐き出された。
何か、よくないものかと思いその先と杖で突っつく。
紺色の革のような素材、そして、金色の人毛。

「まさか」

その服すそらしきものを引っ張るとやはりそれは人間らしい。
まさか誕生したとう事でもなさそうだし。
それに長い金髪をお下げにして、紺色の革の素材のワンピース。

「パティ?」
「うー……」

体中に植物の消化液だろうか、いやな汁で濡れた少女を引っ張り上げると、彼女は小さく呻いて力が抜けたように動かなくなる。
それにしてもカプワ・ノールで別れた筈なのに。
確かに無茶はするなって言って聞くような子じゃないと思っていたけど

「ちょっと、パティ?大丈夫?」
「……た、のじゃ」
「え?何?」

ダイニングメッセージでも言い残しそうなパティに耳を傾ける。

「おなか……すいた……のじゃ……」

その一言に遭難したかもしれないという私の緊張感は一気に崩れ落ちた。




「うー。おいしいのじゃ」
「それはよかった」

私がすぐに作ったサンドウィッチを頬張りながらパティは満面の笑みを浮かべた。
話を聞く限りパティもそのお宝?を捜索しているうちにこの樹海で迷子になったらしい。
私は撒きをくべて火をともすと小さな熱が生まれた。
日は落ちてしまい、この焚き火の灯りしかない。

「普通、海賊のお宝って言うのだから海に沈んでたりするものじゃない?」
「ちっちち。エル姐は分かってないのう。そんな古風ばかりではないのじゃ。お宝はいつ何時、落ちているか分からないのじゃ」
「落ちてはいないと思うけど。ソースとかあるの?」
「ん?エル姐はサンドウィッチにソースをかけて食べるのかの?」
「じゃなくて。たとえばお宝の地図はどこで手に入れたとか」
「あー。それは天地の窖のお墨つきのやつじゃ」

それにしてはずいぶんと雑すぎる仕事じゃないか。
こんな子供一人危ない所に踏み込ませるなんて。
いや、うん。
まさか天地の窖もこんな危ない場所にくるとは思ってなかったとか。

「とにかく、パティ。方位磁石か計測器持ってる?」
「持ってるの」
「明日、それで大体の場所を掴んだらここから出よう?」
「お宝がまだなのじゃ」
「それは分かるけど。……なんでそんなにアイフリードのお宝を探してるの?」
「うー……」

少し強く言い過ぎたかも知れない。
パティは顔を赤くしてほほを膨らましている。
どこか瞳を潤ませてじっとこちらをにらむ。

「笑わないで。聞いてくれるかの?」
「ん?」
「アイフリードのお宝、麗しの星(マリス・ステラ)を探してるのじゃ」
「麗しの星、ね」

名前からして聞いたことはなかったけどそれが貴重なものなのだろう。

「うちは周りからアイフリードの孫と言われてるが、それ以降の記憶がないのじゃ。だから」
「記憶がない?」
「記憶喪失らしいのじゃ、信じられるかの」
「……うん、信じるよ」

それは同じ苦しみを分かち合った感覚だった。
パティやましてみんなには秘密にして通してきたが、私は作家として活躍するまでの記憶がない。
パティ一緒だった。
いままで親や兄弟のことを聞かれて答えないでいたことはあったが、それはいつもどおりはぐらかしたいわけじゃない。
それは本当に分からないんだ。
誰もそれをわかってなんてくれないけど。

「本当か?本当に信じてくれるのか?」
「うん」
「やっぱり、エル姐は優しいの」
「優しい性格してると思う?」

そう、にやりと笑うと、「う」と黙ってしまう、パティ。
パティは私と一緒なのだろう。
記憶を求めてその細い糸という手がかりを必死に手繰って求めている。

「とりあえず。明日になったらここを出る。それは譲らないけどね」
「うー」
「ここは魔物も活性化してるみたいだし。ね。私の言うことも聞いて?」
「仕方ない。一宿一飯のお礼もあるからの」
「宿って言うほど立派なことはないけどね」

私はバックから薄手だけど、毛布を取り出すと、パティの体寄せる。

「まぁ、明日のことは明日考えよ?気が変わるかもしれないし」
「奇遇じゃの。同じことを考えてた」
「私たちってやっぱり似たもの同士だったね」

と最後に言葉を交わすと、隣ですやすやと小さく寝息を立てるパティ。
どんなに強がっていても、大人の言葉使いをしていても中身は子供なんだと実感した。




「ちょ!パティ!降りてきなってば!」
「あはは!なかなかいい乗り心地なのじゃ!よかったらエル姐も!」
「乗らないから!ちょっとパティ!」

その翌日、早朝。
出発しようといきこんだ時に事件は起こりました。


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