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なんだか良い匂いがする。
匂いに釣られて寝ぼけ眼を擦りながら起き上がると隣に寝ていたと思われるトシくんの姿が見えなかった。
僅かに痛みのある腰と、日頃の運動不足のせいか、僅かに筋肉痛未満の内腿に昨夜の名残を感じて一人で恥ずかしがってみる。
そういえば身体がさっぱり綺麗になってる。もしかしてトシくん…そのまま寝落ちた私を抱えてシャワー、浴びさせてくれたのかな。
シャンプーの匂いの髪の毛をクンクンと匂いを嗅ぎながらダイニングへ行くと愛しの旦那様が私がいつも使っている水色の可愛いエプロンを身に付けながらキッチンに向かっていた。
「お、起きたのか」
私の存在に気がついたトシくんがフライパン片手に声をかけてくれたけど、私はそんなことより初めて見るエプロン姿のトシくんに目が釘付けで返事より先にトシくんの服を指差して首を傾げてみせた。
「…たまにはな。昨日も疲れてるところに無理させちまったからな」
なにを意味しているのかすぐに察して顔を真っ赤にする私にトシくんは少し笑った。
でもトシくん、決して料理は得意でない筈なのに…私のために朝からご飯を作ってくれるなんて優しすぎるよ。
トシくんが頑張ってくれてるのに私だけ待っているだけなのは嫌だからキッチンに入って行って「何か手伝いある?」と聞いてみたけどトシくんは
「いいから、今日は待ってろよ」
って私をダイニングテーブルに座らせたからしょうがない。おとなしく待つことにした。
待つこと暫し、トシくんが頑張ってくれた朝食がテーブルに並べられて二人でそれを囲んだ。
普通のご飯が食べにくい私のためにつくってくれた玉子粥に野菜炒めと豆腐のそぼろ餡かけ。
どれもまだお互いに独り暮らしだった時、不摂生な食事ばかりだったトシくんに私が教えたものだ。
野菜炒めを食べると少しだけ私が作るよりもしょっぱいけれど私の味によく似たそれに、トシくんの中に確かに築かれた私との思い出があるのを感じてなんだか嬉しくなった。
長いこと一緒に居るのに結婚という大きな節目を迎えたせいか、トシくんと過ごす毎日も少しだけ新鮮で、でも大きな安心感に包まれていて穏やかな時間がここには流れてる。
そっか、トシくんはもう私の旦那様なんだよね。
「おい、さっきから何ニヤニヤしてるんだよ?早くたべちまえ」
呆れたように言ってるけど口元は優しそうに三日月を描いていて。
やっぱり幸せ。
私は更ににやける表情筋は直さずにお粥を頬張った。
昨日式を終えて、私たちは今日から本当の夫婦になれたんだから明日も明後日も、十年先もずっとこの穏やかな時間を過ごせると信じてる。
いつか子供ができても、おじいちゃんとおばあちゃんになっても、たまに喧嘩しちゃっても…ずっとずっと、トシくんと一緒が良い。
ねえトシくん、幸せをたくさんくれてありがとう。これからもよろしくお願いします。
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