天を射る矢


「きりがないっ……レイトラスト!」

そろそろ声も枯れてきた。
ダングレストを襲った魔物の襲撃と突然の結界の消失。
その真意を考える間もなくこの唯一のダングレストの出入り口であるこの橋には目を疑うほどの魔物が押し寄せていた。
かなりの数のギルドの人間がここに集まり、魔物の討伐を行っているけどかなりの数が街に入り込んでしまっているようだった。
魔物を討伐や傭兵を生業とするギルドの人間は先陣に立ち魔物を倒している。
幸福の市場や魂の鉄槌のような非戦闘ギルドは住民の避難を行っている。
ダングレストの街が一丸となってこの街を救おうと努力している。

「凍える氷塊!アイシクル!」

私が杖を振り掲げると氷の塊が魔物に振り注ぐ。
氷に当ってよろめいた魔物はそのまま川に落ちて流されていく。

「はぁ!!」

ユーリが声を上げ剣を魔物に突き刺す。
血しぶきを上げて地面に崩れ落ちる魔物。
その傍らには子供を抱く親の姿があった。

「あ、ありがと」
「礼はいい!走れ!」
「は、はい!!」

ユーリの声にびくりと体を震わせ走り去っていく親子。
エステルもカロルもリタも魔物を次々と倒していくが数が多すぎる。
もちろん、ここはギルドの本拠地、かなりの人数がこうやって戦っているけど、間に合わない。
数が多すぎる。

「ぐあああああ!」
「ユーリ!」

肩に抱えた剣を後ろから襲い来る魔物に対応仕切れていなユーリ。
すでに間に合わずユーリの頭上に降りかかる魔物の爪。
もうだめかと思ったその時、ユーリの頭上を掠めたのは一本の槍。
それは目にも留まらぬ速さで魔物の頭蓋骨を貫いた。
こんなことをできるのは恐ろしい怪力の持ち主である、人間。

「さぁ、くそ野郎ども!いくらでも来い!この老いぼれが胸を貸してやる!」

それは聞き覚えのある声だ。
響く老人の声。
その声に連なるように、街の中から現れる完全武装した男たちが現れる。

「ドン?それと」

後ろから続くこの街、ダングレストの守護を主とするギルド、天を射る矢の人間が一斉に魔物に向かっていく。
ドンは圧倒的な怪力とそして統率力を見せて魔物を撃退し、後退させていく。

「さすが……。ユーリ」

杖をホルダーに戻し、ユーリに声をかける。
そのとき、ドンがこちらを見たような気がするけどそれは、うん。
なんて言われようがスルーだ。

「ここじゃ、って」
「あ?」

ユーリの背後に別の集団がこちらに来るのが見える。
街の外から救援に駆けつけたのは重い甲冑に、紅いマント。

「フレン!」
「なんでよりにもよって……」
「魔物の討伐に協力させていただく」

この場に現れたのだろう。
フレン率いる騎士団のメンバーは剣を引き抜き、魔物に向かおうとする。
が、その間に割って入ったのは、ドンだった。
彼はなんと騎士団に刃の切先を向けて言う。

「待てぇい!騎士の坊主はそこでとまれ!」
「!?」
「てめぇらに助けられたとなっちゃ、俺らのメンツがたたねぇんだ!すっこんでろ!」
「いまはそれどころでは」

フレンの言い分ももちろんだ。
今の状況ではそんな悠長なこと言っている場合でもない。
しかし、この街ではそんな正当な言い分が通るところではないのだ。

「はん!どいつもこいつもてめぇの意思で帝国抜け出してギルドやってんだ!いまさらやべぇからって帝国の力借りようって恥知らずいやしねぇ!」
「し、しかし!」
「そいつがてめぇで決めたルールだ!てめぇで守らないで誰が守る!」

そう早口で捲し上げて言うドンに口を挟めないフレン。
ドンの言うとおり、ギルドは帝国に反発し、抜け出した人間が運営する。
それに天を射る矢は特に帝国を頼らず、ずっとこの街を自身の力で守り続けてきた。
今、ここで騎士団の力を借りたとなれば騎士団にも程度を見縊られるし、掟を重んじるギルドから白い目で見られる。
それに、自身の誇りがそれを許さないだろう。

「何があっても曲げねぇ。なるほど、こいつが本物のギルドってか」
「関心してるのはいいけど、ユーリ。ちょっと付き合って」

私がユーリの手を無理やり取ると、リタをみた。
彼女はすぐに事態と私がしたいことを読み取ってくれたようで頷く。
このままやっていても魔物の数は圧倒的。
消耗戦を続けるだけだ。

「どうするつもりだ?」
「結界魔導器を直しにいく。こっちには天才魔導士様がいるしね」
「よし、いくぞ。カロル先生。ちゃんとついてこいよ」
「う、うん!」
「あ、待ってください!」





「逃がすか!バニシングスロゥ!」
「血気盛んだな!爆砕!」

そう軽口を叩いて剣を床に叩きつける。
地面から起こる衝撃波が黒衣の敵に命中した。

ダングレストの結界魔導器の制御盤がある場所に来ると、足元には顔見知りが伸びていた。
名前までは思い出せないが、天を射る矢のメンバーでこの結界魔導器の見張りをしていたはず。
そして例の赤眼の暗殺者が数人、結界魔導器の制御盤をいじっていたこと。
どうやら事の元凶はこの赤目の暗殺者で間違いないらしい。
制御盤の場所を奪還すべく私たちは武器を抜き、一人、二人となぎ払っていく。
リタは火の玉を投げつけ、相手をのすと制御盤の位置を勝ち取り、そのまま修理に入る。
どうやら魔核や制御盤自体は無傷らしく、このまま彼女に任せておけばいいだろう。

「ユーリ、ちょっと危ないからね!サンダースピア!」
「そういうことは先に言えって!」

ユーリの後ろに迫った、一人を電撃で気絶させる。
どうやらこれで全員らしく、ユーリはふぅと息をついて剣をおろす。

「おい、そっちはどうだ」
「今やってるわよ!もう少し……」
「……ぁ」

リタたちと合流してしまった、ユーリ。
私は再び、赤眼の暗殺者たちを見ると、傷などなかったかのように立ち上がってこの場から走り去っていった。
足音もしない、相当な暗殺術を学んだのだろう。

「こら、待て!」

自然と私の足は彼らを追っていた。
それに脳裏に浮かんだのはこれがまたとないチャンスかも知れないと。
彼らは追うのはラゴウのことを聞く、そして何よりユーリからごく自然に(でもないか)に逃げれるかと。
今ではユーリだけではなくドンからも逃げなければ、この事態。
死ぬまで働かされるに決まってる。

私はそのまま彼らの後を追った。


ユーリたちには何も告げずに。




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