帝国騎士団

「先にどうぞ」
「いや、ここはレディーファーストだろ」

ラピードが見つけた屋敷は人の気配などなく、家の壁は修理していないわで入り口のドアも満足に開きやしない。
同行する少女が見つけた無用心な開いた窓の中で俺たちは互いに言い合っていた。

「なんでそんな先に入るの嫌がるんだよ」
「今日スカートだから」
「それだけか」
「それに中に入って何かあったらすぐに置いて逃げられるじゃない。あ、あくまでこっちはついでね」
「そっちが本心じゃねぇか。ったく」

本当に話しにくいというか性格のよろしいお嬢様のようで。
口の悪さならそれなりに負けはしないだろうけどな。
とにかく本人と話し合っていても後手を譲る気はないようなので窓の桟に足をかけ一気に中に進入する。
中は薄暗く、光は窓からしかうっすらとしか差し込まない。
暗くてよく見えないが人の手が入ってなかったとはいえそこは貴族様のお屋敷。
美術品やら装飾品やらがところどころに飾られている。

「で、なにやってるんだ」
「いや、足が上がらなくて」

窓の外に目をやれば俺がやったようになかなか足をかけられず、苦悩している少女。
ラピードだってこれくらい乗り越えてくるぞ。

「おら、手をかせ」
「あ、はい」
「よっと」
「うあっ」

と少女の手を引くと一気に引くとお互いバランスを崩したてそのまま倒れこむ。

「なかなかいいクッションですね」

俺の胸に顔をうずめてぼそりと呟く少女。
奇妙な言い回しをしてるものの、その顔はさっきよりも赤くはれている。
さすがに男の上に倒れこむのには羞恥心だけはあるらしい。
そんな始めてみる少女の表情に俺も口元がゆるんだ。
こうして近くで見てもかなりの美人さんだしな。

「こっちこそいい眺めだぜ」
「あ、そうですか」

態とやったんじゃないか?
そんな疑いを含んだジト目でこちらを見続ける少女をよそに俺は埃を払い立ち上がる。

「ほらよ」
「ありがとうございます」

手をさし伸ばしてやれば素直にそれを受ける少女。

「……ユーリさんの手は冷たいんですね」
「それがどうしたよ」
「いや、手が冷たい人は心だけは温かいっていうので」
「だけはってなんだよ」

よいしょとと声をあげて立ち上がる。
こうして昨日からこの少女と会っているが大切なことを聞いてない。

「そういや、お前なんていうんだよ」
「なにがです?」
「名前がだよ。俺の名前は一方的に知ってるんだろ」
「あー。そうですね。そうでした」

うんうんととうなずき、私はと言いかけたそのときだった。
このだだ暗いに扉の開く音が響いた。

「ユーリさん」
「しゃあねぇ。行くか」

と、二人で音のした方へと走り出す。
なんで毎回毎回こう邪魔ばかり入るか、と自分の運の悪さをのろっても仕方ない。
それよりも今は魔核泥棒を見つけるのが先だった。

音のする方にくると一人の怪しい影を見つける。
それは目深にかぶったマントに隣の少女と同じぐらいの背丈(こいつも子供なりに小さいが)
それに手には大きな袋が握られている。

「おし、お宝発見」

俺は鞘に収めたままだが剣をモルディオに突きつけた。
ラピートも足元でモルディオを威嚇している。
少女は少し離れたところでそれを観戦している。

「っち」

そんな聞こえるか聞こえないかくらいの舌打ちが聞こえるとももそもそと懐から何かを取り出してそれを地面にたたきつけた。
もくもくと煙が上がると同時に阻まれる視界。

「くそ」

手でその煙を払ったときにはモルディオの姿はもうそこにはなかった。
しかし、ただじゃ逃がしはしない。

「よくやったな、ラピード」

ラピードが聴覚と嗅覚を頼りにモルディオから荷物だけは奪取してた。
なぜかそれを少女に渡す。
ラピードはなぜかこの少女をえらく気に入ったらしく足元に擦り寄っている。
ありがとうと撫でるとその袋を受け取り中を調べる。
本来俺の仕事のはずなのに。

「魔核は入ってないね」
「まじでか?」
「うん、中はまぁ、それなりのお宝はお宝だけど」


と、俺も中を探ると確かにと小さくため息を付く。
中にはそれなりの金額とあとハンクス爺さんが言っていたであろうばあさんの形見も入ってるし。

「とにかく、追わなくていいの?」
「そうだったな」

と、中から鍵が掛かっていたドアを無理にけり破ると新鮮な空気が交差する。
屋敷から街へと必死に逃げていくモルディオの姿が目に入る。

「っと」

走り出そうとしたときだった。
後ろで俺の名前を呼ぶ少女の声を聞き振り向けばまずった、そんな表情を浮かべている。

そして騒がしく現れたのは決して再会を望まなかった顔ぶれだった。

「騒ぎと聞きつけて来てみれば貴様なのであるか、ユーリ」
「ついに食えなくなって貴族の屋敷に泥棒とは貴様も落ちたものだな」

あぁ、二度と会いたくなかったよ。
このでっかいのとちっさいの。
片方は視界に入れるのも困難なチビともう片方はただの独活の大木。
騎士をやっているのも不思議なお笑いのコンビだ。

「なんだ、デコとボコか」
「ユーリさん知り合い?」

半分、柱に隠れた少女が問う。
そんなわけないだろうと切り捨てた。

「デコというなであーる」
「ボコじゃないのだ!」

おーおー今日も息がばっちりだな。

『そして暇じゃないのだ!』

息ぴったりと賞賛の拍手を贈る少女。
いや、しかし。
こんなやつをまともに相手にしていたらモルディオのやつが逃げ切りやがる。
いくぞと声を掛けて走りだそうとしたときだった。

「逃げようとしてもそうは行かないのだ!」
「はぁ、逃げているように見えるか?だから出世も見逃すのか?」
「なんという暴言か!」
「「取り消すであーる!」

本当のこと言っただけだけどな。
こいつらも俺なんかより追うべき相手がいるだろうに。
と、少女が

「私はいこうかな」
「お前、俺を置いて逃げるのかよ」
「騎士が来るなんて予想してなかったもの。私前科者になりたくないし」

と、少女は走り出すのを止めようとしたときだった。
デコとボコは少女を見ると。

「ユーリ貴様」
「ついに誘拐まで手を染めたか?」
「は?」
「……」

ぴたりと動きを止めた少女。
勝手についてきたのに、なんでそんな話になる。
本当コイツら人間ができていないというか、物事の本質を見極められないやつ。
一般的には個性がないやつ(外見の個性はあるのに)

「はぁぁぁあぁ!!」

と、いきなりこちらに槍と剣を向け襲い掛かってくる二人。
仕方ない、こいつらとなにを言い合っていても時間の無駄だ。
剣から鞘を抜くと、それで空を切る。

「蒼破!」

空気の衝撃破がデコとボコをふっとばす。
近くの柱に激突するとそのままぐったりと動かなくなる。
実力差は元から明らかだったろうに。

「おー。お見事」

ぱちぱちと再び拍手が後ろで聞こえる。
と、鞘を拾って収めて貴族街を抜けようとしたときだった。

「さすが無能なシュヴァーン隊。こんな下民どもを捕まえられないとは、無能だね」

来たか、変態。
キュモール隊長。
隊のイメージカラーでもあるピンク全身包んで騎士とは思えない露出に全身震えも止まらなくなる。
実力も統率力もないくせに金で騎士の隊長の地位を買った、体の心まで腐った貴族やろう。
キュモールをはじめ、騎士の連中が数十人に囲まれている。
これはちょっとやばい。というか相当暇なんだな、こいつら。

「こ、これはキュモール隊長、お見苦しいところを……」
「君たちみたいな生まれの卑しいヘナチョコ隊、騎士団には要らないんだよ」

「ぐ……しゅ、シュヴァーン隊長にはご内密にお願いします」
「逃げたのが魔核泥棒なのは逃がしたのは税金泥棒かよ」

と、いってラピードに視界を送るとラピードは袋を咥えて走りだす。
この人数じゃさすがに抵抗しても厳しい。
なんだかんだで袋の中身も持っていかれたらここまで来た意味もない。
あとは、この少女だが。

「飼い犬にも見捨てられるとはこれは傑作なのであーる」
「ぎゃははははは!!」
「毎度毎度、忙しいねユーリ・ローウェル君。僕もいそがしいけどちょっとだけ遊んであげるよ。君には僕のキュモール隊がね」
「お前たちがそんなんだからフレンが大変なんだろ」
「あんな成り上がりの小隊長には苦労がお似合いだよ」

騎士たちが取り囲む、逃げろと少女に声を掛けるが少女は呆けているのかその場から動こうともしない。
それにしてもこの状況にあっても怯えることなくあたりを見渡している。
どんだけ肝が据わってんだか。

「おとなしくしてろよ」
「言われなくてもそのつもり」
「そうかい」
「そっちの女も抵抗するつもりなら構わないよ。無傷でいたいなら黙ってみているんだね」
「……」


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